第403話 出迎え
ソフィアさん率いる、総勢百人ほどの騎士や冒険者、傭兵たち──フェンリル討伐部隊の本隊が都市レゼリアに到着したのは、朝と呼ぶにはずいぶん遅く、昼と呼ぶには幾分か早いぐらいの時刻だった。
俺たちは彼女らを、南門で出迎えたのだが──
「ダイチさん……! よかった、まだフェンリルは到着していないようですね」
馬上のソフィアさんが、やや焦った様子で声をかけてくる。
弓月が疑問の声を漏らした。
「ん……? フェンリルならだいぶ前に来て、うちらが倒したっすよ」
「は……?」
ソフィアさんは首をかしげる。
彼女は指先で目元を押さえ、空を見上げてから、俺たちのほうへと向き直ってこう聞いてきた。
「まさか……ダイチさんたち三人だけで、フェンリルを倒したということですか……?」
「私たちだけじゃないです。このレゼリアの衛兵や冒険者たちにも手伝ってもらいました」
そう答えたのは風音だ。
対してソフィアさんは「はあ……」と腑に落ちていない様子だった。
どうやらソフィアさんは、俺たちに先行の許可は出したものの、その意図までは計りかねていたらしい。
高レベルの覚醒者なりに、何か計り知れない思慮があるのだろう──そう考えて俺たちを送り出したが、まさかフェンリルを討伐してしまうとは思っていなかったと。
今さら言えない。
完全にノープランで、とりあえずフェンリルより先に現地にたどり着けば選択肢が増えるだろう、程度にしか考えていなかったとは。
そこに荒くれ傭兵団のリーダー、ヴィダルが口を挟んできた。
「ハッ、『手伝ってもらった』ねぇ。このレゼリアにいる程度の戦力で、アレが落とせるはずもねぇ。文字通り『手伝った』だけで、だいたいお前らがやったんだろうが」
周囲の覚醒者たちが騒めく。
「じゃあやっぱり、ほとんどこの三人だけで……」「嘘だろ……?」などといった声があがっていた。
それに対して、俺はこう答える。
「そうですね。フェンリルにダメージを与えたのは、九割がた俺たちだと思います。でも彼らの手助けがなければ、負けていたのは俺たちのほうだったかもしれません」
「無駄な謙遜だな。テメェらの戦果を誇ればいいものを」
「命を懸けて戦ったのは、俺たちだけじゃないってことです。彼らの勇気は讃えられるべきですし、それには意義がありました」
「そうかい。まあいい、お前らがそう言うなら、そういうことにしておけよ」
ヴィダルは手をひらひらとさせて、あきれた様子を見せていた。
その後、ソフィアさんがあらためて、俺たちに向かって頭を下げてきた。
「ダイチさん、カザネさん、ホタルさん、本当にありがとうございました! 我が国の多くの民を救ってくださったこと、国を、王族を代表して、心よりお礼を申し上げます」
再敬礼で深々と頭を下げる赤髪の王女。
彼女の背後に控える数十人の騎士たちも、やや戸惑った様子ながら、それに倣って頭を下げた。
少し待っても、ソフィアさんは頭を上げようとしない。
騎士たちもそれに倣っている。
俺は慌ててしまった。
「あ、えっと……頭を上げてください、ソフィアさん。この街の人々を守りたいと思ったのは俺たち自身の意志ですし」
するとソフィアさんはようやく姿勢を戻し、柔らかな微笑みを向けてきた。
「ありがとうございます。ダイチ様たちは、心根まで真の勇者なのですね。感服いたしました」
「あ、いや、それもちょっと違う気が……」
あの、経験値……ミッションを達成すると、経験値がもらえるんですよ。
私利私欲が混ざっているんですよ。
などと言える空気でもなく。
あとなんで俺の呼び方、様付けになっているの?
とまあ、そんなこんながありつつ、レゼリアの市内に入市したおよそ百人の覚醒者たち。
すでに「フェンリル討伐部隊」としての役割は失った一行だが、構うことなく、市内の集会所を借りて作戦会議を始める。
それはフェンリル討伐を果たした後に行なわれる予定であった、この部隊のもう一つの任務についての会議だった。
「それでは『氷の女王』の探索と討伐について、作戦を詰めたいと思います」
会議の場で司会を務めるソフィアさんが、そう宣言した。
書籍版5巻発売まで、1週間を切りました。
2025年2月28日、発売予定です。
よろしくお願いします!
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