表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

402/448

第402話 勝利の後

「先輩~!」

「大地く~ん!」

「うわっ!」


 風音と弓月が俺に飛びついて、抱き着いてきた。

 心の準備ができていなかった俺は、支えきれず、押し倒されてしまう。


「勝ったっすよ、先輩!」

「大地くん、大地くん、大地く~ん!」


 抱き着いて、身を寄せて、とにかく密着して愛情を伝えてくる。

 大型犬が飼い主に飛びついて懐いてくる様子に似ている……と思ったら、風音に失礼だろうか。弓月はいいや。

 それにしても──


「ちょっ、二人とも興奮しすぎじゃ……。ていうか弓月、怪我は大丈夫なのか?」


「ん、全快してるっすよ? バリバリ元気っす。でも服はだいぶ破けちまってるっす」


「それは修復されるまで隠しておかないとだね。大地くんとグリちゃんは大丈夫? ブレス攻撃に巻き込まれていたみたいだけど」


「ああ。こっちも治癒魔法をかけてもらったおかげで、大したダメージは残っていない」


 少し落ち着いたところで立ち上がり、俺は自身とグリフに治癒魔法をかけてHPを全快させる。


 一方ではほかの治癒魔法使いたちが、ブレス攻撃を受けて倒れた覚醒者たちに治癒魔法をかけて、その傷を癒していた。


 どうやら命を落とした人はいないようだ。

 よかった。

 完全勝利と言っていい結果だろう。


「思っていたよりは、楽に勝てたかな?」


「ああ。もっと苦戦するか、全滅する可能性も想定していたけど」


「わりと瞬殺できた感じっすよね」


「弓月の火属性魔法が、文字通りに火を噴いたってところか」


「たまには謙遜するっすけど、うちばっかりじゃないっすよ? 先輩がいて、風音さんがいて、グリちゃんがいて、ほかの人たちもいたからこうやって勝てたっす。当たり前っすけど。でもいつも通り褒めてくれてもいいっすよ♪」


 弓月が帽子を外して、ご褒美を催促する仔犬のような表情で俺の前に立つ。


「わ、私も……火垂ちゃんと一緒に、褒めてほしいな」


 風音もおずおずと、少し恥ずかしそうにしながら弓月の隣に立ち、頬を赤らめた上目遣いで俺を見つめてきた。


 相変わらずどうしてこうなるのか、よく分からない状況だが──


「ああ、風音も弓月も、よく頑張った。二人ともありがとう」

「「えへへーっ♪」」


 俺が両手で二人の頭をなでなですると、二人は嬉しそうに顔をほころばせた。

 いつも思うけど、そんなに嬉しいものかな。


「グリちゃんも、よくやってくれたっすね~。頑張ったっすよ~」

「クア~ッ♪」


 弓月は次に、グリフをなでて褒めていた。

 グリフは嬉しそうにしていたが、しかしちょっと物足りないという様子で、俺のほうを見てきた。


 俺は苦笑しつつ、グリフの頭部もなでてやった。


「グリフもよく頑張ってくれた。お前がいてくれて助かったよ」

「クアーッ♪」


 グリフは今度こそ大満足という様子で、上機嫌な鳴き声をあげた。


 なんというかこう、いつもながら、戦闘後の儀式が長い。

 と思っていると──


「大地くんだけ褒められてないよね」

「そっすね。先輩のことも、うちらでなでなでするっすよ」

「えっ」


 風音と弓月が、歩み寄ってきた。

 俺が後ずさろうとすると、風音が素早く背後に回って、退路を断った。


「い、いや、俺は別に……いいから……」

「まあまあ、大地くん。遠慮しないで」

「怖くないっすよ~、先輩。うちらに全部任せておけばいいっすからね~。ほら力を抜いて、身をゆだねるっすよ……」


 結果、俺は風音と弓月に「頑張ったね、大地くん」「いつもありがとうっす」などと褒められたり感謝の言葉を伝えられたりしながら、しこたま頭をなでなでされた。


 風音に頭を抱きかかえられて、黒装束に包まれた胸に顔が埋まった状態でなでられたりもした。

 柔らかくて、いい匂いがした。


 なんというかこう、悪い気はしなかったが、ちょっと赤ん坊になった気分だった。

 ママぁ……。


 ──とまあ、そんなおかしな世界を展開し、いつも通りにまわりの覚醒者たちから困惑されたことはさておき。


 戦いを終えた俺たちは、倒れた覚醒者たちを運んで、都市レゼリアの市内へと帰還した。

 そして避難をしていた市民たちに、フェンリルを討伐したことを伝えた。


 市民たちの中には歓喜の声をあげる者もいれば、だったら避難する必要はなかったじゃないかと不満の声を漏らす者もいたが、それは仕方のないことだろう。

 彼らと俺たちとでは、見えている景色が違うのだから。


 なお【遠見】のスキルを持った例の衛兵が、市民たちの中にいたお腹の大きな女性のもとに駆け寄って、涙を流しながらその女性を抱きしめている姿を目撃したりもした。


 ともあれ。

 いずれにせよ俺たちには、真なる報酬が配られたのだから、それで十分だ。

 真なる報酬とは、もちろん──


───────────────────────


 特別ミッション『フェンリルを討伐し、レゼリアの住民を救う』を達成した!

 パーティ全員が300000ポイントの経験値を獲得!


 ミッション『フェンリルを1体討伐する』を達成した!

 パーティ全員が300000ポイントの経験値を獲得!


 新規ミッション『氷の女王を1体討伐する』(獲得経験値350000)が発生!


 六槍大地が60レベルにレベルアップ!

 小太刀風音が58レベルにレベルアップ!

 弓月火垂が59レベルにレベルアップ!


 現在の経験値

 六槍大地……4186404/4550329(次のレベルまで:363925)

 小太刀風音……3761236/3780829(次のレベルまで:19593)

 弓月火垂……4037951/4149011(次のレベルまで:111060)


───────────────────────


 そう、ミッション達成経験値だ。

 30万ポイントのダブルで、合計60万ポイントの経験値をそれぞれが獲得した。


 加えて俺は、フェンリルにトドメを刺した分で、さらに多くの経験値をもらっていた。

 結果、一気に3レベルアップ!

 弓月も2レベル、風音も1レベルの向上を果たしていた。


 そして連鎖するかのように、大変嬉しい新規ミッションが出た。

 入れ食い状態で、逆に怖くなるぐらいだ。


 なおその後、ソフィアさん率いる王都からのフェンリル討伐部隊本体が到着したのだが。

 それは俺たちがフェンリルを討伐してから、ゆうに二十分以上が経過した後のことであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ