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第391話 勝負

「だいたいあなたたち、相場の十倍以上の報酬要求って、そもそもがめつすぎるんじゃないですか? それ私たちの報酬と同額なんですけど? あなたはともかく、後ろの人たちにそれほどの実力があるんですか?」


 ……あ、言っちゃった。


 ソフィアさんが「カ、カザネさん、今それを言われては」と焦る様子を見せる。

 風音は「ん?」と首を傾げてから、「あっ」と失言に気付いたような声を漏らした。


 ソフィアさんは予算に限りがあるからと、一人あたり金貨50枚での依頼受諾を相手方に要求していたのだ。

 そこで俺たちが、その十倍の報酬額を約束されていますよと明かしたらどうなるか。


 あの荒くれ者たちにしてみれば「なんであいつらには十倍払って、俺たちには払わないんだ」と、当然そうなるだろう。

 ただでさえ厄介な話が、さらに拗れることは想像に難くない。


 だが荒くれ者たちのリーダーの反応は、予想していたものとは少し違っていた。

 彼はまたバリバリと頭を掻き、風音に対してこう返した。


「同業者にそういう動きをされちまうと、こっちも商売あがったりで困るんだが──あんたたちもこの討伐に参加するってことでいいんだよな?」


「え、ええ。そうですけど」


 風音は相手の様子に戸惑いながら、そう答える。

 リーダーの男は口元に手をあてて思案する様子を見せてから、次にはこう言ってきた。


「じゃあこうしようぜ。あんたたちが俺たちの十倍の報酬を受け取るに相応しいってんなら、その実力を見せてくれよ」


「は……?」


「あんたたち三人と、俺たち十五人とでバトルしようって言ってんだよ。全員が戦闘不能になるか、降参したほうの負けってことでよ。どうだ?」


「えっ……で、でも……」


 風音は戸惑いの様子を見せ、次にはどうしようという顔で俺のほうを見てきた。


 俺はというと「そう来たか」と思っていた。

 十倍の報酬を受け取るに相応しい実力があるというなら、自分たちと戦って証明してみせろと。


 人数は三対十五。

 しかもリーダーが限界突破していることが見えている。


 そしてここで、ピコンッ。

 特別ミッションの通知が出てきた。


───────────────────────


 特別ミッション『荒くれ者たちとの勝負を受け、勝利する』が発生!


 ミッション達成時の獲得経験値……150000ポイント


───────────────────────


 ……出ちゃったかぁ。


 しかしいつも思うが、この特別ミッションというのは、どういう仕組みになっているんだ?

 今のとか、風音たちが動かなかったらこの状況になっていなかっただろうに。

 まあその辺は考えても仕方がないのだが。


 一方では、荒くれ者たちが、一斉に笑い出した。


「ギャハハハッ、そりゃあアニキの言うとおりだ!」


「だよな。なんでか知らねぇが、お前ら十倍の報酬もらうんだろ? だったら俺たちの十倍強くなきゃダメだよなぁ?」


「ハイ論破~! お前ら三人で、俺たち全員を倒してみせてくださ~い」


「お前らが負けたら、お姫様とお嬢ちゃん二人も混ぜて輪姦祭りだからな? それでいいよな? イチャモンつけてきたのはそっちなんだからよぉ。責任は取ってくれるんだよなぁ?」


「俺たちが負けたら、お姫様の言い値でフェンリル討伐に付き合ってあげまちゅからね~」


 一方でリーダーの男は、彼らの前で大きくため息をついて「お前らがそんなだから、放っておけねぇんだよ」などとつぶやいていた。


 しかし特別ミッションが出たはいいが、輪とか姦とかは当然ながら論外だ。

 負けなければいい話とはいえ、万が一にも呑める条件ではない。

 さすがにこの特別ミッションは却下か?


 でも負けたら命を落とす過酷な戦いはこれまで何度も経験しているし、15万ポイントという獲得経験値も安易に無視しがたい水準だ。

 クラーケンやヤマタノオロチを相手にしたのと比べると、こいつらの相手ぐらいどうということは……いや、しかし……。


 ……ん、待てよ?


 特別ミッションの達成条件は「勝負を受け、勝利する」か。

 だったら──


 俺は風音と弓月の了承を得てから、前に進み出ると、荒くれ者たちのリーダーにこう返した。


「条件の確認と修正です。まず俺たちが勝った場合は、あなたたちはソフィアさんが最初に提示した対価で討伐に参加する。もちろん手抜きはなしです」


「おう、そうなるな。それが確認だとして、修正ってのは何だ」


「あなたたちが勝った場合です。その場合、あなたたちがソフィアさんに望んだ対価──つまり金貨1万枚との差額を俺たちが代わりに支払うことで、あなたたちはフェンリル討伐に参加する。そういうことでよければ」


 俺はそう言って、【アイテムボックス】から金貨や大金貨が大量に詰まった革袋を取り出して、その中身を示してみせた。


 袋の口から黄金色の輝きが露わになると、どよっと騒めきが起こる。

 袋はさほど大きくないものだが、それでもずっしりとした重みがあった。


 直近で確認したときには、この中には金貨にして9000枚相当ほどの金額が入っていたはずだ。

 日本円にしておよそ9000万円相当。


 俺たちのほぼ全財産が、この中に入っている。

 スキルスクロール等の所持品を売り払えば、もっと出てくるだろうが。


 それに加えて、このフェンリル討伐の依頼を達成すれば、金貨1500枚相当が入ってくる。

「もう一つの依頼」も含めれば、さらに1500枚相当追加で、合計3000枚相当の報酬だ。


 風音や弓月の体を差し出せなんて要求は、万が一にも吞めないが、お金ならばまた稼げばいい。

 最悪のケースでも呑める条件として、俺はこの方法を考えついた。


 荒くれ者たちのリーダーは、わずかに顔をしかめる。


「女はやれねぇが、金なら出してもいいってわけだ。リッチなことで羨ましい限りだが──こっちから言っておいてなんだが、そんな大金、お前らにとっても安い額じゃねぇだろ。それを賭けて、お前らに何の得がある」


「別に。気に食わないものを、俺たちの思い通りにしたいだけです。支配欲みたいなものだと思ってくれてもいいですよ」


 わりと口から出任せである。

 当初の動きとしては、あまり間違ってない気もするしな。


 するとリーダーの男は一度、きょとんとした顔を見せた。

 それから少しして、こらえきれないという様子で笑い出した。


「ぷっ……はははははっ! そうかよ。いいぜ坊主、気に入った。──ってわけだ、お前らもそれでいいか? 二言は無しだぞ」


 そのリーダーの言葉の後半は、彼の後ろにいた荒くれ者たちに向けられた。

 荒くれ者たちは、戸惑いの様子を見せる。


「え……なんか、アニキの様子がおかしくねぇか……?」


「あ、ああ。まるで俺らが負ける可能性があるみてぇな……」


「い、いやいや、ねぇって。──そんなことないっすよね、アニキ?」


「アニキじゃねぇ、団長と呼べ。で、どうするんだ、この話。やるのかやらねぇのか。負けたら一人あたま金貨50枚ぽっちのはした金で、あのバケモノとやり合うことになる。勝ったらその十倍の大金ゲットのチャンスだ。お前らが選べ」


「ど、どうするって……」


 荒くれ者たちは、互いに顔を見合わせる。

 だがすぐに、彼らは威勢よく声をあげた。


「んなもん、やるに決まってんでしょアニキ!」


「あの三人を俺ら全員でボコにすりゃあ、あの金貨袋が俺らのもんってことっすよね!? やらねぇわけねぇでしょ!」


 荒くれ者たちは全会一致とばかりにわき立っていた。


 リーダーの男はため息をつきながら「お前ら、もうちょっと知性ってもんをよぉ……」などとつぶやいていた。


 向こうの話がついたようなので、俺はもう一人の当事者に問う。


「ソフィアさんも、それでいいですか。少し時間を取るのと、MPなどのリソースがやや削られると思いますが」


「え、ええ。まだ伝令も帰還していないですし、連戦や長期戦を想定しているわけでもないですから、大きな問題はないかと思いますが……でも……」


「彼らを戦力として使いたいなら、ほかに通せる道、多分ないですよ。ソフィアさんが自ら進んで彼らの慰み者になりたいなら、話は別ですけど」


「そ、そんなことは! ですが……いえ、分かりました。よろしくお願いします」


 ソフィアさんは何かを覚悟したような表情で、深々と頭を下げてきた。

 何を考えているのか分からないが、ともあれこれで決まりだな。


「街の中で武器を振り回すわけにもいかねぇ。表に出ようぜ」


「そうですね」


 荒くれ者たちのリーダーと俺は、ともに並んで王都の出口へと向かっていく。

 ほかのメンバーらも、それに続いた。


 グリフが弓月の帽子の上から飛び立ち、俺の元にやってくる。

 俺が抱きとめると、わが従魔は「クピーッ?」と鳴いて、かわいらしく小首を傾げた。


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― 新着の感想 ―
何度読んでも国が報酬出し渋ってるのが問題だよなぁ マジで金貨50枚=50万でやらせる仕事じゃなさすぎる これじゃ主人公たちのが分かってないダメダメな感じで残念
3人ではなく俺たちにしておけばグリフも参戦できたのになぁ…あれ? 「俺たちが勝った場合」って言ったときに3人って言ってないからもしかしていけるのか…
そこは戦力と練度を量るための模擬戦だと言うべきでは? 建前として。
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