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朝起きたら探索者《シーカー》になっていたのでダンジョンに潜ってみる 〜1レベルから始める地道なレベルアップ〜  作者: いかぽん


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第372話 しもべとなった者の末路

「──っ! じゃあ『しもべ』を無視して、先に親玉のヴァンパイアを倒せばいいっすか?」


 弓月がテーブルに手をついて、立ち上がる。

 意外と──と言うのもなんだが、こいつは人情が絡む案件で、強いウェットさを見せるときがある。


 だがギルドマスターは難しい顔をしたままだった。


「そう簡単な話でもない。別の三件の事例で、『しもべ』を倒さずにヴァンパイア本体を倒しても、『しもべ』は独立したモンスターとして徘徊を続け、人に危害を加え続けたとあるのだ」


「えっ……じゃ、じゃあ、人間に戻ったときとは何が違ったんすか?」


「だから、それが分からんのだ。戻った事例では、ほかの事例と比べて『しもべ』にされてからの時間が短かったことや、その『しもべ』が元冒険者だったことなどが検討するべき材料としてあげられているがな。そうであれば必ず助かるという保証はない。元冒険者でも『しもべ』になってから日数が経っていたケースでは、ヴァンパイア本体を先に倒しても元には戻らなかったそうだ」


「…………」


 沈黙が、場を重く支配した。

 ギルドマスターは、なおも言葉を続ける。


「それらが条件であるかどうか、それすらも分からんのだ。別の条件が鍵かもしれんし、あるいは最悪、間違った記録が残っている可能性も疑える。何にせよ十分な情報がないのが現状だ。何をしても戻らない可能性も想定しておくべきだろう」


「……つまり現状ある情報の範囲で、できる限りをやってみるしかないということですか」


 俺がそう整理すると、ギルドマスターは「そうだ。理解が早くて助かる」と言って、大きくため息をついた。


 重たい話だ。

 首尾よく諸悪の根源を討伐できたとしても、失われたものが戻ってくるとは期待できない。

 モンスターと人間の戦いはそういうものだとしても、やり切れないものがある。


 なおこのとき、ピコンッと脳内で音が鳴り、かつて見たことのないミッションが視界に表示された。


───────────────────────


 シークレット特別ミッションが発生!(ミッション内容は明かされません)


 ミッション達成時の獲得経験値……30000ポイント


───────────────────────


 なんだこれ、と思った。

 ミッション内容が明かされないでどうしろと?


 風音や弓月も首を傾げていた。

 それはそうだろう。


 気にしてもしょうがないと結論付けて、このシークレット特別ミッションとやらは見なかったことにした。


 その後、いくつかの事項を確認してから、俺たちは会議室を出た。

 時間の勝負となる可能性が想定できるのだから、できる限りすぐに動きたいと思った。


 だが廊下に出たところで、ちょうど奥の部屋から出てきた狼牙族の少年と出くわした。


 目の下を腫らし、憔悴した様子だったが、少年は俺たちの姿を見ると慌てた様子で駆け寄ってきた。


「姉ちゃんを怪物にしたっていう、モンスターを倒しに行くんですよね!? だったら僕も一緒に連れて行ってください! 姉ちゃんが怪物になったなんて、絶対に嘘なんだ! もしそうだったとしても、僕が必ず姉ちゃんを元に戻すから! だから……!」


 付き添いのギルド職員の制止も振り切って、風音にすがりついてくる少年。

 言っていることは支離滅裂で、現実と願望の区別がついていないように思えた。


 風音は困った様子で、俺を見てくる。

 俺は少しかがんで、少年と目線を合わせ、声をかけた。


「『お姉さんを元に戻す』って、どうやって?」


「そ、それは……分からないけど、でも……そうするしか……じゃないと……ぐすっ……ううぅっ……」


 少年はまた、ぐすぐすと泣き出してしまう。


 男がメソメソと泣くな、などと言う気にはなれなかったし、ほかにかけてやれる言葉も思い浮かばなかった。


 ──本当は、こんなことを言うべきじゃないんだろう。


 嘘をつくことで一時的に彼の気持ちに寄り添ったって、悲しみを先に引き延ばすだけだ。

 場合によっては、彼の憎悪の矛先が俺たちに向くことだって想像できる。


 そんなことは分かっていつつも、俺はこう口にしてしまっていた。


「お姉さんのことは、俺たちが必ずなんとかする。だからキミはこの街で待っていてくれ」


「え……なんとかするって……姉ちゃんを、助けてくれるの……?」


「ああ、任せてくれ。俺たちはこう見えて、この冒険者ギルドにいるほかの誰よりも強い、最強の冒険者なんだ」


 そう言って、少年を安心させるように笑いかける。

 ちゃんと頼りがいがある風に笑えているだろうか。


 今このギルドにいる冒険者たちの中で、俺たちが最強であるというのは、おそらく嘘ではないだろう。


 だが実際には、強かろうがなんだろうができないことがある。

「必ずなんとかする」だなんて、この場限りの嘘っぱちでしかない。


 少年は、服の袖でぐしぐしと涙を拭くと、一歩引いて俺たちに向かって頭を下げてきた。


「分かった。ううん、分かりました。よろしくお願いします!」


 俺はそれにうなずいて、立ち上がる。

 そして風音、弓月を連れて階段を下りていった。


 三人で冒険者ギルドを出たところで、弓月の声。


「先輩、あんなこと言ってよかったんすか?」


「ダメだな。いいわけない。俺はとんだクズの嘘つきだよ」


「でも大地くん、格好良かったよ。──もうこうなったら、嘘を本当にするしかないよね」


「と言っても、何ができるわけでもないからな。できることをやるしかない。祈ろう」


 最低限の準備を済ませた俺たちは、村人の案内でミドナ村へと向かったのだった。


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