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朝起きたら探索者《シーカー》になっていたのでダンジョンに潜ってみる 〜1レベルから始める地道なレベルアップ〜  作者: いかぽん


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第362話 ロック鳥との戦い

 少年たちが茂みに隠れて様子を見守る中、否応なしに戦いが始まった。


 誘拐犯の男たちは、各々が得意とする武器や魔法で巨大モンスターを攻撃する。

 だがそれらは、致命傷を与えるに足る十分な打撃とはならない。


 対するロック鳥は、男たちの元まで舞い降りると、両のかぎ爪で矮小な人間の覚醒者たちを次々と引き裂いていった。


「がああっ! パ、パワーが違いすぎる……!」


「だから勝てるわけねぇんだよ! 逃げるしかねぇって──ギャアアアアッ!」


「ちくしょう、こんなところで死にたくねぇよ……! いやだ、やめろっ──うわぁあああっ!」


 勝敗が決するまでには、三十秒とかからなかった。


 男たちの体は鋭いかぎ爪による連続攻撃で無惨に引き裂かれ、一人、また一人と倒れていった。


 やがて場が静かになる。

 意識を失った三人の男たちは、白目をむいて地べたに倒れていた。


 ロック鳥も無傷ではなかった。

 男たちの攻撃で体のあちこちを小さく傷つけられ、その傷口からは少量の黒い靄が漏れ出している。


 だが当然ながら、多少傷ついていたところで、少年が立ち向かってどうにかできるような相手ではない。

 彼よりもずっと高レベルの男たちでさえ、為すすべもなくあっという間に倒されたのだ。


 少年にできるのは、あの怪鳥が自分たちの存在に気付いていないことを祈って、隠れ続けることだけだった。


 ロック鳥の体から漏れていた黒い靄も、やがては収まった。

 鷲に似た姿の巨大なモンスターは、ぐるりと周囲を見回す。


 それから、もはや周辺に敵はないと判断したのか、今狩ったばかりの獲物をついばみ始めた。


 その真っ赤に染まった嘴を見て、少年はあれが人間を殺戮するモンスターであることを、今さらながらに思い出していた。


 一方では少女が、人間の血肉を貪る巨鳥の姿を見て、「ヒッ」と小さく悲鳴をあげる。

 少年は慌てて少女の口をふさいだ。


 獲物をついばんでいたロック鳥が、わずかばかり周囲を見回したが、またすぐに食事に夢中になった。


 どうやらロック鳥は、少年たちの存在には気付いていないようだ。

 大丈夫だ、きっと生き延びられる。

 少年は震える少女を強く抱きしめ、どの神にともなく祈った。


 ロック鳥の食事はすぐに終わった。

 モンスターは大きな翼をゆっくりと羽ばたかせて、その場から飛び立とうとする。


 そうだ、そのまま行ってくれ──

 少年はそう願いながら、茂みの陰から巨大モンスターの動向を見守った。


 だが、そのときだ。

 飛び去ろうとしていた怪鳥のぎょろりとした目が、少年のほうを見た気がした。

 少年の心臓が、跳ね上がる。


 嘘だ、そんなはずはない、目が合ったのはきっと気のせいだ──

 そうした少年の願望は、脆くも崩れ去る。


 モンスターの巨体が空中で大きく旋回したかと思うと、その進路が明らかに少年たちのほうへと向いたのだ。


「──ちくしょう!」

「わっ……!」


 少年は横手に向かって少女を突き飛ばし、自らはその逆方向へと走った。

 腰から短剣を引き抜いて、空飛ぶ巨体めがけて投げつける。


「こっちだ、バケモノ!」


 少年はかつて聞いたモンスターの習性を思い出していた。


 モンスターは通常、自らに危害を加える覚醒者がその場に残っている限りは、力を持たない一般人を襲うことはないのだという。

 嘘か本当かも分からない話だが、考える前に少年の体は動いていた。


「おいガキ、なんとか今のうちに逃げろ──」


 少年は自らをおとりにして、少女を逃がそうとしたのだ。

 だがそんな健気な自己犠牲の行動は、さしたる時間稼ぎにもならなかった。


 怪鳥はわずか数秒のうちに少年に追いつき、獲物の体を引き裂こうと、その鋭いかぎ爪を振るってきたのだ。


 直感的に死を察知して、振り向いた少年。

 その目には、一瞬の後に自分を惨殺するであろう巨大なかぎ爪が、スローモーションで近付いてくる姿が映った。


 無論それは、殺されることが確定した未来を前にして起こった、単なる錯覚にすぎない。

 少年には、その未来を変えることはできない。


 だが少年には変えられない未来であっても、余人によって捻じ曲げられることは起こり得た。


「なっ!?」

「くぅっ……!」


 今にも引き裂かれんとしていた少年の体に、何者かが横合いから飛びつき、もつれ合って地面を転がった。


 真っ赤な血があたりに飛び散ったが、少年の体に大きな痛みはない。

 代わりに、少年を抱きかかえて転がり彼を救った女性が、その背に抉られたような大きな切り傷を負っていた。


 少年を救ったのは、真っ黒な装束をまとった黒髪の美女だった。


 その女性は怪我にも怯むことなく立ち上がる。

 そればかりか「キミ、大丈夫だった?」と、少年を心配する声までかけてきた。


 少年がこくこくとうなずくと、黒装束の女性は「よし」と言って、巨鳥のほうへと視線を向けた。


 その巨鳥の前には今、褐色の鎧に身を包んだ青年が堂々と立ちふさがり、その手にある神々しい槍を振るっていた。


 スキルの輝きを宿した青年の右手が、目にも止まらぬ三段突きを放つと、それを受けたロック鳥が大きな苦悶の咆哮をあげる。


「風音、大丈夫か!」


「うん、ちょっとやられたけど問題ない! この子も無事みたい」


「よし、あとは俺が壁をやる。風音は無理しないで、後ろから援護を」


「大丈夫だって、私もやるよ。大地くんだけにいい格好はさせないから」


「一番おいしいところを持っていったのに、まだ欲張るのかよ」


「えへへーっ。乙女はいつも欲張りなのだ!」


 黒装束の女性もまた、ロック鳥に向かって駆けていくと、褐色の鎧の青年の隣について巨大モンスターと戦いはじめた。


 その動きは尋常でないほど素早く、少年の目では動きを追いかけるのも大変なほど。

 右へ左へと跳び回り、手にした二振りの短剣でロック鳥を攻撃していく。

 それによって与えられる傷も、短剣によるものとは思えないほど深く鋭い。


 だが褐色鎧の青年が槍によって与える打撃は、それをなお上回るほどの威力だった。

 それにロック鳥のかぎ爪による攻撃を幾度も受けているというのに、彼はまったく平然としていた。


「乙女ねぇ」


「何よ、文句あるの?」


「いいえ、まったくございません。風音様は完膚なきまでに可憐な乙女でございます」


「よろしい。そんな乙女の私には、あとでぎゅーってハグしてねぎらってくれればいいから」


「俺へのご褒美なんだよなぁ」


 そればかりか、褐色鎧の青年と黒装束の女性は、ともに軽口を叩きながらロック鳥を相手取っていた。


「まーた二人でイチャついてるっす! うちも混ぜろっすよ、ぷんぷん!」


 さらに少し離れた場所からは、光り輝く氷の矢が飛来し、ロック鳥の巨体に突き刺さる。

 その矢は命中部に美しい氷の華を咲かせ、砕け散った。

 ロック鳥はまた、大きな苦悶の叫びをあげる。


 氷の矢の出所をたどれば、青白く輝く弓を手にした魔法使い姿の少女が、次の矢を放とうとしている姿が見えた。


「な、なんだコレ……?」


 少年の目には、軽口を叩きながら片手間に戦う三人の若き冒険者たちを前にして、ロック鳥が激しく苦しみ悶え、劣勢に立たされているように見えた。


 褐色の鎧を着た青年や、黒装束の女性、魔法使い姿の少女は、特に苦戦した様子もなく怪鳥を追い詰めていく。


 そんな突然起こった夢のような出来事を前に、少年はただただ呆然とするしかなかった。


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