第352話 大地 vs. 七体のアウルベア
──side:六槍大地──
俺の【プロテクション】が発動した、その一瞬の後。
何体ものアウルベアの攻撃が、俺の体を打ち据えた。
攻撃のいくつかはどうにか盾で防御したり回避したりできたが、当然ながらすべての攻撃を防御・回避しきることはできない。
アウルベアの剛腕と鋭いかぎ爪による攻撃は、俺が限界突破をしていなかった頃──25レベル当時に受けたのであれば、三度やそこらの直撃でも致命的な結果に陥っていただろう。
アウルベアというモンスターは、そういった格の相手だ。
だが、今は違う。
アウルベアのかぎ爪による攻撃がいくつも直撃していたが、俺はさしたるダメージを受けずにいた。
いや「さしたるダメージを」というのも、適切な表現ではないかもしれない。
むしろ、これは──
「思ったよりも楽ができそうだな──【三連衝】!」
俺はアウルベアの群れからタコ殴りにされながらも、動じることなく反撃を繰り出していく。
神槍を用いた三連撃は、俺を取り囲んでいたうちの一体を鋭く穿ち、そいつを一瞬のうちに黒い靄へと変えた。
周囲のアウルベアたちが、わずかに戸惑ったようにも見えた。
しかしすぐに、それでも構うものかとばかりに、また次々と攻撃を繰り出しはじめる。
「【三連衝】!」
俺は二度目の攻撃を放つ。
二体目のアウルベアが消滅し、魔石へと変わった。
残る五体のアウルベアは、よっぽど知能が低いのか、とにかく休みなく攻撃を仕掛けてくる。
俺はもう、攻撃を回避するのも面倒になっていた。
「【三連衝】!」
三体目のアウルベアが消滅する。
残る四体の行動は変わらない。
とにかく俺を攻撃してくるばかりだ。
俺がダメージを受けているように見えるのだろうか。
もっと何度も攻撃すれば、目の前の人間を倒せるに違いないと、そう思っているのだろうか。
いや、そもそもモンスターに思考や知能があるのかどうかから不明ではあるのだが。
ほとんど作業だった。
アウルベアの攻撃を浴びながら、俺は幾度も【三連衝】を繰り出していく。
一度放つごとに一体のアウルベアが消滅し、魔石へと変わった。
その声が聞こえてきたのは、ちょうど五体目のアウルベアを始末したときのことだった。
「大地くん、大丈夫!?」
「よかった先輩、まだ無事みたいっすね──って、もう残り二体っすか!?」
風音と弓月の二人が、慌てた様子でやってきた。
見れば風音のほうは、黒装束のあちこちが引き裂かれ、その下の肌にいくつもの怪我を負っているようだった。
「風音、大丈夫か!?」
「それはこっちのセリフだよ! 大地くん、平気なの!?」
風音はそのまま駆け寄ってきて、アウルベアに接近戦を仕掛けようとする。
だが俺は、それにストップをかける。
「来るな、風音! その怪我じゃ危ない!」
「でも──」
「大丈夫。俺は、ノーダメージだ」
ガイアアーマーやガイアヘルムの上から、アウルベアの攻撃がガンガンと襲い来る。
だが俺は、それらの攻撃を受けても、まったく痛みを感じていなかった。
アーマーやヘルムの装甲がアウルベアのかぎ爪によって引き裂かれることがないばかりか、打撃による衝撃すらもほとんど伝わってこない。
HPを確認したわけではないが、おそらくダメージは一切受けていないと思う。
もちろんそれも【プロテクション】の効果ありきでの話だが。
効果が切れたら、さすがに多少のダメージは受けるだろうな。
「へっ……? ノ、ノーダメージ……?」
「え……先輩それ、マジで言ってんすか? 【トライファイア】!」
「おう、マジもマジ。俺もやってみて驚いたけどな──【三連衝】!」
初戦のアウルベア二体は、向こうの攻撃が飛んでくる前に瞬殺したから、実際に攻撃を受けるのは今回が初めてだった。
ともあれ、残る二体のアウルベアも、俺と弓月の攻撃で消滅。
俺の周囲の地面には、七つの魔石が落ちているばかりとなった。
「よし、終わり。風音、治癒するから──うわっ」
「大地くん、よかったぁ……!」
「先輩、心配かけさせるなっすよ!」
風音に治癒魔法をかけようとすると、なぜか二人が俺に抱き着いてきた。
その勢いで、俺は地面に押し倒されてしまう。
なんで……?
どうしてこうなった?
「いや、風音、怪我の治癒をしないと」
「うううっ……よかったよぉ、大地くん……!」
「先輩のバカぁっ……!」
どういうわけか二人が離れてくれなかったので、俺はそのままの姿勢で治癒魔法を行使し、風音の怪我を癒した。
俺が呼ぶと、樹上に退避していたグリフも戻ってきて、俺たちの上で飛び回りながら「クピッ、クピーッ♪」と鳴いた。
なんだかよく分からないが、ひとまずは、めでたしめでたしな雰囲気のようだ。
聞けば二人も、自分の担当のアウルベアは倒してきたという。
ちなみにステータスを開いて確認してみても、やはり俺のHPは「450/450」で、1点も減っていなかった。
ピッカピカのノーダメージだ。
俺は風音と弓月の頭をなでつつ、もう一つの戦場は大丈夫かなと思いを馳せる。
ま、大丈夫か。
戦力は足りているはずだしな。
レグルドさんやアデラさんたちにも、そのぐらいは働いてもらおう。
そうして、しばらく。
やがて落ち着いた二人を連れて、俺は馬車があるほうへと帰還したのだった。