第308話 真実の鏡
このダンジョンのボス敵であると思われる、マミーロードを倒した。
戦闘で受けたバッドステータスなどの被害がまあまあひどい。
「腐敗の呪い」によって受けた「呪い」は元凶であるマミーロードを倒したことで解除され、「猛毒」は俺と風音がそれぞれ毒消しポーションを飲むことで解除した。
あとは「麻痺」と、HPに受けたダメージだが。
HP回復と「麻痺」解除を同時に行なえる【ガイアヒール】で治療するのが順当なのだが、「麻痺」はほぼ全員が受けているんだよな。
五人と一体のうち、被害が皆無なのは弓月だけだった。
魔力お化けの後輩はマミーロードの「呪縛の視線」すら弾いたようで俺も驚いたが、それでも四人と一体。
【ガイアヒール】が地味に重くて、消費MP7。
これを四人と一体にかけると、トータルの消費は35。さすがにちょっと重い。
まあダンジョンもこれで終わりっぽいし、35ポイントぐらいどうということはないと言えば、そうとも言えるのだが……。
でもやっぱり、ここで取っておくかな。
戦闘中に使うこともあるかもしれないし。
俺は1ポイントだけ残しておいたスキルポイントを使って、スキルを一つ修得。
その後、自分を含めた全員を一ヶ所に集めた。
「【エリアガイアヒール】!」
一ヶ所に集まったメンバー全員をまとめて包み込むような円形の範囲に、地面から治癒の魔力が立ち昇る。
それで全員の「麻痺」が解除され、同時に俺と風音が受けていたHPダメージも回復された。
「す、すごい……」
「こいつは……勇者様ってのは、何でもできるんだな」
ルル王女とナセルさんが、全員の麻痺が一斉に解けたことに感嘆していた。
「何でもはできませんよ。俺にできるのは、俺にできる事だけです」
「先輩、パクリは良くないっすよ?」
「う、うるせぇ!」
後輩からのツッコミは却下である。
汎用性が高いから気付くと出てるんだよ。それにちょっと違うだろ!
さておいて、戦闘終了後の状態回復も終了だ。
マミーロードを撃破した時点で、広間の奥の扉が開いていた。
俺たちは開かれた扉をくぐり、その先へと進んでいく。
扉の先にあったのは小さな部屋だった。
部屋の真ん中には一個の宝箱があり、その奥には転移魔法陣の輝きが立ち昇っている。
風音がスキルを使って宝箱を調べ、危険がないことを確認してから、警戒しつつ宝箱の蓋を開いた。
「これが『真実の鏡』みたいだね」
風音が宝箱の中から取り出したのは、一個の手鏡だった。
しゃもじを少し大きくしたような形状のものだ。
どこか古ぼけた雰囲気がありつつも、ぼうっと淡い光を宿しており、心なしか神々しさのようなものを感じさせる。
風音は手鏡を、ルル王女に手渡す。
褐色肌の王女は、手鏡を手にすると、やがてその瞳からぼろぼろと涙をこぼした。
「お父様……!」
ルル王女は手鏡をぎゅっと抱きしめる。
ナセルさんがその背後で、ルル王女を抱擁しようと両腕を広げ、やっぱりやめたという様子で頭をかいていたのを俺は見逃さなかった。
「ルルっち、それ【アイテム鑑定】してみてもいいっすか?」
「あ……はい。お願いします」
ルル王女は涙を拭いつつ、手鏡を弓月に渡す。
弓月はそれを手に、【アイテム鑑定】のスキルを使用した。
「結果出たっす。アイテム名はやっぱり『真実の鏡』っすね。効果は……うっへぇ、怖っわ。なんすかこの効果」
「ん? なんか変な効果なのか?」
「そのまま読み上げるっすね。『この鏡を手にして効果の発動を強く念じると、鏡は強い輝きを宿す。その後、所持者が自らの姿を鏡に映して真実の言葉を述べた場合、その言葉を聞いた者はすべてそれを真実だと確信する。この効果を一度使用すると、この鏡は砕け散る。この真実を確信させる効果は、以後、使用者およびその言葉を聞いた者が同じ内容の言葉を発した場合すべてに作用する』だそうっす」
うっわ……何それ怖い……。
と思ったが、アイテムの効果を音読した弓月の横で、風音が不思議そうに首を傾げる。
「どうしてそれが怖いの? 真実が信じられるんだから、いい効果なんじゃない?」
「そうは言っても、人心操作系の効果っすよ? この効果が本物なら、人の頭の中に手ぇ突っ込んでその中身を無理やり書き換えるってことっす。しかもそれが伝染病みたいに伝播するんすよ」
「あー……そう言われると確かに。ちょっと怖いかも」
「だがそういうものにも頼らないといけない状況だ。そうですね、ルル様?」
そう言ったのはナセルさんだ。
ルル王女はしっかりとうなずく。
「ええ。私は自らにかけられた嫌疑と汚名を、完全に雪がなくてはならない。帰りましょう、私たちの街ラダージャへ」
決意の表情を見せるルル王女を筆頭に、俺たちは転移魔法陣へと足を踏み入れた。