第302話 ミイラ男
「じゃあ、開けるぞ」
仲間たちに棺のほうを警戒させつつ、俺は扉の取っ手に手をかけた。
すると──
「あれ? こっちも開かない」
扉には鍵がかかっているようだった。
押しても引いても、扉は開かない。
だが、そのとき──ギィイイイイイッ。
扉でない場所から、何か重たいものが開く音がした。
「先輩、棺が開いたっす! 四つとも!」
「中からモンスターが出てきた!」
「クアッ、クアーッ!」
仲間たちの声に振り向いてみると、確かに四つの棺が開き、そこからモンスターらしきものがそれぞれ一体ずつ姿を現していた。
なるほど、扉を開けようとするアクションがトリガーだったというわけね。
現れたモンスターの姿は、一言で表現するなら「ミイラ男」だ。
爛れた肌を持つ人間のような体に、包帯がぐるぐるに巻かれている。
そいつらは棺の中から飛び出すなり、その目を一斉に、不気味な赤色へと輝かせた。
同時に、何か不可視の力が襲い掛かってくる。
体の自由を束縛する、恐怖の力だ。
「く、あっ……か、金縛り……!?」
その呪縛に真っ先に囚われたのは、この場で最もレベルが低いルル王女だった。
「チッ……! 体が、思うように動かねぇ……!」
「クアーッ……!」
またナセルさんとグリフォンも、ルル王女ほど顕著にではないが、呪縛に動きを制限されたようだ。
一方で──
「「「──こんなものっ!」」」
俺、風音、弓月の三人は、ぶつけられた呪縛の力をはじき返していた。
魔法的な作用であり、おそらくは魔法防御力が高いほど効力の無効化に成功しやすいのだろう。
眼光による呪縛攻撃を終えた四体のミイラ男は、思いのほか素早い動きで襲い掛かってくる。
「させるか──【三連衝】!」
俺は襲い掛かってくる四体のうち、一体を獲物と定め、神槍によるスキル攻撃を放った。
神速の三連撃に穿たれたミイラ男は、一瞬にして消滅、魔石へと変わる。
プレッシャーの大きさからして決して弱いモンスターではないはずだが、神槍を手にした今の俺の【三連衝】で瞬殺できない相手は、そうはいない。
「はぁああああっ!」
「火属性が弱点のモンスターなら──焼き尽くせ、【トライファイア】!」
風音、弓月もそれぞれ一体ずつのミイラ男に攻撃を仕掛けたようだった。
そっちの二体は大丈夫として、問題はもう一体だろうな。
「クソッ、体が重い……! けどよ、ルル様のところには行かせねぇ!」
「クアーッ!」
ナセルさんとグリフォンが、一人と一体がかりで、一体のミイラ男の前に立ちふさがっていた。
ルル王女を守る形での立ち回りだ。
グリフォンにはあらかじめそう命じてあったし、ナセルさんにもそのように頼んでいたのだ。
眼光の呪縛によって動きが鈍らされている様子の一人と一体だが、さすがに二対一なら負けはしないといった雰囲気だ。
とはいえ、手伝うならここだよな。
「俺がやります! グリフォン、下がれ!」
「クアーッ!」
俺の指示で、グリフォンがミイラ男の前から退く。
そこに俺が飛び込んで、攻撃を仕掛けた。
「【三連衝】!」
バカの一つ覚えだが、最も有効な攻撃なので仕方がない。
神槍による三度の突きを被ったミイラ男は、やはり一瞬で消滅、魔石へと変わった。
その頃には風音と弓月もそれぞれの担当を撃破しており、四体のミイラ男はすべて倒されていた。
それに伴って、扉のほうでカチャリと音が鳴る。
モンスターを倒すことで、扉のロックが解除される仕組みだったのだろう。
「「「イェーイ!」」」
俺と風音、弓月の三人で、パンパンパンと勝利のハイタッチ。
グリフォンも寄ってきたので、「よくやった」と言って頭をなでてやった。
「す、すごい……」
「おいおい坊主たち。ずっと思っていたが、お前らいったいどうなってやがるんだ? 今のミイラ男どものあのプレッシャー、どう考えたって簡単な相手じゃねぇだろ。それをゾンビやスケルトンでも倒すみたいに、こうもあっさりと」
ルル王女とナセルさんが、驚きの様子を見せてくる。
まあこの二人には話しておくか。
俺は【ガイアヒール】を使って麻痺を受けた二人と一体を治療しつつ、自分たちのレベルを二人に伝えた。
「「50レベル!? 三人とも!?」」
あんぐりと口をあけるナセルさんと、目をぱちくりとさせるルル王女である。
理想的なリアクションをどうもありがとう。
「限界突破していて、50レベル……それならその化け物みたいな強さも、冒険者拘束用のロープを千切れたのもうなずけるが。いやしかし、それなら三人がルル王女を手伝って、力ずくで王位を奪還するって手もあったんじゃ……」
「いいえナセル、それではダメです。そのやり方では、私が正統の王から王位を簒奪した賊徒になってしまうわ。私たちはあくまでも、王位の正統性を主張しないと」
「なるほど、そうか……そうですね。しかしそうなると、『真実の鏡』がどういう効果を持つのかがやはり気になりますが」
「そこは信じるよりほかには。私は、お父様が最期に託してくれたものには、意味があると信じたいの」
「国民の未来が懸かっていることに、センチメンタルを持ち込むべきじゃない──と苦言を呈したいところですが。いずれにせよ今さらですね。ここまで来たからには、『真実の鏡』を手に入れてこのダンジョンを出るしかない」
「ええ。──皆さん、よろしくお願いします。あなたたちのような比類なき英雄たちの助力を得られることを、心より感謝します」
ルル王女から再び頭を下げられた。
俺としては内心恐々としながら、鷹揚にうなずくふりをするしかなかった。
これも今さらだけど、どうやら俺たちは、一国の国民全員の運命を背負ってしまっているようである。
責任重大だ。
あと「比類なき英雄たち」って、やっぱり俺たちのことだよな。
なんとなくのノリでここまで来てしまっただけなのに、なんか凄いことになっているような。
ちなみに、実は今の戦闘でもミッションを一つ達成し、俺のレベルが上がっていた。
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ミッション『マミーを3体討伐する』を達成した!
パーティ全員が15000ポイントの経験値を獲得!
新規ミッション『デュラハンを1体討伐する』(経験値15000)が発生!
新規ミッション『ドラゴンゾンビを1体討伐する』(経験値30000)が発生!
六槍大地が51レベルにレベルアップ!
現在の経験値
六槍大地……1755904/1927788(次のレベルまで:171884)
小太刀風音……1631536/1743010(次のレベルまで:111474)
弓月火垂……1687151/1743010(次のレベルまで:55859)
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ついに51レベルに到達だ。
これまでのパターンから考えると──
「先輩、51レベルになってスキルリスト更新されたっすか?」
「待ってくれ。今、確認する」
そうそう、ここで修得可能スキルリストが更新される可能性が高いのだ。
俺はステータス画面を開いて、リストを確認してみた。