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第287話 ヒルジャイアント

 俺は神槍と盾を構え、眼前に現れた巨体を見上げる。


 ヒルジャイアント。

 巨人の姿をしたモンスターだ。


 どのぐらい巨大かといえば、一階建て住居の向こう側に立っていても、胸から上が丸見えになるぐらいだ。


 今、そいつが町の通りに、我が物顔で立っている。


 その手にある特大棍棒を振り回せば、周辺にある住居ぐらいは簡単に破壊することができるだろう。


 実際にも、倒壊した建物があちこちに見受けられた。


「──グォオオオオオオオオッ!」


 そいつが俺を見て、叫んだ。


 棍棒を掲げ、ドシンドシンと地響きを鳴らして、俺のほうへと向かって駆けてくる。


「──うぉおおおおおっ!」


 俺もまた、巨人に向かって突進した。


 両者の接近により、すぐさま近接戦闘距離に至る。


 リーチの長さは、圧倒的に相手に分がある。

 スキルの輝きを帯びた巨人の棍棒が、先手を取って俺に振り下ろされた。


 あんな巨体からの攻撃をまともに受けたら、一撃でぺしゃんこに潰されてしまうに違いない──なんてことは、少しも思わなかった。


 今や俺の力は、目の前の巨人など怖れるに足りないと思えるほどに強い輝きを放っている。


 思いのほか豪速で振り下ろされた棍棒を、俺は盾を頭上に構えて受け止めた。


 激しい衝突音が鳴り響き、全身に重みがのしかかってくる。

 だが、それだけだ。


 盾や鎧兜、それに俺自身の肉体が持つ防御力が、その衝撃力をたいしたことないと思わせるまでに抑え込んだ。


 俺は腕力だけで巨大棍棒を弾き、巨人の懐に潜り込む。


 そのとき背後から、ゲルゼルの声が聞こえてきた。


「チッ、先手を取られたか……! だが所詮は無能の浅知恵だな! 雑魚が一人でヒルジャイアントに挑んでどうすんだ、バカが!」


 その言葉を聞いた俺は、まあお前の見立てだとそうなるよな、と思った。


 ヒルジャイアントはその巨体を見ても分かるように、かなりの力を持ったモンスターだ。

 並みの冒険者が一対一で挑むのは自殺行為と言える。


 先に交戦して魔石獲得の権利を得たとて、戦いに敗ければ待つのは死ばかりだ──


 とまあ、ゲルゼルの言っていることは基本的に正しい。

 前提の誤りさえなければの話だが。


 ヒルジャイアントの懐に飛び込んだ俺は、神槍を持った右手にスキルの輝きを宿らせつつ、巨人に向かって跳躍した。


「こうするんだよ──【三連衝】!」


 魔法の炎をまとった神槍が、巨人の胸部を一瞬で三度穿つ。


 その衝撃によりヒルジャイアントの巨体が吹き飛ばされ、地響きとともに倒れ込んだ。


 ただ、消滅はしていない。

 胸部から膨大な黒い靄をあふれ出させたヒルジャイアントは、ぶるぶると頭を振り、怒りの形相とともに立ち上がろうとする。


 俺は着地しつつ、倒れた巨人のもとへと駆けていく。

 さすがに一撃で、というわけにはいかないか。しぶといな。


「なっ……!? なんだ、その威力は……!?」


 ゲルゼルの驚く声が聞こえてくるが、とりあえず観客は無視でいいだろう。


 立ち上がる途中だったヒルジャイアントが、不十分な姿勢のまま棍棒による攻撃を繰り出してくる。


 横なぎに襲い来る攻撃を、俺は再び盾を使ってブロック。


 力任せに棍棒をはじき返してから、もう一度、ヒルジャイアントに向かって跳躍した。


「【三連衝】!」


 片膝状態だった巨人めがけて、炎をまとった神槍による三連撃を重ねて叩き込んだ。


 さしものヒルジャイアントも、それで消滅、大型の魔石が地面に落ちた。


 ふうっ……ま、今の俺の実力なら、結果はこんなものだろう。

 装備品の性能によるブーストがだいぶ大きい気もするけどな。


 そしてここで、いつものピコンッ。


───────────────────────


 ミッション『ヒルジャイアントを1体討伐する』を達成した!

 パーティ全員が10000ポイントの経験値を獲得!


 新規ミッション『ジャイアントを4体討伐する』(獲得経験値40000)が発生!


 現在の経験値

 六槍大地……1516614/1573489(次のレベルまで:56875)

 小太刀風音……1374746/1417965(次のレベルまで:43219)

 弓月火垂……1450071/1573489(次のレベルまで:123418)


───────────────────────


 お、いい感じの新規ミッションが出たか?


 種類問わずジャイアントなら討伐数にカウントされるってことだよな。

 だとしたら、これは丸儲け感があるぞ。


 などと思いつつ、魔石を拾いながら自分に治癒魔法をかけていると、背後から観客の声が聞こえてきた。


「バ、バカな……!? 相手はヒルジャイアントだぞ!? こうも簡単に倒せるはずが──い、いや、そうか。今のヒルジャイアントは、戦う前からダメージを負っていたのか。モンスター同士の仲間割れか何かで。そうだ、ハハッ、なるほどな。運のいい野郎だぜ。だがまぐれは何度も続かねぇぞ」


「……はあっ」


 俺は思わずため息をついてしまった。


 一度相手のことを自分より下だと思い込んだが最後、その見立てを修正できないということだろうか。


 そもそもゲルゼルがもっと注意深ければ、俺たちの実力を見抜けないことに違和感を覚えているはずなんだけどな。


 俺はゲルゼルのほうへと振り向いて、声をかける。


「いずれにせよ、こっちはヒルジャイアントの魔石一個目を獲得です。勝負に勝つつもりがあるなら、急いで次を探したほうがいいんじゃないですか?」


「ぐっ、ぎぎっ……テ、テメェ……雑魚のくせに、調子に乗ってんじゃねぇぞ!」


「仮に俺があなたより雑魚だったとしても、勝負は魔石の獲得で決まりますから。負けたときの約束は、忘れないでくださいね」


「こ、このクソガキが……! 覚えてやがれ、今に吠え面をかかせてやるぞ!」


 ゲルゼルは捨て台詞を吐くと、必死な様子で周囲を見回す。


 そして遠くの建物の向こうに一体のヒルジャイアントの頭部を見つけると、その方角に向かって一目散に駆け出していった。


「ま、一体ぐらいは譲ってやるか」


 俺はつぶやきつつ、別の方角へと向かって走る。


 途上に立ち塞がるオーガの群れをなぎ倒しながら、あらかじめ位置を確認しておいたもう一体のヒルジャイアントのもとへと。


 空中から確認したところ、町中にいるヒルジャイアントは全部で三体だった。


 今倒したのが一体目だから、残るはゲルゼルが倒しにいった一体と、俺が向かっている先のもう一体で全部のはずだ。


「さて、あとは風音と弓月がうまくやってくれれば──」


 俺は倒したオーガの魔石を拾い集めながら、彼方の空を見上げていた。


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