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朝起きたら探索者《シーカー》になっていたのでダンジョンに潜ってみる 〜1レベルから始める地道なレベルアップ〜  作者: いかぽん


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第285話 ゲルゼルの思惑

「双方とも、準備はいいか。それじゃ──開始!」


 第三のパーティのリーダーが、頭上に掲げた腕を振り下ろす。


 ゲーム開始の合図に呼応して、ゲルゼルが真っ先に駆け出した。

 彼のあとを追うようにして、三人のパーティメンバーも走り出す。


(ちぃとテクニカルな状況だが、まあいい。少しは張り合いがねぇと面白くねぇからな。雑魚どもとは頭の出来も違うってことを思い知らせてやるだけだ)


 ゲルゼルは力強く地面を蹴り、風のように走りながら、これから彼が蹂躙するべきフィールドを見すえていた。


 モンスター討伐の狩場となるベルトリントの町とその周辺は、大雑把に言えば、差し渡し1.5キロメートルほどの円形の平野部である。


 市壁に囲われた町がほぼド真ん中に位置し、その周辺に畑や牧草地帯が広がっている。

 そうした平野部の外は開拓が進んでいない森林地帯であるが、そちらにモンスターの影は見当たらない。


(この勝負じゃあ、真っ先に潰すべきはヒルジャイアントだ。オーガの討伐数なんざモノの数にも入らねぇ。ま、無能どもの頭じゃ、そんなことすら分からねぇかもしれねぇがな)


 ゲルゼルの視界に映るのは、畑や牧草地帯をうろつく大多数のオーガと、ごく少数のヒルジャイアントの姿だ。


 ゲルゼルはヒルジャイアントにターゲットを絞り、狩りの優先順位を組み立てていた。

 何十体もうじゃうじゃといるオーガなど、行きがけの駄賃に潰すぐらいでちょうどいいだろう。


 町の外、目視確認が可能な場所にいるヒルジャイアントは二体。

 いずれも位置的に遠く、そこに到達するまでには「ある障害」が存在する。


(あいつらは後回しだ。まずは町に入る)


 ベルトリントの町の中、市壁に囲われた内側にも、わずかながらヒルジャイアントの姿が確認できる。


 市壁や住居の上に、わずかに頭部が垣間見える程度であり、具体的に何体いるかはっきりとは分からない。

 だが少なくとも二体はいると、ゲルゼルは見込んでいた。


(ま、三体も潰せば勝ちは堅いだろ)


 ゲルゼルはニヤリと口元をゆがめる。


 彼は常に、自信に満ちあふれていた。

 何しろ彼は、「限界突破」をしているのだから。

 そんじょそこらの冒険者とは格が違うのだ。


 ゲルゼルが「限界突破の試練」に遭遇したのは、今から半年ほど前のことだった。

 ひょんなことから彼は、たった一人で「ダンジョン」に転移することになった。


 彼をそこに強制転移させた転移魔法陣は、片道であった。

 ゲルゼルはそこで半月ほどの間、命の危険に晒された。


 だが幾多の苦難を乗り越えてダンジョンからの脱出を果たしたとき、彼はかつてとは比べ物にならないほどの強大な力を得ていたのだ。


 ほかの冒険者との実力の差は、歴然だった。

 元よりスキルにも恵まれていた彼は、やがて己の最強を確信するようになる。


 自分よりも強い覚醒者がいるとしたら、それはかつて八英雄と呼ばれた存在ぐらいではないのか──

 それは増長であったが、ある程度は故のあるものでもあった。


 もっともこの「勝負」は、強さだけで勝敗が決まる性質のものではない。

 もちろん強さは有利に働くが、それでも攻め方を誤れば、あの小僧の後塵を拝する可能性がゼロとも言い切れない。


(いや、俺が負けるわけがねぇ。だが万が一そうなったときには──やつらには運がなかったってことだ。くくくっ)


 それでもゲルゼルは、自信と余裕を崩さなかった。

 いざとなったときには、奥の手を使えばいいと思っていたからだ。


 冒険者がほかの冒険者を攻撃することはご法度だ。

 これは勝負のルールに限らず、冒険者同士での当たり前の不文律のようなもの。

 例外は自分の身を守るなどやむを得ないときぐらいだろう。


 だがそれも建前上のもの。

 実質的には、この場にいる全員を黙らせることができれば、何が起ころうとも問題にはならないのだ。

 そう、バレたらまずい相手にバレさえしなければ、ルールなど関係ない。


 いずれにせよ、あの二人の美女──黒ずくめの生意気女と魔導士姿のメスガキは、ゲルゼルのものとなる運命なのだ。

 少なくともゲルゼルはそう確信していた。


 力こそがすべて。

 力さえあれば、あらゆる望みが思いのままだ。


「くくくっ、今から夜が楽しみだぜ──おらっ、邪魔だぁ! 【二段斬り】!」


 行く手を遮るオーガの群れを、ゲルゼルは斧で次々と叩き伏せていく。

 彼のスキルによる二段攻撃は、オーガを一手で粉砕してあまりあるほどの威力を持つ。


 さらに彼の仲間たち──ゲルゼルは「仲間」というよりも「道具」ぐらいにしか思っていないが──が、別のオーガを攻撃して魔石へと変えていく。


 ゲルゼルの威を借るハイエナのような二人の冒険者は、従順で扱いやすいので手元に置いてやっている。

 ちょっとばかりいい目を見させてやれば文句も言わないので、ゲルゼルとしては気分がいい。


 最近ゲルゼルにすり寄ってきた弓使いの女も、これまたいろいろと使い勝手がいい。

 冒険者としても、女としてもだ。


 意外と体を許さないあたりがしたたかだが、自分の支配下にあっていつでも奪えると思えば、焦らされるのも悪い気分はしない。


「さあ雑魚ども、できるだけ頑張ってついて来てみろよ! 力の差を思い知るだけだろうがなあっ!」


 立ち塞がった四体のオーガをあっという間に片付けたゲルゼル一行は、そのままベルトリントの町へと向かって駆けていく。

 もちろん魔石を拾うことも忘れない。


 だが、そのときだ。

 ゲルゼルが右手側にチラと視線を向けたとき、考えられないほどの速度で駆けていく黒い姿が目に入った。


「なっ……!?」


 あり得ない速度で疾駆するその姿は、ゲルゼルが欲したあの黒ずくめの生意気女だった。


 信じられないことに、その疾走速度はゲルゼルよりもはるかに速い。

 野生の獣もかくやという敏捷性で、牧草地帯を瞬く間に駆け抜けていく。


(バ、バカな……! 【クイックネス】か!? いや、だとしても──)


 速すぎる。

 何をどうしたらあんな速度に至れるのか、ゲルゼルには皆目見当がつかなかった。


 あの小僧たちは、ゲルゼルたちが真っ先に駆け出したのに対して、まずは補助魔法の行使から始めたようだった。


「バカめ、悪手だ」と嘲笑ったゲルゼルだったが、こうしてあっさり追い抜かれてしまえば困惑もする。


 この勝負のルール上、各モンスターの優先討伐権は、そのモンスターと最初に交戦に入ったパーティに与えられることになる。


 あの黒ずくめ女にヒルジャイアントと先に交戦を始められてしまえば、事実上、ゲルゼルたちはそのヒルジャイアントには手出しができなくなる。


 並みの冒険者が単身でヒルジャイアントに挑むのは自殺行為であるが、先行した黒ずくめ女が持ちこたえている間に仲間が到着できれば大きな問題はない。


 この勝負において「先行する」ことは、きわめて重要な意味を持つのだ。


(いや、だが──くくくっ、やはり無能は無能だな)


 ゲルゼルは黒ずくめ女が向かった方角を見て、内心でほくそ笑む。


 黒ずくめ女が向かう先には、遠方ながら、確かにヒルジャイアントの姿があった。

 その点を見れば、戦術的に正しい動きをしているかのように見える。


 だがそこには重大な落とし穴があることに、ゲルゼルは気付いていた。


(バカが! 川があるのが見えてねぇようだな)


 目標となるヒルジャイアントがいる場所の手前には、かなりの幅をもった川が横たわっている。

 その川はベルトリントの町中を左右に横切り、周辺の地形を真っ二つに分断するように走っていた。


 橋のない場所を渡河しようとすれば、かなりの足止めを食うはずだ。

 遠回りに見えても、橋が架かっている町中を通っていったほうが間違いなく早い。

 ゲルゼルはそう判断していた。


「よぉし、連中の健気な作戦を嘲笑ってやるとするか。まずはあの黒ずくめ女の先にいるヒルジャイアントを叩きに行くぜ!」


 ゲルゼルは仲間たちにそう指示を出し、ベルトリントの町へと向かって一目散に駆けていった。


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