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第254話 ボス戦(1)

 遠くから悲鳴にも似た声が聞こえてきたので、俺たちはダッシュで声のほうへと向かった。


 やがてたどり着いたのは、通路の途中で、地面が落とし穴のように崩落した場所だった。


 穴の底からは、何人もの男たちの悲鳴が聞こえてくる。


 慎重に縁まで近付いて穴の下を見ると、四人の冒険者が多数のキラーアントに群がられている光景を目の当たりにした。


 このまま放っておけば、あの冒険者たちが全滅して巨大蟻たちの餌食になるのは時間の問題だろう。


 加えて見えたのは、ほかのキラーアントとは比べ物にならないほどの巨大な女王蟻──キラーアントクイーンの姿だ。


 クイーンは、多数のキラーアントに群がられる冒険者たちからは少し離れた広間の奥で、高みの見物を決め込んでいる。


「どうしよう、大地くん」

「先輩」


 風音さんと弓月が、不安そうな声とともに、何かを訴えるような眼差しで俺を見つめてくる。


 今にも全滅しそうになっているあの冒険者たちは、風音さんや弓月に暴言を吐いた中心人物たちだ。

 冒険者パーティ「暁の戦士団」の四人である。


 俺たちのこの位置からなら、あの冒険者たちを巻き込んで範囲攻撃魔法を使えば、大量のキラーアントの群れを容易く一掃できるだろう。

 クイーンに対しても、この位置からならかなり有利に戦えるはずだ。


 だがその場合、あの冒険者たちを見捨てることになる。

 彼らを救うには、飛び降りて近接戦闘を仕掛け、キラーアントどもの注意をこちらに引きつける必要があるだろう。


 俺の中で一瞬、心が揺らいだ。

 俺たちの安全を最優先にするなら──


 だが頭を振って、その考えを振り捨て、二人の仲間にこう伝える。


「飛び降りて助けます! 弓月はここから援護!」


「──っ! うんっ!」

「了解っすよ!」


 風音さんと弓月の声には、躍るような歓喜の色が混ざっていた。

 俺も人のことは言えないが、この二人も相当のお人好しだよな。


 俺はまず【テイム】を使ってグリフォンを本来の姿に戻し、しかる後にグリフォンとともに穴の底へと飛び降りることにした。


 一方で風音さんは、先行して一足早く飛び降りていた。


 穴の底までは五メートルほどなので、探索者(シーカー)の運動能力と耐久力をもってすれば、ノーダメージでの着地は造作もない。


「おじさんたち、大丈夫!? ──はあっ!」


 風音さんは早速、目の前にいた一体のキラーアントを、短剣二刀流の連続攻撃で斬り捨てる。

 そのキラーアントは一瞬にして消滅、魔石へと変わった。


 瀕死の冒険者たちに群がっていたキラーアントどものうち、何体かの目が、一斉に風音さんのほうへと向く。


 俺とグリフォンが降り立ったのは、そのタイミングだ。

 風音さんの近くに着地し、目の前にいたキラーアントに攻撃を仕掛けていく。


「三人は気絶しているみたいです! 来いよソルジャー、こっちだ──【三連衝】!」

「クアッ、クアーッ!」


 俺のスキル攻撃は、間合いに入ってきたキラーアントソルジャーを瞬殺、魔石へと変えた。


 グリフォンもまた、近くにいた通常種のキラーアントに、鉤爪やくちばしによる連続攻撃を仕掛ける。


 風音さんも素早い動きで立ち回り、さらに一体の通常種を仕留めた。


「この位置関係だと、まとめては狙いにくいっすね。でも──【エクスプロージョン】!」


 弓月は穴の上から爆炎魔法を放ち、瀕死の冒険者たちを遠巻きにする位置にいた三体のキラーアントを、まとめて吹き飛ばした。

 その三体もまた一瞬で消滅、魔石へと変わる。


「来るよ、大地くん!」


 風音さんがそう叫んで、モンスターの群れを睨んで身構える。

 俺もその隣で、槍を構えて迎撃の姿勢を取った。


 キラーアントどもも、今この場にいる人間で最も危険な相手が誰なのかを察知したのだろう。


「暁の戦士団」のメンバーに群がっていた深紅の巨大蟻たちが、一斉にターゲットを変え、俺や風音さん、グリフォンのほうへと向かってきた。


 残るキラーアントの総数は、上位種含めて十数体といったところか。

 向かってくる群れの中にはソルジャーの姿が三体ほど見受けられる。


 またそれとは別に、少し離れた場所にいるクイーンの前には、側近よろしく三体のキラーアントメイジが立っていた。

 そいつらは土色の魔力を身にまとわせて、魔法発動の準備をしている。


 キラーアントどもの目は、そのほとんどが俺たちのほうを向いている。

 今や瀕死状態の「暁の戦士団」のメンバーのことは、ほとんど歯牙にもかけていないようだ。


 よしよし、それでいい。

 あの瀕死の冒険者たちは、意識を保っている一人を除けば、HPがすでに0を下回っているはずだ。

 このまま攻撃を受け続けたら、命を失う可能性が大きい。


 あ、でも。


「──うぉおおおおおおっ!」


 唯一残っていた剣士らしき冒険者が、涙を流しながら一体のキラーアントソルジャーに斬りかかった。


 その一撃はソルジャーの肩から胸にかけてを斬りつけたが、決定打には至らず。

 逆にソルジャーの気を引いてしまい、その冒険者は槍による反撃を受けて倒れた。


 あれならHPが0を下回って気絶しただけで、差し当たって命に別状はなさそうだが。

 無茶しやがって……。


 そんな一幕はあったものの。

 戦闘の主軸は、俺たちのパーティとキラーアントの群れとの戦いへと移行した。


 深紅の巨大蟻の群れは、怒涛の勢いで俺たちに向かって殺到してくる。


「くらえ、【三連衝】!」

「はぁあああああっ!」

「クァーッ!」


 対する俺、風音さん、グリフォンは、群がってくるキラーアントどもを次々となぎ倒していった。


 数は多いが、今の俺たちにとっては、通常種のキラーアントは雑魚同然だ。

 上位種であるソルジャーも、俺の【三連衝】ならば瞬殺可能。


 当初うじゃうじゃといた深紅の巨大蟻たちは、あっという間に数を減らしていく。

 だが──


「──キシャアアアアアアッ!」


 そのとき、大ボスであるキラーアントクイーンが動いた。


 クイーンは、俺たちの位置から数メートルほどの中距離に鎮座していたのだが。


 上半身を起こしたその巨体の口から、俺たちに向かって、何やら粘ついた液体を大量に吐き出してきたのだ。


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