第249話 難癖
話がまとまると、レイドメンバーはパーティごとに分かれ、それぞれに別の「穴」へと散ることになった。
だがそのとき──俺たちが村の中央広場を離れて、自分たちの担当の「穴」に向かおうとしたときのことだ。
レイドに参加しているパーティのうちの一つが、俺たちの前にやってきた。
威嚇的な態度でぞろりと並ぶ、三十代ぐらいの中年冒険者たち。
この四人組は、たしか「暁の戦士団」とかいうパーティ名だったと思う。
風音さんや弓月をさんざん弄ってきたのも、こいつらが主軸だった。
ほかのパーティの連中も乗っかってはいたのだが、一番タチが悪そうなのはこいつらだ。
いったい何の用かと思っていると、口火を切ったのは、このパーティのリーダーである斧を手にした男だった。
「ハッ、クイーンをテメェらだけで倒せるだの、ずいぶんイキッてくれたもんだな。『大地の槍』さんよぉ?」
この言い様で、話の方向性はだいたい分かった気がした。
ようは俺たちのことが気に入らないから、難癖を付けにきたのだろう。
他のメンバーも、リーダーのあとに追随する。
「世間知らずな僕ちゃんたちは、自分たちだけでちゃんとお仕事できるんでちゅかねぇ?」
「分かってるか坊主。パーティごとに別の穴に潜るんだぜ。もう俺たちの陰に隠れて仕事したふりはできねぇぞ?」
「おいおいお前ら。この少年たちは、どうせこれから現実ってものを知ることになるんだ。今からそんなにイジメてやるなよ」
「おっと、そうだな。すまなかったな坊主たち。これからお前たちは、否応なしに冒険者の世界の厳しさってものを知ることになる。挫けないようにせいぜい頑張れよ」
「そっちのかわいこちゃんたちには、今のうちに俺たちが手取り足取り教えてやってもいいぜ」
「おいおい、手取り足取り教えるって、何を教えるつもりだよ」
「何って、ナニに決まってんだろうが。女が冒険者の世界で生きることの意味ってやつを教えてやるのよ」
「ハハッ、お前らそればっかだな」
「「「「ギャハハハハハハッ!」」」」
「「「…………」」」
えーっと……いろいろ言いたいことはあるのだが。
まずこの四人は、先の集団戦闘で誰が活躍したのかを、まったく見ていなかったんだろうか?
いや、見ていなかったんだろうな。
こういう虚栄心が強い人たちって、人の戦果とか活躍とか認めなさそうだし。
俺たちもできるだけ目立たないよう、どさくさに紛れるようにはしていたしな。
いやそれを抜きにしても、レイドに参加している時点で俺たちにAランク相当の実力があることは分かるだろうに。
知能とかないのだろうか。
猿どもは動物園に帰ってくれないかな。
「行こう、大地くん。構うことないよ」
「そーっすよ先輩。こんなやつらに関わるだけ、時間と労力の無駄っす」
「そうだな。行こう、二人とも」
俺は風音さんと弓月を連れ、「暁の戦士団」のメンバーを無視して、その場から立ち去った。
俺たちのパーティが担当することになった「穴」のほうへと向かう。
「ケッ、スカしやがって色男が。なーにが『行こう、二人とも』だよ」
「まったく、クソ生意気なガキどもだぜ」
背後からはそんな声が聞こえてきた。
それにしても俺、いつから色男枠になったんだろうなぁ……。
異世界の不思議である。
まあ風音さんと弓月の二人を連れてイチャイチャしていたら、そりゃ色男枠にもなるかという気もするけど。
さておきそんなわけで、レイドメンバーはパーティごとに分かれて、各自が担当する「穴」へと移動した。
俺たちが潜るのは、村の入り口近くにあった穴だ。
キラーアントによって掘られたのであろう直径二メートル以上もある穴は、入り口から斜めに下る、下り坂の道になっていた。
多少圧迫感があることは否めないが、普通に歩いて通れないほど狭くもない。
穴をのぞき込んで、風音さんが言う。
「キラーアントが掘ったにしては、大きな穴だよね。あの大きさの蟻でも、ここまでの広さはいらない気がするけど」
「ソルジャーやメイジが歩いて通れるようにじゃないっすか?」
「あー、なるほど。上位種のモンスターのために余計な仕事をしないといけない平モンスターかぁ。ちょっとした悲哀を感じるね」
「おかげで俺たちも動きやすいんですけどね。──この広さだとギリギリ二人、横に並んで戦えなくもないぐらいか。俺と風音さんが前衛、弓月が後衛はいいとして。グリフォンは……どうするかな」
「クピーッ?」
俺の肩に乗ったミニグリフォンが首を傾げる。
ここから先はほかのパーティの目はなくなるから、ペット状態ではなく、本来の大きさに戻して戦闘要員にしてもいいのだが。
「とりあえずそのままでいいんじゃないっすか? 元の大きさに戻したら、グリちゃん窮屈そうっすよ。うちらも窮屈になるっす」
「そうだな。いざとなったら戻せばいいか」
そんなわけで、大まかに方針が決まった。
俺は手にしたランタンに灯を入れて、先頭に立って穴の中へと足を踏み入れていった。




