第248話 作戦会議
村に入ったレイドメンバーは、四つのパーティで手分けして、村じゅうを探索して回った。
残存のキラーアントや逃げ遅れた生存者などがいないことを確認してから、総勢十六人の冒険者たちは村の中央広場へと集合する。
中央広場の地面には一つ、大きな「穴」があった。
人間やキラーアントが、ゆうに潜っていける大きさの穴だ。
村にはほかにも三つ、同様の「穴」が見付かっている。
いずれもキラーアントの「巣」の入り口に違いない。
広場に集まったレイドメンバーを見回して、ガドルさんが言う。
「村には『穴』がちょうど四つある。狭い穴に大人数で入っても邪魔になるだけだ。一つの穴に一つのパーティが潜って探索をするほうが効率がいい。異論はあるか」
俺もほかのパーティのリーダーも、首を横に振ってガドルさんの方針を肯定する。
俺たちにとっては、討伐数を余分に稼ぐことは難しくなるかもしれないが、かと言ってここで反対するのも変な話だ。
自分たちのパーティだけで動けたほうが、圧倒的に気が楽なこともあるしな。
各パーティの同意を確認して、ガドルさんが続ける。
「この規模のキラーアントの群れなら、必ずどこかにクイーンがいるはずだ。分かっていると思うが、どこのパーティもクイーンを見つけたら手出しをせず、一度撤退しろ。全パーティで合流して、レイドの総員で叩く。護衛を引きつれたクイーンは、一つのパーティでどうこうできる強さじゃねぇからな」
「あの」
俺は挙手をする。
ガドルさんが「なんだ」と応じたので、俺はこう質問した。
「もし倒せそうなら、俺たちだけでクイーンを倒してしまってもいいですか?」
ミッションの都合上、できればクイーンには俺たちでトドメを刺したい。
多少の経験値ならともかく、1万ポイントはさすがに拾っておきたいからな。
だが俺の発言を聞いて、周囲の冒険者たちからドッと嘲笑が巻き起こった。
「ぷふっ……! おいおいおいおい、聞いたか今の? 『もし倒せそうなら、俺たちだけでクイーンを倒してしまってもいいですか?』だってよ!」
「ひーっ、腹痛てぇ! 笑い死ぬ!」
「怖いもの知らずの若い頃ってのは、俺たちにもあったけどよぉ。モノを知らねぇってのは怖ぇなーっ」
ゲラゲラと笑い転げる冒険者たち。
俺は口をへの字に曲げるしかない心境だったし、風音さんや弓月も似たような顔をしていた。
俺の肩に乗っていたミニグリフォンも、「クピッ、クピーッ!」と怒ったような声を上げて飛び回った。
こいつは今のところ、ほかの冒険者たちからは謎のペットだと思われているようだ。
ガドルさんが俺の目を見て、諭すように伝えてくる。
「やめておけ。一つのパーティでどうこうできる強さじゃねぇって言ったろ。モンスター図鑑のクイーンのデータを見て舐めてるんだろうが、クイーンにはソルジャーやメイジを含めた多数のキラーアントが護衛についてんのが普通だ。自信過剰もほどほどにしておけよ」
ガドルさんの言葉からも分かるとおり、キラーアントクイーン自体のステータスはさほどではない。
もっともそれは「ドラゴンなどのS級ボスモンスターと比べれば」の話ではあるが。
クイーン単体だけなら、Aランク相当のパーティ単独で、何とか戦えるかもしれないぐらいの塩梅だ。
しかしクイーンには、上位種を含めた多数のキラーアントが護衛についているのが一般的だ。
それらも加味した総合的な戦力値は、普通の熟練冒険者パーティが太刀打ちできるレベルのものではない──と、これもモンスター図鑑に書かれていた情報として、もちろん把握している。
「まあ、そうだな。あるいは──」
ガドルさんが、俺の目の前まで歩み寄ってきた。
彼はほかの冒険者たちに聞こえないぐらいの小声で、こう囁いてくる。
「お前らが『限界突破』でもしているなら、話は別かもしれねぇがな」
ガドルさんがじっと睨みつけてくる。
「限界突破」をした覚醒者は、この世界でも決して数多く存在するわけではないようだ。
だが、まったくいないわけでもない。
これだけ条件が揃えば、さすがにその可能性を疑われるか。
……この人になら知られても、問題はないか?
いや、一応はぐらかしておこう。
口が堅いかどうかは分からないし。
「どうでしょう。しているかもしれませんよ、限界突破」
「ふん、教えるつもりはねぇってことか。まあいい。気にいらねぇが──」
ガドルさんは俺の前から離れていく。
それからほかの冒険者たちにも聞こえる声で、こう言い放った。
「いいだろう。そこまで言うなら、勝手にクイーンに挑んで勝手におっ死ねばいい。自殺志願者どもを止めるつもりはねぇよ。だが万が一、お前らが単独でクイーンを倒せたとしても、クイーン討伐の手柄はレイド全体のものだ。俺たちだって、ここまで来て報酬の取りっぱぐれは御免だからな」
「分かりました。ありがとうございます、ガドルさん」
俺はガドルさんに向かって頭を下げた。
ガドルさんは顔をしかめて「相変わらず妙なガキだな、テメェは」と言った。
「おいおいガドル、あいつらがクイーンを単独討伐できるって、まさか本気で信じてんのかよ」
「万が一っつったろ。そもそもクイーンを見つけたのがあいつらじゃなけりゃ、それまでだ。面倒くせぇから好きにしろって言っただけだよ」
別のパーティのリーダーとそう話すガドルさんである。
確かにガドルさんの言うとおり、俺たちがクイーンを発見できるかどうかは、確率四分の一なんだよな。
そこはもう、ほぼ完全に運の世界だ。
まあレイドで叩くとなったら、そのときはうまいことトドメを掻っ攫うしかないな。
あとは出たとこ勝負だ。
そうして話がまとまると、レイドメンバーはパーティごとに分かれ、それぞれに別の「穴」へと散ることになった。