第244話 チンピラ冒険者の再来
レイドクエスト「キラーアント討伐」への申し込みを終えた俺たち。
しばらくすると、レイドに参加するほかの三つのパーティとの顔合わせをすることになった。
冒険者ギルドの建物内の一角に、四パーティ、合計十六人の冒険者たちが集合する。
俺たちのほかには、四人パーティが二つ、五人パーティが一つだ。
見たところ粗野な男たちばかりで、女性は一人もいない。
年齢層は二十代後半から四十代ぐらい。
五人パーティのリーダーらしき男が、場を仕切りはじめる。
ガタイのいい四十代ぐらいの中年冒険者だ。
「よし、揃ったな。こっちの三パーティは見知った顔として──見ねぇツラが三人いるな」
男の視線が俺たちの方へと向く。
俺たちはぺこりと、小さく会釈してみせた。
だが周囲の冒険者たちの目は、風音さんや弓月のほうへと向いていた。
「へへっ。まだガキくせぇところはあるが、たまんねぇな」
「ああ、大した上物だぜ」
一人の冒険者がぺろりと舌なめずりをし、隣にいた冒険者が同調するようにへらへらと笑う。
ほかの冒険者たちも、大なり小なり似たような視線を向けてきていた。
ああ、こいつらそういう手合いか。
俺は早速、げんなりしていた。
一方で、それらの視線を感じて容赦なく冷たい声を上げたのは、風音さんだ。
「あの。不愉快なので、じろじろ見るのやめてもらえますか」
「そーっすよ。うちらのことをじろじろ見ていいのは、先輩だけっす」
弓月もそう言って、俺の左腕に抱き着いてくる。
それを見た風音さんも、名案だとばかりに俺の右腕に抱き着いてきた。
不躾な視線を向けてきていた冒険者たちの何人かが、三体合体した俺達を見て、露骨に舌打ちをする。
「チッ、ハーレム野郎か」
「くそっ、あのガキ一人で美女二人独占かよ。ふざけやがって」
あ、このパターンには覚えがあるぞ。
懐かしのチンピラ冒険者たちに絡まれたときのやつだ。
だがあのときと今回とは、ちょっと様相が違う。
男たちはへらへらと笑いながら、次々とこんなことを言ってきた。
「なあ兄ちゃん、いい女を二人も独り占めにするってのはよくねぇ。そう思わねぇか?」
「そうそう。どっちかでいいから、恵まれない俺たちに貸してくれよ。一晩でいいからよ」
「いやいや、一人でこの人数相手にさせたんじゃ、さすがにかわいそうだ。二人とも借りとこうぜ」
「ちげぇねぇ! じゃあ二人ともで」
「「「ギャハハハハッ!」」」
「…………」
あー、なんて言うんだろう。
多分この人たち、タチの悪い冗談を言っているだけで、悪気はないんだろうなっていうのがなんとなく分かってしまった。
いやこっちとしてはガチで不愉快なんで、悪気があろうがなかろうがあまり関係ないのだが。
あと俺に引っ付いている風音さんの殺意が、ひしひしと伝わってくる。
弓月は怯えのほうが強いようだが。
いくらか品行方正なのがあらかた聖騎士になると、残っているのはこういう手合いばかりになるのか。
冒険者が人々に疎まれる理由が、なんとなく分かってしまった。
ともあれここは一つ、舐められないようにぶつかっておくべきところだろうな。
俺はひとつ深呼吸をしてから、覚悟を決めて、男たちに向かってこう言った。
「このメンバー、レイドクエストのために集まったんですよね? 早く本題に入ってもらえませんか。それとも俺が仕切りましょうか?」
敵意が言葉にあふれ出てしまったのは、やむを得ないことだったと思う。
俺の女に舐めたちょっかいくれてんじゃねぇぞ、ぐらいの気持ちは俺だって持つのだ。
「おおっ、先輩が怒ってるっす」
「いいぞ大地くん! もっと言ってやれ!」
俺に抱き着いている二人の女子が、やんややんやとはやし立ててくる。
うん、気を取り直してくれたようで何よりだよ。
一方で、対峙する十人余りの冒険者たちは、露骨に機嫌を損ねた顔になる。
うち一人が「んだと、このガキ」などと言って向かってこようとしたが、それは例の五人パーティのリーダーらしき冒険者が手で制した。
「やめろニック。これからレイドに挑むんだ。無駄ないさかいは起こすんじゃねぇ」
「チッ……。分かったよガドル。あんたがそう言うならな」
いきり立った様子の冒険者は、おとなしく引き下がった。
あの五人パーティのリーダーらしき人、ガドルさんっていうのか。
あの人はいくらかまともそうだし、ほかのパーティの冒険者たちからも慕われているようだ。
彼に任せておけば、レイド管理はおおむね丸く収まりそうだなと思った。