第241話 連携
そんな紆余曲折があって、関係性が劇的に改善したジェラルドさんとミャルラ。
場面は森林中の沼地のある広場、俺たちがグールやジャックオーランタンの群れに遭遇した状況へと戻る。
「ミャルラ、あの亡者どもは僕たちで片付けるぞ!」
「はいですニャ!」
二人の聖騎士は息を合わせ、四体のグールに向かって駆けていく。
片や鎖かたびらを着て、剣と盾を手にした、オーソドックスな戦闘スタイル。
片や衣服の上に軽装の胸当てを身に着け、両手に爪系武器を装備した、素早さ重視の格闘スタイルだ。
そんな二人の聖騎士に、四体のグールが襲い掛かる。
中でも先頭を走ってきた一体が、ジェラルドさんに向かって鋭い爪を振り上げるが──
「させるか、【二段斬り】!」
「もう一撃ニャ!」
ジェラルドさんの剣による二段攻撃がグールに決まった直後、青年の横合いを駆け抜けたミャルラが、同じグールに向けてすれ違いざまに爪を閃かせる。
ジェラルドさんの攻撃だけでは落ちなかったグールも、ミャルラの攻撃によってトドメを刺されて消滅、魔石へと変わった。
「ミャルラ、先行しすぎるな! 前衛は僕が引き受ける!」
「分かってるニャ! 私は【ガイアヒール】で援護すればいいニャよね!」
ミャルラは先頭の一体を撃破するとすぐに、ぴょんぴょんとバックステップ。
残る三体に接敵されるよりも前に、ジェラルドさんの背後へと戻った。
「ああ、頼む! ミャルラの援護があれば、この程度の数のグールなど──!」
ミャルラを守るように前に出たジェラルドさんは、続いて襲い掛かる三体のグールを相手に、奮闘を始めた。
盾やフットワークを活かしてグールどもの麻痺爪攻撃を防御しつつ、剣を使った【二段斬り】で反撃を仕掛けていく。
もちろんすべての攻撃を防御できるわけではない。
グールの麻痺爪攻撃はそのいくつかが命中し、鎖かたびらを引き裂いて聖騎士の体にダメージを与えた。
もっともグールの攻撃力では、鎖かたびらの上からではさほどのダメージにはならないはずだ。
25レベルのジェラルドさんなら、一撃のヒットでHPを一割ほど削られるぐらいのものだろう。
だがバッドステータスの「麻痺」によって、ジェラルドさんの動きは着実に鈍っていく。
被弾回数が累積すれば、麻痺も累積し、やがては動けなくなってしまうだろう。
「ジェラルドさんは私が守るニャ──【ガイアヒール】!」
しかしそこは、後衛についたミャルラが、HPダメージと麻痺を同時回復する魔法で援護をする。
ミャルラの回復魔法によって万全の状態を取り戻したジェラルドさんは──
「助かる! ──はあっ!」
モンスターの隙を見て、さらに一撃、剣による斬撃を放った。
先の【二段斬り】によってすでに大ダメージを受けていた一体のグールは、その一撃で消滅、魔石へと変わる。
二人の連携は完璧かつ鉄板で、残り二体のグールを相手に後れを取るとは思えない仕上がりだった。
あっちはもう、時間の問題だろうな。
というわけで、俺たちも俺たちで自分の仕事に専念しようと思う。
「風音さん、俺たちはカボチャを!」
「うん、大地くん!」
俺は風音さんとともに、自分たちの敵に向かって疾駆していた。
目標は、夜闇の中に浮かぶ巨大カボチャ三体だ。
三体のジャックオーランタンは、いずれも魔法発動のための赤い燐光を放っている。
距離が少しあったため、俺や風音さんが近接戦闘に持ち込むよりも早く、向こうの魔法が発動しそうだが──
「うちを忘れてもらっちゃ困るっすよ! 凍てつかせろ、フェンリルアロー!」
背後から弓月の声が聞こえてきたと同時。
敵に向かって駆ける俺と風音さんの間の空間を、青白い曳光を放つ矢が貫いた。
その矢は三体いた横並びのジャックオーランタンのうち、真ん中の一体を射抜いた。
直撃部に氷柱の華を咲かせると、そのカボチャは黒い靄となって消滅し、魔石を落とす。
「っし! 一体仕留めたっす!」
弓月の快哉の声。
そんな気はしていたが、やはりジャックオーランタンも一撃か。
それなりに強いモンスターのはずなんだがな。
まあ氷属性が弱点だから、さもありなんだが。
ていうか炎属性と氷属性を自在に使い分けられるうちの大砲、実は相当ヤバいのでは?
さておき、残るジャックオーランタンは二体だ。
足の速い風音さんが、あと数歩で間合いに踏み込める──そのタイミング。
二体のカボチャの魔法攻撃が、一足早く発動した。
片方は炎の槍を生み出して、風音さんに向けて発射。
もう一方は爆炎の魔法を使って、俺と風音さんを同時に炎に巻き込んできた。
「「ぐぅっ……!」」
ダメージは当然あった。
特に炎槍と爆炎、二発分の魔法攻撃を同時に受けた風音さんは、それなりのダメージを受けた様子だ。
繰り返しになるが、ジャックオーランタンはかなり強力なモンスターだ。
一般の聖騎士ならば、一対一で戦っても分が悪いぐらいの相手だという。
しかしそこは、俺たちを任務に駆り出したエルドリック王の戦力見立てが正しい。
「こんな程度で──やぁあああああっ!」
風音さんは、受けたダメージもなんのその。
ジャックオーランタンの一体に飛び掛かって、その手の二振りの短剣で連続攻撃を叩き込んだ。
カボチャ顔のド真ん中を、斜め十字に断ち切られたジャックオーランタンは、負傷部から黒い靄を盛大に漏らす。
明らかな大ダメージを負った様子。
風音さんはすぐさま、ぴょんと横に跳んでその場から離れる。
空いたスペースに駆け込むのは、彼女の相棒──つまり俺だ。
「これで──【三連衝】!」
俺の右手がスキルの輝きを宿し、槍による高速三弾突きを叩き込んだ。
おそらくだいぶオーバーキルだ。
そのジャックオーランタンはたまらず黒い靄となって霧散し、魔石を落とした。
ジャックオーランタンの最大HPは230。
一方で俺の槍による攻撃は、相手にもよるが、近頃は一撃で70点ほどのダメージを叩き出せる傾向にある。
手負いを狙わずとも、ひょっとすると俺の【三連衝】だけで瞬殺できたかもしれない。
だがそこで、無理にギャンブルをする必要もない。
なぜなら──
「これでゲームエンドっす! フェンリルアロー!」
うちには超火力の大砲が別にいるからだ。
弓月が放った二発目の氷の矢は、残ったジャックオーランタンもあっさりと霧散させ、魔石へと変えた。
……いや、今の弓月の性能ヤバいわマジで。
チートだチート。俺にも寄越せ。
というのも隣の芝生は青い的な感想かもしれないが。
ともあれそんなわけで、ジャックオーランタン三体はわりと手早く片付いた。
もう一方の戦場はと見ると、残っていた二体のグールのうち一体が、今ちょうど倒されたところだった。
そして最後の一体にも、ジェラルドさんとミャルラが二人がかりで攻撃を仕掛けていく。
見ているうちに、最後のグールもあっという間に撃破されてしまった。
「よぉし!」
「やったニャ!」
歓喜の声を上げる二人の聖騎士。
だが二人はすぐに、油断のない視線を俺たちの方へと向けて──
そして、唖然とした様子を見せた。
「な……!? ま、まさかジャックオーランタン三体を、このわずかの間で全滅させたというのか……!? ダイチくんたちの飛び抜けた強さは、十分に承知しているつもりだったが……」
「はははっ……やっぱり三人とも化け物ニャ……。本当にベネディクト団長が三人いるみたいニャ……」
どうやら俺たちの援護に移行するつもりだったようだが、状況がすでに片付いているのを見て驚いたようだ。
ジェラルドさんは参ったという様子で、ミャルラは表情を引きつらせた半笑いで、俺たちのことを見ていた。
というわけで、森の中の広場にいたモンスターの全滅に成功した俺たち。
そこでピコンと、ミッションコンプリートの通知が入った。
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ミッション『ジャックオーランタンを3体討伐する』を達成した!
パーティ全員が15000ポイントの経験値を獲得!
特別ミッション『聖騎士ジェラルド、聖騎士ミャルラとともにモンスター討伐を完遂する』を達成した!
パーティ全員が20000ポイントの経験値を獲得!
新規ミッション『ヴァンパイアを1体討伐する』(獲得経験値70000)を獲得!
弓月火垂が44レベルにレベルアップ!
現在の経験値
六槍大地……716354/720298(次のレベルまで:3944)
小太刀風音……699446/720298(次のレベルまで:20852)
弓月火垂……814871/914112(次のレベルまで:99241)
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あー……そういえばまた、経験値調整を忘れていたな。
でもまあ、そんなに躍起になってレベルを合わせる必要もない気がしてきたな。
ミッション達成で全員に経験値が入ることも考えると、成り行き任せでいい気もする。
あと特別ミッションのほうも達成判定が出たってことは、これで討伐任務完了でいいみたいだ。
微妙にメタ情報が入ってくるんだよな。
その後、念のために周辺を探索してみたが、それ以上のモンスターとの遭遇はなかった。
俺たちはモンスター討伐の戦果を手に、王都へと帰還した。