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朝起きたら探索者《シーカー》になっていたのでダンジョンに潜ってみる 〜1レベルから始める地道なレベルアップ〜  作者: いかぽん


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第238話 子供の喧嘩

 いよいよ3日後、7月28日に本作書籍版2巻が発売日となります!(地域によって書店に並ぶ日は多少前後あるかと思います)


 書籍が売れるかどうかによって作品の未来が変わります。

 よろしければ是非、書籍購入による応援をお願いします!


『朝起きたら探索者〜』に皆様の清き一票を、どうぞよろしくお願いします!

 ジェラルドさんのもとを離れた俺は、風音さんや弓月と合流した。

 そしてジェラルドさんから聞いた話を、二人に伝えてみた。


「──という話なんですけど」


「なるほどね~。まあ気持ちは少し分かるけどね。分かるけどさ」


「でもやっぱりシンプルに差別っすよね。ミャルラっち関係ねーっすよ、その話」


「だよなぁ」


 風音さんと弓月も、おおむね俺と同じ感じ方のようだった。


 ジェラルドさんが話した出来事は、一つの家族に起こった悲劇として、同情するに足るものだとは思う。

 当事者にとっては、俺たちが思うよりもはるかに大きなインパクトがあることも想像できる。


 でもだとしてもそれは、ミャルラとは関係のない話だ。

 別の猫耳族の女性に関する責めを、ミャルラに負わせるのはおかしい。


 ちなみにミャルラには一応、この話は聞かせていない。

 それはジェラルドさんの意志に、ものすごく反しそうだったからだが。


 今そのミャルラはというと、また果敢にジェラルドさんに話しかけていた。


 もちろんジェラルドさんは、超塩対応。

 罵詈雑言も当たり前だ。


 まあ関わってくるなと言っているのに執拗に話しかけるミャルラが鬱陶しいのも、分からないでもないが。

 だとしてもなぁ……。


 だいたい、あんな素直でかわいい子が好意的に接してくれるのに、何が不満なんだ。

 贅沢者め。探索者(シーカー)になる前の俺に謝れ。

 と、そういう話でないことは分かりつつも、関係ないことを思ってしまう。


「けどミャルラっちも、我慢強いっすねぇ。うちならとっくにキレてるっすよ」


「ホントホント。でもミャルラちゃんも、さすがにそろそろ限界なんじゃないかなぁ。それっぽい兆しあったよ」


 弓月と風音さんが、やんややんやとやり合うジェラルドさんとミャルラを見ながら、そんな感想を言い合っていた──その矢先のことだった。


 ジェラルドさんに付きまとっていたミャルラが、ぴたりと動きを止めた。


 もう一人の聖騎士に置いてけぼりにされる中、獣人の少女は棒立ちの姿で両手をギュッと握って、ふるふると震える。

 そして──


「もういいニャ! ジェラルドさんなんか知らないニャ! そんなに私のことが嫌いなら、ずっと嫌っていればいいニャ!」


 瞳に涙を浮かべたミャルラは、ジェラルドさんに向かってそう怒鳴りつけた。


 これまでジェラルドさんから、どれだけ無碍(むげ)に扱われようとも決してなかった、ミャルラからの否定。


 風音さんと弓月が「「ああ~」」と声を上げて、嘆息する。

 俺もまた、ついにこうなったかという印象だった。


 一方で、ミャルラの叫びを聞いたジェラルドさんは、さすがに立ち止まった。

 そして冷たいまなざしとともに振り返り、ミャルラに対してこう返した。


「ようやく理解したか、知恵足らずめ。僕がお前のことを嫌いだという、たった一つのことを理解するのに、これだけ長くかかるとはな」


 ジェラルドさんは、ミャルラが泣いていることなど意にも留めない様子で、また一人で先へと進んでいってしまう。


 ……いや、どうだろう。

 少しだけ動揺の色があったようにも見えたが。


 一方のミャルラは、その場で立ち尽くしたままボロボロと涙を流していた。


 ……エルドリック陛下、これ采配ミスじゃねぇかな。

 俺たちのせい、じゃないよな。

 それともここまで計算に入れて、あの二人を一緒の任務に投げ込んだ?


 分からないけど、いずれにせよ断絶が深まったのは確かだと思った。


 だがミャルラもさすがに、一人前の聖騎士だ。

 涙をぐしぐしとこすって持ち直すと、任務を続行するため歩き始めた。


 俺のすぐ前では、小型化状態のグリフォンがパタパタと飛びながら、「クピーッ?」と首を傾げる様子を見せていた。


 その後も任務は、普通に進行した。


 しばらく進んでいったところで、俺たちは再びグールの群れに遭遇した。

 数は先よりも多く、十体以上。


 別に苦戦するほどの相手でもないが、左右から挟み撃ちにされたことなどもあって、殲滅までには少々の時間がかかった。


 その戦闘の最中にも──


「なっ……!? 邪魔だ獣人! 俺の背後に立つな!」


「はぁ~っ!? そっちこそ周りも見ないでバックステップしてくるんじゃないニャ! こっちのが迷惑ニャ!」


「な、なんだと獣人風情が……! ぐっ……!」


「ははっ、馬鹿ニャ! よそ見してるからグールに引っ掛かれ──にゃあっ!」


 ジェラルドさんとミャルラ、二人の聖騎士の戦いぶりは、ダメダメだった。


 ジェラルドさんのミャルラに対する罵詈雑言は据え置きのまま、吹っ切れたミャルラもまたジェラルドさんに罵倒の言葉を返す。


 そのせいもあってか、普通はあり得ない凡ミスを犯して、二人ともグールの麻痺爪に引っ掛かれる始末。

 連携を取ることはおろか、お互いが邪魔になっている有り様だ。


 ……ていうか、お前ら子供か。

 試験で人格を認められただとか、ホントどこいった。


 俺たちがいるから戦闘はどうとでもなるけど、並の部隊だったらワンチャン全滅まであるんじゃなかろうか。

 ひょっとして俺たち、甘えられてる?


「はあっ……。大地くん、いくら何でもアレはひどくない?」


「うちもさすがに、アレはどーかと思うっすよ。バイトの勤務中にあれやったら、キッチンで正座させられて説教まであるっす」


「いや、お客さんに聞こえるところでやったらダメだろ……じゃなくて。でもまあ、そうだよな。さすがに度が過ぎてると俺も思うわ」


 戦闘終了後、魔石を拾いながら、風音さんや弓月とそんな話をする。


 さすがにあれは、社会人としてダメだ。

 ていうか、この世界の覚醒者にまともな大人はいないのか。

 たまにいる。いやそこそこいる。

 でもひどいのも多い。


 けど冷静に考えて、最初からダメダメだったほうがいるよな。


「大地くん」

「先輩」


 風音さんと弓月から、期待のまなざしを向けられる。

 さらにグリフォンまで「クピッ、クピッ!」と、俺に何かを催促するように鳴いた。


 俺、別にあの人の上長じゃないんだけどな。

 しょうがない。


「分かりました、もう一度行ってきます。成果は期待しないでください」


 俺は大きくため息をついて、二人の聖騎士のもとへと向かおうとした。

 だがそこで、風音さんから声がかかる。


「あ、でもちょっと待って、大地くん。私ひとつ、ジェラルドさんの態度で気になることがあるんだ」


「気になること、ですか?」


「うん。なんて言ったらいいのか……ジェラルドさん、ミャルラちゃんに対して、ちょっと照れてる素振りが見えるんだよね」


「あ、それうちも思ったっす。照れ隠しで、わざとつっけんどんにしてる感じあるっすよね」


 ジェラルドさんが、ミャルラ相手に照れている……?

 なんだそれは。


 そんなよく分からない不確定情報を手に入れつつ、俺はあらためて聖騎士たちのもとへと向かったのだった。


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