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第235話 二人の聖騎士

経験値管理にエラーが発見されたので、225話以降、一部数値を修正しました(2023/7/13)

ストーリーに変更はありません。


なお本作書籍版2巻、amazonでは電子書籍(kindle)も予約開始したようです。

よろしくお願いします。

 ──パカラッ、パカラッ、パカラッ、パカラッ。


 月明かりが照らす夜の街道を、五頭の馬が疾駆していた。

 五人の騎手はいずれも、魔石製の武器や防具を身につけた、完全武装の覚醒者だ。


 一人は俺、一人は風音さん、一人は弓月。

 あとの二人は、聖騎士のジェラルドさんと、同じく聖騎士のミャルラだ。


 ジェラルドさんが先行し、その後ろをミャルラが駆ける。

 そのさらに後ろを、俺たち三人が追いかける形だ。


 夜を切り裂くように五頭の馬が駆けていると、やがて前方に村が見えてきた。


「ジェラルドさん! 村が見えてきたニャ!」


「見れば分かる! 僕の目が不自由だとでも言いたいのか!」


「そ、そんなこと言ってないニャ!」


「だったら黙っていろ獣人! 僕に色仕掛けが通じると思うなよ!」


「な、何でそうなるニャ!」


 ジェラルドさんとミャルラは、俺たちと合流してからずっとこんな感じだ。


 ミャルラがコミュニケーションを取ろうとすると、ジェラルドさんが拒絶する。

 ジェラルドさんはミャルラを徹底的に敵視しているように見えた。


 さておき。

 俺たちがなぜ、馬に乗って夜を駆けているかだが。

 その発端は、しばらく前──俺たちが王城で、晩餐に招かれていたときに遡る。


 ベネディクト聖騎士団長から何らかの耳打ちを受けたエルドリック王は、俺たちにとある「仕事」を依頼してきた。


 仕事の内容自体は、そんなに難しいものではなかった。

 王都近隣にある村の近くの森に、モンスターの群れが確認された。

 村の人々に危害が及ぶ前に、モンスターを討伐してきてほしい──と、そういった内容のものだ。


 報酬は高額。

 発見されたモンスターの種類から判断して、俺たちの実力ならそう大きなリスクはなさそうだ。

 場所も近いため、日数がかかるわけでもない。


 ただ付随して提示された条件があって、そっちが少し難儀だった。


 すなわち──聖騎士ジェラルドと、聖騎士ミャルラを同行させること。

 もっと正確に言うと、この聖騎士二人を軸としてモンスター討伐任務を行い、俺たちには戦力として彼らをサポートしてほしいという内容だった。


 元よりエルドリック王が俺たちに頼みたいことは、それだったらしい。

 聖騎士ジェラルドと聖騎士ミャルラ、この二人を一緒の任務に投げ込むから、そのサポートをしてほしいと。

 そこにちょうど、件のモンスター討伐の必要性が舞い込んできたわけだ。


 エルドリック王としては、二人を同じ任務に放り込むことで、何らかの関係性の変化を期待しているようだった。


 ただほかの聖騎士たちが同行すると、彼らも獣人に対する偏見を大なり小なり持っているため、ミャルラが孤立することが目に見える。

 よって、中立の俺たちに同行してほしいと、そういう次第だった。


 ちなみに、この頼みごとを断る権利は、もちろん与えられていた。

 だが俺の予感は、決して外れていなかったのだ。


───────────────────────


 特別ミッション『聖騎士ジェラルド、聖騎士ミャルラとともにモンスター討伐を完遂する』が発生!


 ミッション達成時の獲得経験値……20000ポイント


───────────────────────


 こんな特別ミッションが出た。

 短時間でこなせるであろう近場のミッションで、経験値2万。

 これはかなりおいしい。見逃す手はなかった。


 そんなわけで、急遽呼び出されたジェラルドさん、ミャルラと合流し、馬を駆って目的地へと向かっているのが現在だ。


 ジェラルドさんを先頭にした一行は、やがて村へとたどり着いた。

 疲労した馬を村に預けて、残りの道程は徒歩で進むことになった。


 月明かりが照らす夜の街道を、ずんずんと無言で進んでいくジェラルドさん。

 その隣に歩み寄ろうとするミャルラだが──


「あの、ジェラルドさん」


「なんだ獣人。任務に必要なことか」


「えと、そういうわけでもないんニャけど」


「ならば話しかけてくるな。馴れ馴れしくするなと何度も言ったはずだ。獣人には言葉を理解する頭もないのか」


「ん~~!!!」


 ミャルラを無碍(むげ)にして先に進むジェラルドさん。

 獣人の少女は癇癪(かんしゃく)を我慢するように、その場で地団駄を踏んだ。


 ……あれ、ミャルラのほうもいい加減に限界なんじゃないかな。

 そりゃそうだろ、とは思う。

 何しろジェラルドさんの言い草がひどすぎる。


 だがミャルラの前に、先に堪忍袋の緒が切れた人物がいた。

 その声は、俺のすぐ横から聞こえてきた。


「あーのーさーあーっ! ずーっと思っていたんですけど! ジェラルドさん、その態度はなくないですか!?」


 ずかずかとジェラルドさんに向かっていったのは、誰あろう、風音さんだった。

 前を歩いていたジェラルドさんは、少し驚いた様子で振り向く。


「な、なんだ一体。あなたたちには関係のないことだ。口出しはやめてもらおうか」


「はぁーっ!? 関係ありますぅーっ! この任務の間じゅう、ずーっとそんな態度でいられたんじゃ、こっちが迷惑だって言ってるんです!」


「うっ……い、いや、それは……」


 風音さんの剣幕に、気圧された雰囲気のジェラルドさん。

 風音さんはなおも、ずずいと寄っていく。


「一番良くないのは『獣人』って呼び方です! ミャルラちゃんは『獣人』じゃなくて、ミャルラちゃんでしょ! どうして人の名前もちゃんと呼ばないんですか!」


「いや、だからそれは……あなたたちには、関係ない。関わらないでもらおう」


 ジェラルドさんはバツの悪そうな顔になって、風音さんに背を向けた。

 そのまま早足で、逃げるように進んでいく。


 風音さんは腰に手を当てて、ため息をついた。

 俺の隣に戻ってくると、あきれた様子で言う。


「ダメだねあれは。完全に殻にこもっちゃってる。出会ったばかりの頃の大地くんだって、あそこまで酷くはなかったよ」


「あの、風音さん。またさりげなく俺をディスってません?」


「あっ……。う、ううん、違う、違うの大地くん。大地くんは最初っから、もっとずっとかわいげがあったよ? ただちょっと、人との間に壁があっただけで」


「それもあまりフォローになってないですけど……。でも風音さんは最初から、びっくりするほど親しげに話しかけてくれましたよね。おかげでこうして、いま一緒にいられるんですけど」


「そうそう、奥手の大地くんと私がこうして幸せでいられるのは、私が親しげに話しかけたおかげなのだ。感謝するがいいよ。えへんっ」


「はは〜。いつも感謝してます。大好きです、風音さん」


「ふわっ!? え、えへへ〜。私も大好きだよ、大地くん♪」


「……流れるようにイチャつきはじめたっすね。うちも混ざりたいとこっすけど、それよりミャルラっちが困ってるっすよ」


 弓月にツッコミを入れられた。

 見ればミャルラが、話に入りたそうにしながら、間合いを覗っていた。


 風音さんが「おいでおいで」と手招きすると、てててっと小走りでやってくるミャルラ。

 ちなみに今のミャルラは、軽装の胸当てを身に着け、格闘用の爪系武器を両手に装備している。


「カザネさん、私のために、ありがとうございますニャ」


「いいのいいの、私がムカついただけだから。ミャルラちゃんも、もっとガツンと言ってやればいいんだよ」


「うーっ……でも喧嘩をしたらダメなのニャ。同じ聖騎士として、ジェラルドさんとは仲良くならないといけないニャ」


 ミャルラはちらりと、前方に視線を向ける。

 道の先を一人で歩く、ジェラルドさんの孤独な背中がそこにはあった。


 うーん……。

 これじゃあミャルラが孤立する代わりに、ジェラルドさんが孤立しているだけだな。


 自業自得とは言え、なんかちょっと可哀想になってきた。

 俺が行って、少し話を聞いてみるか。


「風音さん、弓月、ミャルラのことはお願いします。俺ちょっと、ジェラルドさんと話して──」


「──待って、大地くん」


 そう呼び止めた風音さんの声は、真剣みを帯びていた。

 このパターンは、あれか。


 見れば前方を歩いていたジェラルドさんも、剣を引き抜き、盾を構え、街道の右手側にある森の奥へと視線を向けていた。


「構えろ、モンスターだ!」


 ジェラルドさんのその声と、ほぼ同時。

 彼の視線の先、森の闇の中から、多数の人型の何かが飛び出してきた。


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