第218話 決着
ファイアドラゴンの撃破を確認した俺は、もう一つの戦場へと視線を向ける。
俺たちの位置から少し離れた場所で、ユースフィアさんがファイアジャイアントと接近戦を繰り広げていた。
細身剣を手にした小柄なダークエルフは、おそろしく素早い動きで右へ左へと跳び回り、自分の何倍もの背丈を持つ巨人を翻弄していた。
その敏捷性は、風音さんをも凌ぐほどの凄まじさだ。
ユースフィアさんも多少はダメージを負っているようだが、ファイアジャイアントはもっと弱っていて、このまま放っておいても負けることはなさそうだった。
「先輩、こういうのって、トドメもらっちゃってもいいもんなんすかね?」
「いいんじゃないか? ファイアジャイアント討伐のミッションもあるしな。怒られたら怒られたで、あとで謝ろう」
「あー、そんなものもあったっすね。んじゃ、遠慮なく──フェンリルアロー!」
俺の隣で、弓月のフェンリルボウが火を噴いた。
青白い曳光をひく一撃が、ファイアジャイアントの左胸に一直線に突き刺さる。
そのとき当の巨人は、巨大剣にスキルの光をまとわせ、ユースフィアさんに向けて振り下ろそうとしていた。
だがその一撃が、繰り出されることはなかった。
ファイアジャイアントの巨体が消滅し、魔石が落ちる。
弓月の攻撃がトドメの一撃になったようだ。
「ほ、そっちのほうが早よ終わったか。なかなかやるの」
ユースフィアさんは魔石を拾いつつ、俺たちのもとへとやってきた。
獲物のトドメをかっさらったことに対して、特にお叱りはなさそうだ。
グリフォンも担当のフレイムイーグルを撃破していたようで、俺のもとに戻ってきて、ふさふさの体をこすりつけてきた。
そのくちばしには、倒したフレイムイーグルのものであろう魔石がくわえられている。
お、偉い。溶岩に落っことさずに回収したのか。
俺は魔石を受け取ると、すり寄ってきたグリフォンの頭部を褒める意図でなでてやる。
グリフォンは嬉しそうに「クアーッ」と鳴いて、さらに俺にすり寄ってきた。
「大地くん、大地くんっ」
「先輩、先輩っ」
それを見た風音さんと弓月が、俺の前にやってきて、何かを期待するような目で見つめてきた。
弓月に至っては、帽子を外して待ち受けている。
キミたち俺の従魔じゃないよね?
それでいいの? 人としての尊厳はどこへ?
というのも今さらな話で、俺は二人の頭を順になでた。
「風音さんも弓月も、お疲れ様。二人とも頑張ってくれたおかげで、無事に勝てました。ありがとう」
「えっへへー。大地君の頭なでなでは今日も格別だね」
「にへへー。マイルドながら奥深い味わいっす」
相変わらずよく分からない品評が返ってきた。
頭なでなでソムリエかな?
「あと先輩、うちのこと守ってくれてありがとうっす。超カッコよかったっすよ。うちキュンキュンしたっす。帰って先輩が鎧を脱いだら、抱き着いてもいいっすか?」
「うっ……い、いや、もちろんいいけど。別に、特別にお前を助けたわけじゃないからな。戦局を見て、必要だと思ったからやったまでで」
「うーん。これは照れ隠しなのか本心なのか、どっちかな」
「微妙なとこっすね。うちは素直じゃないだけに一票っす。そんな先輩もかわいいっすよ」
俺がついツンデレ台詞で返してしまったところ、またしても風音さんと弓月の間で俺の品評会が開かれてしまった。
くそぅ。恥ずかしいぞ。
あと弓月め、かわいいとか言いやがって。あとで覚えてろよ。
お前もさんざんかわいくしてやる。キャンキャンと仔犬のように鳴くがいい。
「でもちょっとだけ、大地くんに守ってもらえる火垂ちゃんが羨ましいかも。私も守られるヒロインやってみたいな~」
「風音お姉ちゃんも、うちを守ってくれる側っすからね。お姉ちゃんも、ありがとうっす」
「どういたしまして~♪」
風音さんは弓月を抱きしめて、その頭をなでなでした。
ちょっと百合百合しい。尊い。
すると俺はさしずめ百合の間に挟まる男か。いかん、消されそうだ。
「……あー、おぬしら、そろそろいいかの。ここ暑いから、用が済んだら早よ出たいのじゃが」
ジト目のユースフィアさんがツッコミを入れてきた。
そうだ。達成感やら何やらで忘れていたけど、俺たちはまだダンジョンを出ていないのだ。
すべてのモンスターの撃破に成功した段階で、ボス部屋の奥にあった大扉は、音を立てて開いていた。
扉の先には、転移魔法陣の輝きが見える。
またファイアジャイアントを倒したときに一つ、ミッション達成の通知も出ていた。
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ミッション『ファイアジャイアントを1体討伐する』を達成した!
パーティ全員が40000ポイントの経験値を獲得!
六槍大地が39レベルにレベルアップ!
小太刀風音が39レベルにレベルアップ!
弓月火垂が40レベルにレベルアップ!
現在の経験値
六槍大地……457634/499467(次のレベルまで:41833)
小太刀風音……458926/499467(次のレベルまで:40541)
弓月火垂……542301/564547(次のレベルまで:22246)
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一時は危ういシーンもあったが、結果を見れば万事オーライだ。
俺たちは回復などの戦後処理を済ませると、開かれた大扉の先へと進んでいった。