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第215話 ボス部屋(ハッピーセット)

 両開きの大扉が音をたて、ひとりでに開いていく。

 扉の向こう側からは、灼熱地獄のごとき熱気があふれ出てきた。


 無論、命に別状があるようなものではない。

 俺たちは臆することなく扉をくぐり、その先へと踏み出していった。


 そこは広大な広間のようだった。

 おそらくは高校の体育館よりもはるかに大きな空間で、天井もおそろしく高い。


「ようだ」「おそらくは」というのは、広間全体が妙に薄暗く、奥の方は闇に包まれていてよく見えないからだ。


 また空間自体は広くとも、俺たちが立つ「足場」はそれほど広くはない。

 奥行きはかなりありそうだが、その道幅はせいぜい四車線の道路ぐらいのもの。


 ではその「足場」の外はどうなっているかといえば、断崖絶壁だ。

 そこから先に踏み出せば、真っ逆さまに落下する。


 広間全体にはグラグラボコボコと、何かが煮えたぎるような音が響き渡っている。

 吊り橋があった部屋で聞き覚えのある音だ。


 足場の外の断崖絶壁の底からは、オレンジ色の灯りが照らしている。

 淵から底を覗けば、眼下にたっぷりの溶岩流を目にすることができるに違いない。


 俺たちは、緩やかに蛇行しながら続く足場を、奥に向かって進んでいく。


 すると──ドーンッ!

 俺たちの左右、断崖絶壁の外からそれぞれ、マグマが噴水のようにして噴き上がった。


 そのマグマの噴水は、一定の高さで上下し、安定する。

 俺たちのほうに溶岩が飛び散ってくるようなことはない安全設計のようだ。


 俺たちが驚きながらも進んでいくと、さらにドーン、ドーンと、道の左右にマグマの噴水が次々と噴き上がっていく。


 ……もう何でもありだな。

 ボス戦演出だからって、とにかく派手にすればいいってもんじゃないと思うが。


 入り口近辺から順に噴き上がっていったマグマの噴水は、やがて速度を増して、俺たちの位置を追い抜いていく。


 やがて広間の奥まで、マグマの柱が噴き上がる。

 それらが持つオレンジ色の灯りが広間の奥を照らし、そこにいるものを浮かび上がらせた。


 足場の一番奥にあったのは、二つの巨大な姿だ。

 その奥にある大扉の守護者であるかのように、左右に並んで鎮座している。


 一体は、赤い鱗を持ったドラゴン。

 もう一体は、赤黒い肌を持つ巨人だ。


 ドラゴンは鱗の色を除けば、飛竜の谷で戦ったエアリアルドラゴンとよく似ている。

 やはり巨大で、あれと戦うなんて何かの冗談だろうと思えるほど。


 だがその隣にいる巨人も、巨大さでは負けていない。

 今はあぐらをかいた姿だが、立ち上がったときの背丈は二階建て住居の屋根をも超えるだろうと想像できる。

 燃え盛る炎のような髪を持ち、頑丈そうな黒鉄の鎧を身にまとい、脇の地面には巨大な大剣が突き立っている。

 バルザムントさんと若干キャラが被っている気もするが、サイズ感はまるで別物だ。


 その姿を見た俺と風音さん、弓月は──


「「「そ、そう来たかぁ~」」」


 三人で半笑いになって、そんな声を上げていた。


 10万ポイントの特別ミッションのボス、何が来るのかと思っていたら、ダブルボスか。

 しかも片方ドラゴンって。ドラゴンの大バーゲンセールかな?


 弓月が俺の手を取って、くいくいと引っ張ってくる。


「先輩、嫌なお知らせがあるっす」


「なんだ後輩。聞こうじゃないか」


「あの巨人、『ファイアジャイアント』って言うんすけど、隣のドラゴンとステータスがほぼ互角っす」


 それはつまり、あの巨人もまた、隣のドラゴンとほぼ互角の強さを持つことを意味する。

 ドラゴン級が二体!


「それは確かに嫌な知らせだな。ちなみにあのドラゴンが、エアリアルドラゴンよりもワンランク格下、みたいなことは?」


「ないっすねー。同格っす。むしろ敏捷力以外は全面的に、あのファイアドラゴンのほうが微妙に上っすよ」


 どうやら何の遠慮も斟酌なく、ドラゴン級が二体のようです。

 やったね。


 ちなみに飛竜の谷のエアリアルドラゴン戦では、心強い第二の回復役としてアリアさんがいてくれたから、俺はだいぶ自由に動き回れた。


 だが今回はそうはいかないだろう。

 あのときよりも全体状況を把握した立ち回りが必要になるはずで、それだけでも難易度が高い。


 それに加えて今回はもう一体、ドラゴンと同格の巨人がセットで付いてくるらしい。

 ご一緒にファイアジャイアントはいかがですか? 結構です。まあまあそう言わずに。サービスでお付けしますよ。やっほい。


 しかし、しかしだ。

 今回はその代わりに、超心強い助っ人であるユースフィアさんがいる。


 猫のように気まぐれで面倒くさくて、こっちの思うようには動いてくれない操作不能NPCノンプレイヤーキャラクターのような存在だが、相当に強いことだけは間違いない。


 さらに俺たちのレベルも、飛竜の谷に挑んだ当時と比べていくらか上がっている。

 やってやれないことはない、はずだ。


 なおボス部屋の御多分に漏れず、ボスたちには登場シーンがあり、その間は無敵状態だった。

 登場シーンでは巨人がおもむろに立ち上がって地面から剣を引き抜いたり、ドラゴンが鎌首をもたげたり、両者が揃って咆哮をあげるなどしていた。


 俺たちはその間、いつも通りに【プロテクション】【クイックネス】【ファイアウェポン】といった補助魔法を全員にばら撒いていった。


 ちなみにユースフィアさんは、その手の補助魔法は持っていないらしい。

 というか敵にかける弱体化(デバフ)魔法なら持っているのだが、試しに撃ってみたところ案の定、無敵状態バリアに弾かれていた。


 さらに俺はその間に、弓月からモンスターデータを細かく確認して、頭の中で作戦を組み立てていく。


 ファイアドラゴンは、属性やステータスが多少違うだけで、だいたいエアリアルドラゴンと同じようなものらしい。

 飛竜の谷での戦闘風景が参考になるだろう。


 ファイアジャイアントは近接二回攻撃スキル「二段斬り」に加えて、「岩石投げ」という特殊能力を持っているようだ。


 後者の具体的な効果はモンスター図鑑でも検索してみないと分からず、今はそこまでの悠長な時間はない。


 見たところ周囲に投げられる岩石のようなものはないから、この場では役に立たない能力なのだろうか。

 だとしたら単純な物理攻撃型のモンスターであり、攻撃力やHPは高いものの、ドラゴンよりは与しやすい相手と言えそうだが。


 やがてボスモンスターの登場シーンが、そろそろ終わりそうな頃合いに来た。


 その頃には俺たちの補助魔法もばら撒き終わって、無敵状態が解けたら即座に攻撃魔法などを放てるように準備をしていた。


 俺たちは広間を縦断する足場の半ばほどに陣取っていて、二体のボスモンスターとの距離は五十歩に満たない程度。

 魔法攻撃がただちに届き、移動して接近戦に持ち込むにもそう遠くない距離だ。


 弓月だけは少し下がっているが、それでも前衛とそう大きく離れてはいない。

 ドラゴンのブレス攻撃はまとめて受けてしまう位置だが、あまり離れすぎてもいろいろ問題が出てくるのでこの配置だ。


 あと何秒で無敵状態が解けるか。

 魔法発動準備を保ったまま、緊張感を持って待ち受けていると、ついにそのときが来た。


 だが「それ」がある可能性については、正直に言ってあまり意識していなかった。


 すなわち──ボスたちが動き出す直前に、いくつかの鬼火が戦場に現れたのだ。


 二体のボスモンスターの前に、それぞれ一つずつ。

 さらに足場の外、立ち並ぶマグマの噴水の前あたりの空中に、左右一つずつ。


 全部で四つ現れた鬼火は、すぐさまモンスターへと姿を変えていく。


 ドラゴンと巨人の前に現れたのは、二体の大きな火トカゲ──サラマンダー。


 マグマの噴水の前に左右一体ずつ現れたのは、炎をまとった大鷲──フレイムイーグルだ。


「……マジかよ。ハッピーセットもほどほどにしてくれよ」


 俺はつい、そうボヤいていた。


 新たに現れた四体のモンスターは、雑魚敵の部類とはいえ、言うほど雑魚ではない。

 吊り橋のあった広間では、状況が悪かったとはいえ、風音さんを窮地に追いやったほどのモンスターたちだ。


「言ってる場合じゃないよ、大地くん! 無敵状態が解けた──来るよ!」


「でしょうね!」


 俺は頭の中で作戦の練り直しを検討するが、悠長な脳内会議の時間は与えてもらえない。


 活動状態になったモンスターたちが、一斉に動きはじめた。


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