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第211話 吊り橋と溶岩流

 ゴポゴポと、何かが煮えたぎるような音が聞こえてくる。


 宝箱と彫像があった部屋を抜け、その先を進んでいった俺たちを襲ったのは、それまで以上の強い熱気だった。


 だが、ここで止まるわけにもいかない。

 意を決し、さらに先へと進んでいく。


 やがて俺たちは、第三の広間にたどり着いた。

 そこは──


「……大地くん、帰ろうか」


「風音さん、残念ながらすでに退路はないです」


「うん、知ってた」


「これはさすがに、落ちたら命がない気がするっす」


 崖の上から溶岩流を見下ろしながら、俺たちは半ばあきらめの境地に達していた。


 トンネル状の通路を進んできた俺たちがたどり着いたのは、眼下に溶岩の川が流れる広間だった。


 広間に入ったばかりの俺たちの位置から見て、こちら側と向こう側の端にそれぞれ足場があり、両者の間を渡すように吊り橋がかかっている。


 足場の崖っぷちから下を覗くと、右から左に流れるたっぷりの溶岩。

 あれに落ちたら、どんな高レベル探索者(シーカー)でも普通に考えて死ぬよなと思う。


 ただ溶岩流の直上三十メートルほどの場所にいるにしては、今の場所は死ぬような熱さではない。


 いや暑いか暑くないかでいったらクソ暑いのだが、真夏の猛暑日の炎天下とかサウナぐらいのもので、呼吸をしたら即死するとか衣服が燃え上がるとか、そういったレベルではない。


 そう考えるとあれもリアルな溶岩ではなく、何かダンジョン的な仕掛けなのかもしれないが。

 いずれにせよ、あの溶岩に落ちたら最後だろうなとは感じる。


 ちなみに吊り橋は、見た感じ足場は木造で、手すりの位置には麻のロープが渡されているように見える。

 これらも普通に考えればとっくに燃え落ちていそうなものだが、健在だし、すぐに崩落しそうな様子もない。


 こちらの岸から対岸まで渡された吊り橋の距離は、だいたい五十メートルほどだろうか。

 向こう岸の先には、進路と思しきトンネルが続いていた。


「これ絶対、ただ渡るだけじゃ済まないっすよね。吊り橋が落ちたりしそうっす」


 弓月がそう感想を漏らす。

 吊り橋が落ちるかどうかはともかく、ただ渡るだけでは済まないだろうという点は俺も同感だった。


 広間には今のところ、モンスターなどの姿は見当たらないし、溶岩流以外の脅威も見受けられない。


 だが弓月の言うとおり、ただ渡るだけで済むとも思えない。

 きっと何かの仕掛けがあるはずだと思うぐらいには、俺たちはこの世界のダンジョンを、悪い意味での信頼していた。


「風音さん、モンスターの気配はあります?」


「んー、なんとも言えない感じ。あるような、ないような」


「えっと、それってつまり」


「うん。何か出てくるかもしれないと思っておいた方がいいと思う」


 風音さんの【気配察知】によるモンスターの気配、ないときはないと言うのだから、もやっとしている時点でごりごりに怪しいのだ。


 あまりにも胡散臭すぎる状況に加え、風音さんのこの感覚。

 最大限に警戒してかかるべきエリアであることは間違いない。


「ま、とはいえ、渡らんわけにもいかんじゃろ。注意書きも見当たらんしの」


 ユースフィアさんがぐるりと周囲を見回す。

 先の広間にあったような石碑や、それに類似する情報は見当たらなかった。


「しいて言うなら、一人ずつグリフォンに乗って飛んでいく手は、あるかもしれないですけど」


 俺は自分の隣にいるグリフォンの頭部をなでる。

 グリフォンは任せろという声で、「クァーッ」とひと鳴きした。


「うーん、けどそれも少し怖いかもっす」


「だね。何が起こるか分からないし、橋を渡らなければいいとも限らない。途中で何かあったら、グリちゃんごとあの溶岩に真っ逆さまってことも」


 弓月と風音さんの意見。

 グリフォンは「クァー……」と哀しそうな声を上げた。


 ほかにもあれやこれやと、俺たちは検討を重ねた。


 一人で行くか、いや全員で行ったほうが。

 ダッシュで一気に駆け抜けるべきか、慎重に行くべきか。

 命綱を巻くのはどうだ、いや臨機応変の対応で逆に邪魔になる可能性も……などなど。


 そうしていろいろと話し合った結果、たらればの可能性を無限に論じていても結論は出ないという結論に至った。


 そんなわけで、結局俺たちは、普通に全員で吊り橋を渡ることにした。

 何かが起こってから、状況を見て臨機応変に対応するしかないという判断だ。


 吊り橋の幅は、俺が両手を広げたぐらい。

 横に二人並ぶと危険なので、一列縦隊で進んだ。


 先頭に風音さん、次に俺、その後ろにグリフォン、弓月、しんがりにユースフィアさんの順番だ。


 吊り橋は、踏みしめるとギシギシときしむような音を立て、わずかに揺れる。

 探索者(シーカー)の運動神経を持っている俺たちがふらつくようなものではないが、一抹の不安は拭えない。


 おそるおそる吊り橋を渡りはじめて、数秒が経過し、やがて十数秒が経過。

 吊り橋の半ばあたりまでたどり着いた。


 このまま何事も起きずに、向こう岸まで渡れるのだろうか。

 そう思いはじめていた頃に、異変は起こった。


「気を付けて、何か来る!」


 風音さんが警告の声をあげ、腰から二振りの短剣を引き抜いたと同時。


 俺たちが渡っている吊り橋の周囲の空中と、吊り橋の終着点である向こう岸、それぞれに複数の鬼火が出現した。


 やがてそれらは、モンスターへと姿を変えていく。


 吊り橋の周囲、空中に現れたのは、燃え盛る大鷲(オオワシ)が四体。


 吊り橋の終着点に現れたのは、炎に身を包んだ、体長三メートルをゆうに超える大トカゲが二体だ。


 二体の大トカゲが口を大きく開くと、そこに煌々とした小さな火球が生み出され、みるみるうちに大きくなっていく。


 四体の燃える大鷲は、バッサバッサと翼を羽ばたかせて軽く浮上したかと思うと、俺たちに向かって飛びかかってきた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 渡ってる途中で横合いから鬼火が飛び込んできてたら、まんま風雲たけし城のジブラルタル海峡だったw
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