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第208話 手荒な歓迎

 広間のあちこちに出現した、多数の鬼火。

 数は十をゆうに超え、二十には及ばないぐらい。


 出現位置は、俺たちを取り囲むようにして、前後左右の四ヶ所に四つずつ固まって。

 距離はすぐ近くではなく、いずれも数十歩ほど離れた場所だ。


 鬼火たちは出現したそばから、その姿をモンスターへと変えていく。

 多数はフレイムスカルに。

 いくつかはヘルハウンドに。


 ……おいおい。

 いきなりこの数のモンスターがお出迎えかよ。


「やれやれ、さっそくの手荒な歓迎じゃな」


 ユースフィアさんが闇色の魔力をその身にまとっていく。

 さすがに決断が速い。


「風音さん、弓月、俺たちも魔法攻撃!」

「「了解!」」


 俺と風音さん、弓月もまた、各々に魔力を高めていく。

 グリフォンへの指示はひとまず保留だ。


 現れたモンスターの大半はフレイムスカルだ。

 そいつらもまた、一斉に、赤色の魔力を身に帯びていく。


 モンスターの群れの中には、ヘルハウンドが四体だけ混じっている。

 前後左右、それぞれ綺麗に一体ずつだ。


 つまり前後左右の四ヶ所、それぞれのグループに、ヘルハウンドが一体とフレイムスカルが三体ずつ、合計十六体が出現したわけだが。


 前後左右のヘルハウンド、合計四体は、いずれも俺たちに向かって駆け出してくる。

 距離はあるが、数秒のうちに炎の吐息(ファイアブレス)の射程に入るだろう。


 ユースフィアさんは涼しい顔をしているが、この数と状況はわりとまずいのでは?

 いや、いずれにせよやるしかないか。


「わしは正面を叩こう。ほとばしれ、闇の雷──【ダークサンダー】」


 ユースフィアさんの手から、前方に向かって闇色の魔力球が放たれた。


 それは駆け寄ってきていたヘルハウンドの脇を高速ですり抜け、その先にいた三体のフレイムスカルに闇の稲妻を叩きつける。


「俺たちは左のフレイムスカルを! 【ストーンシャワー】!」

「了解! 【ウィンドストーム】!」

「承知っす! 【エクスプロージョン】!」


 俺たち三人もまた、左側に固まっていたフレイムスカル三体に魔法攻撃を叩きつけた。

 石つぶての雨が、風刃の嵐が、爆炎が、一斉にモンスターを穿つ。


 それよりも一拍遅れて、右側と背後から多数の火炎弾が飛んできた。


「ぐっ!」

「くぅっ!」


 どういうわけか、火炎弾は俺と風音さんに集中した。

 二、三発被弾して、もちろん致命傷ではないが、多少の火傷は免れない。

 なお弓月にも一発だけ当たったようだが、ダメージの様子はなかった。


 見れば正面のフレイムスカル三体と、左側のフレイムスカル三体は、いずれも消滅して魔石へと変わっていた。


 その二方向からは、火炎弾が飛んできた様子はない。

 先手を打って殲滅できたことで、ある程度の被害は防げたようだ。


 だが息つく間もなく、四体のヘルハウンドがすぐ近くまで迫っている。


 正面の一体に向かっては、細身剣を抜いたユースフィアさんが、恐ろしい速度で駆け出していた。


 それを見た俺は、槍を手に、踵を返してダッシュする。


「グリフォン、左のヘルハウンド! 風音さんは右を! あとは各自判断!」

「クァッ、クァーッ!」

「うんっ!」

「了解っす!」


 指示出しはここまでだ。

 俺は一個の戦士としての仕事に集中する。


 後方に向かって踵を返して駆け出した俺の前には、一体のヘルハウンド。

 そいつは口を開き、激しい炎を吐き出してきた。


 回避の余地はほぼないし、そのつもりもない。


「──うぉおおおおおっ!」


 俺は盾を眼前に構え、真っ向からヘルハウンドの炎に突っ込んだ。


 盾で防御しきれるような炎ではない。

 全身が熱いし火傷もするが、一度や二度の被弾を受けたところで致命傷になるような攻撃でもない。


 炎を突っ切れば、目の前にはヘルハウンドの巨体があった。

 俺はスキルの輝きを右手に宿し、槍を突き出す。


「【三連衝】!」


 ガガガッと、馬のごとき巨体を持った黒犬に、槍の連撃が突き刺さる。

 次の瞬間、ヘルハウンドは嘘のように霧散し、魔石へと変わっていた。


 そこにさらなる火炎弾が飛び交う。

 俺にも一発飛んできて、直撃を受けた。


 立て続けの被弾によりダメージはかさんでいるが、まだどうこう言うような段階でもない。


 ヘルハウンドを撃破した俺の正面、少し離れた場所には、三体のフレイムスカルが浮かんでいる。

 次のターゲット候補は、ひとまずあれか。


 あの三体には、今さっき弓月の【エクスプロージョン】が炸裂していたようだが、火属性のモンスターだけあってそれ一撃では沈んでいない。

 しかしダメージは小さくないようで、もう一押しといった雰囲気に見えた。


 俺は追撃の魔法攻撃のために魔力を高めつつ、戦況全体を迅速に確認する。


 風音さんとグリフォンは、それぞれ担当のヘルハウンドを撃破したところだった。


 ユースフィアさんもヘルハウンド一体は早々に片付けたようで、さらに別の三体のフレイムスカルを、二発目の【ダークサンダー】で殲滅していた。


 つまり、残るは俺の正面のフレイムスカル三体だけ。

 ここまで来れば勝ち確だな。


 あの三体が次の火炎弾を撃ってくるよりは、俺の【ストーンシャワー】の発動のほうがおそらく早い。

 問題は、これで落としきれるかどうか──などと思っていると。


「一撃で足りないなら、もう一発っす──【エクスプロージョン】!」


 俺の【ストーンシャワー】発動よりもわずかに早く、弓月の爆炎魔法が再び火を噴いた。

 その攻撃で、最後のフレイムスカル三体も黒い靄となって消滅、三個の魔石へと変わった。


 ああそうか。そうだな。そうなるのか。

 指示出しを視野から外して自分の戦闘に集中すると、仲間たちの動きが計算から抜け落ちるんだよな。


 まあいずれにせよ、無駄なMPを使わないに越したことはない。


 俺は周囲を見回し、敵が全滅したことを確認して、魔法発動をキャンセル。

 ホッと安堵の息をついたのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] だから指示出しは前衛じゃなくて後衛がやるんだよね 必ずしもリーダーがやるんじゃなくてやるべき人がやらないといけない
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