第207話 ダンジョンに突入
洞窟の入り口前にたどり着いた、ダンジョン攻略隊の一行。
見上げれば、空はすっかり黒雲に覆い隠されていた。
まだ昼下がりの時間だというのに、あたりは薄暗く、不気味な雰囲気を醸している。
ぽつぽつと降り始めた雨は、徐々に雨足を強めている。
このままだと本降りになりそうだ。
ダンジョン攻略にやってきた十五人の戦士たちは、雨から逃げるようにして洞窟へと入った。
その中にはもちろん、俺や風音さんや弓月、ユースフィアさん、バルザムントさんも含まれている。
おまけにグリフォンも。
戦士たちがガチャガチャと鎧の音を立てて洞窟を進んでいくと、やがて左右に分かれる分岐路に来た。
正面の壁の前には石碑があり、ユースフィアさんが言っていた通りの内容が書かれている。
攻略隊は、事前に取り決めておいた通り、ここで二手に別れた。
右手側の道には、俺と風音さん、弓月、ユースフィアさん、グリフォンの四人と一体。
左手側の道には、バルザムントさんを含めたドワーフ戦士たち全員だ。
ドワーフ戦士たちの数は、バルザムントさんも含めて全部で十一人。
人数で見ると俺たちの二倍以上だが、戦力的にはこれでほぼトントンか、むしろ──という見立てだ。
バルザムントさんがドワーフ戦士たちを代表して、俺たちに声をかけてくる。
「ヒト族の勇者たち、それにユースフィアよ。必ずダンジョンを攻略し、出口で会おう」
「うむ、バルザムントよ。おぬしこそ、よもやこのようなところでおっ死ぬのではないぞ。わしはまだ、約束の紹介状を受けとっておらんのだからな」
答えたのはユースフィアさんだ。
バルザムントさんは、ふっと笑ってから、ドワーフ戦士たちに向かって「行くぞ」と号令をかける。
十人の戦士たちは、おうと応え、バルザムントさんとともに左手側の道の先へと進んでいった。
俺たちとユースフィアさんもまた、右手側の通路を進んでいく。
ほどなくして、行く手の先に、転移魔法陣が輝く小部屋が見えてきた。
このような転移魔法陣は、バルザムントさんたちが向かった先にもあるはずだ。
「さて、外れクジを引くのはどちらになるかの」
ユースフィアさんがつぶやく。
外れクジ──炎のダンジョンが「外れ」で、氷のダンジョンが「当たり」だ。
こっちのパーティには弓月が、向こうのパーティにはバルザムントさんがいて、どちらも火属性の魔法を得意とする。
いずれのパーティも、氷属性のモンスターのほうが与しやすいと予想されるためだ。
だが片方が炎のダンジョンで、もう一方が氷のダンジョンという仮説が当たっていたとして、右と左、どちらが炎でどちらが氷かは判断材料がない。
いずれかのパーティが、不利な戦いを強いられる可能性が高い。
まあバルザムントさんは斧による武器戦闘が主力で、魔法も火属性と土属性の二属性を使えるというし、弓月は弓月でフェンリルボウがある。
どちらにしても、それなりに対応できるはずだ。
やがて行き止まりの小部屋にたどり着いた俺たちは、その床に輝く転移魔法陣に全員同時で乗る。
しばらく待つと魔法陣の輝きが増し、視界が真っ白な光で染まった。
わずかの後、俺たちが立っていたのは──
「あちゃー。外れを引いたの、うちらだったみたいっすね」
弓月がそう言って、周囲を見回す。
俺もまた、同じようにあたりを警戒した。
そこは赤茶けた岩肌に覆われた、洞窟の内部のようだった。
先ほどまでいた洞窟は灰色の岩壁だったので、明らかに毛色が異なる。
そして何より、暑い。
ただ立っているだけでも、肌を焼かれるような暑さだ。
長居をしたら、これだけでも参ってしまいそうなほど。
俺たちがいるのは、広大な広間のド真ん中といった立ち位置だ。
広間は下手な体育館よりも広く、天井も圧迫感がない程度には高い。
正面の壁の一角に、進路と思しき通路がある。
ほかに進むべき道や、特筆すべきものは見当たらない。
俺たちのメンバーは、転移魔法陣に乗ったときと一緒だ。
俺と風音さん、弓月、ユースフィアさん、グリフォンの四人と一体が、誰も欠けることなくすぐ近くにいた。
概ね予想どおりの展開、だが──
「──っ! 大地くん、何か来る!」
風音さんが注意を飛ばした、次の瞬間。
広間のあちこちに、多数の鬼火が出現した。