第202話 茶番劇
ドワーフ戦士たちの駐屯所、会議室。
俺たちは再び、ドワーフ戦士たちの会議に参加し、席に着いていた。
議長席に座るのは、八英雄の一人にして集落の族長でもあるバルザムントさんだ。
ちなみに八英雄のもう一人はというと、以前と同じように会議室の隅に立ち、ぶすったれた顔をしていた。
そしてこのとき、会議が始まる前に、ちょっとした茶番劇が繰り広げられることになる。
それは旧知の英雄同士の、こんなやり取りだった。
「のうバルザムントよ、わしはおぬしの顔も見たし、もう帰りたいのじゃが。わしがここにいる必要なくないかの?」
そう、明らかに不満そうな様子で口火を切ったのは、ダークエルフの英雄だ。
彼女は半ば強制的に、この場へと拉致されたのだ。
対して、彼女を拉致もとい連行した張本人であるドワーフの英雄は、からからと笑う。
「まあそう言うな親友。友が困っているのだ、ちょっとばかり手を貸してくれても罰は当たるまい」
「ふんっ、親友になった覚えもないがの。それに──」
ユースフィアさんの視線が、次には俺たちのほうへと向く。
「おぬしらも、わしが八英雄の一人であることはもう疑いないじゃろ。そろそろ『アレ』の在り処を教えてくれてもいいのではないか?」
ああ、そういえば。
ユースフィアさんとは、そんな理由で同行していたのだったかと思い出す。
そのやり取りには、バルザムントさんも興味を持ったようだ。
「『アレ』とは何のことだ、ユースフィアよ」
「バルザムント、おぬしには関係のない話じゃがな。そこのヒト族の戦士たちが、ワシが希求する『レブナントケイン』の在り処を知っているというのだ。その在り処を教えてもらうために、わしはこの集落まで同行したんじゃ」
「『レブナントケイン』? そんなものを欲しがっていたのかお前」
「そんなものとは何じゃ! あれは闇魔法使いにとっては、至宝の一つじゃぞ。欲しいに決まっておるわ。……というかバルザムント、おぬしも在り処を知っていそうな口ぶりじゃな?」
「ああ、心当たりはある。ここから南、一週間ほどの場所にある集落が、宝物庫に一本保管していたはずだ」
「なぬっ……!? ほ、本当か!?」
「あ、俺たちが知っているのも、多分それです」
俺は挙手して、話に割り込んだ。
それを聞いたユースフィアさんは、鳩が豆鉄砲を食らったような顔になって、パクパクと口を開いたり閉じたりしていた。
「ま、まさかバルザムントが在り処を知っておったとは……! うぬぬぬぬっ、灯台もと暗しとはこのことか」
「はっはっは! なんだか知らんが、ずいぶんと無駄足を踏んだようだな、ユースフィアよ」
大口を開けて笑うバルザムントさんと、悔しそうにむくれるユースフィアさんである。
と、そこでバルザムントさんの隣に座っている族長代理グランバさんが、ゴホンと咳払いをした。
「バルザムント、会議の場だ。世間話はほどほどにしてくれ」
「おっとすまん、そうだったな。だがもうちょっとだけ待ってくれ。──おいユースフィアよ。『レブナントケイン』な、その集落に今もあるにはあるかもしれんが、闇魔法使いが金を払って寄越せと言ったところで、おいそれと渡せる代物でないのは分かるだろう」
「……何が言いたい、バルザムントよ」
ユースフィアさんは、恨めしげにバルザムントさんを睨みつける。
何が言いたい、とは言ったものの、話の筋は読めているといった反応だった。
対するバルザムントさんは、ニヤリと口元を吊り上げる。
「お前がこの件を手伝ってくれたら、俺が一筆書いてやると言っているんだ。俺が太鼓判を押してやれば、お前は集落のドワーフたちから信用される。あとは十分な対価さえ支払えば、お前は『レブナントケイン』を手に入れられるって寸法だ」
「ちっ、足元を見おって。気にいらんな。なんならわしは、その集落に行って力づくでブツを奪ってもよいのじゃが?」
「お前はそういうことをするやつじゃないだろう。無理に悪ぶるなって」
「ぐぬぬぬぬっ……! ああもう、やりづらい! 分かった分かった、手伝えばいいんじゃろ? 今回だけじゃぞ」
「よぅし、商談成立だ。──グランバ、待たせたな。会議を始めよう」
というわけで、ユースフィアさんの助力を取りつけることに成功したバルザムントさんであった。
あのクソ面倒くさいユースフィアさんを……あのドワーフの英雄、図体とパワーだけじゃない、なかなかのやり手だなと思った一幕だった。