第190話 ドワーフ大集落への道
ドワーフ大集落ダグマハルは、山岳地帯の山峡にあるという。
温泉地であるリントン村を出立したエスリンさん一行と俺たち、それにダークエルフの自称八英雄の一人ユースフィアさんの総勢八人は、道とも呼ぶのもはばかられるほどの頼りない山道を進んでいく。
山道は全般に緩やかだが、ときに険しい。
鉱石を載せた台車を曳くムキムキ従者たちが大変そうなときは、ちょいちょい手伝ってやりながら先を急いだ。
そんな最中、ユースフィアさんが雑談がてらにこんなことを語りはじめる。
「バルザムント──これから行くドワーフ大集落の長のことじゃがな。やつは戦士としてだけでなく、冒険者用の武具を作る武具製作者としても超一流なんじゃ。特に重装防具が得意分野でな。おぬしらもチャンスがあれば、やつに武具を作ってもらえば戦力アップになるやもしれんぞ」
「へぇ……。というか、バルザムントさんってドワーフ大集落の長だったんですね。八英雄の一人とは聞いていましたけど」
俺がそう返すと、ユースフィアは怪訝そうな顔をする。
「なんじゃ、おぬしらそんなことも知らんのか。変な奴らじゃのう」
「ええ、まあ。ちょっと事情がありまして」
「ふん、まあいいけどの。それはそうとおぬし、いつからかわしに対する言葉遣いや態度が変わったな? 最初に会ったときには、わしのこと子供扱いしとったじゃろ?」
「あー、えー、まあ……はい。すみません」
「くくくっ、よいよい。見た目で侮られるのはおぬしに始まったことではないわ」
そう言ってからからと笑うユースフィアさん。
彼女の言うとおり、最初は見た目に引っ張られたけど、どう見てもロリババア方面の人だと分かって俺の今の接し方はこんな感じだ。
あとレベルが俺たちより大幅に上という点にも目上さを感じて、それに態度が引っ張られているのもあるかもしれない。
ユースフィアさんのレベルは、自称75。
ステータスは見せてもらっていないが、彼女から感じるそこはかとない圧力からも、おそらく嘘はついていないだろうと思える。
対して俺たちはというと、現在のところ俺と弓月が36レベル、風音さんが35レベルだ。
ユースフィアさんは俺たち全員を相手に叩きのめせると言い放ったが、本当にそこまでの実力差があるのかどうかは不明だ。
まあいずれにせよ、敵対したい相手でないことは確かだ。
ユースフィアさんの言動の端々からも、彼女が悪人だとは思えなくなっていたし、敵対するべき理由がそもそもなさそうだが。
「けどドワーフの英雄さん、重装防具を作るのが得意なんすか。先輩この間、重装備用のスキルがリストに出てきたって言ってなかったっすか?」
「ああ。【重装備ペナルティ無効】な」
弓月の言葉に、俺はうなずく。
【重装備ペナルティ無効】は、31レベルで俺の修得可能スキルリストが更新されたときに、【テイム】などと一緒にリストに出てきていたものだ。
スキル効果ははっきりとは分からないが、スキル名称から察するに、「チェインメイル」や「プレートアーマー」といった敏捷力にマイナス修正を受ける種類の防具を、より有効に扱えるスキルなんじゃないかと思う。
例えば「プレートアーマー」は、敏捷力に-4のペナルティを受ける代わりに、防御力51というきわめて高い防御性能を誇る。
この「敏捷力-4」という効果を無効化できるのが、【重装備ペナルティ無効】というスキルなのではないか。
と思っていると、ユースフィアさんから答え合わせが来た。
「なんじゃおぬし、【重装備ペナルティ無効】を持っとるのか。それなら、なおさらじゃの。確かバルザムントも、そのスキルを持っておったはずじゃ。以前にスキル自慢しとったから覚えておる」
「自慢するような強力なスキルなんですか」
「うむ。なんでも重装防具の敏捷力へのマイナス修正を無効化できるとかでな。防御力が高い防具をデメリットなしに使えるヤバいスキルだと、たいそう自慢げじゃった」
大当たりだった。二つの意味で。
ならば俺もプレートアーマーのような重装防具に乗り換えてもいいかもしれない。
俺がいま装備している「エルブンレザー」も、エルフ集落でもらった逸品ではあるのだが、さすがに防御力で比較するとプレートアーマーなどのほうが格段に上だ。
それを敏捷力ペナルティなしで使えるようになるのは、やはりおいしい。
しかもドワーフの英雄バルザムントさんが重装防具を得意とするなら、プレートアーマーよりさらに上位の防具も、これから向かうドワーフ大集落で手に入るかもしれない。
ただ問題として、それを購入するのに金貨が足りるかどうかが一つある。
エスリンさんからの依頼を完了して報酬をもらえば、手持ちの金貨は700枚を上回るはずだが、プレートアーマーですら金貨200枚の店売り価格だ。
その上位の防具となると、いくらかかるものなのか。
ドワーフ集落で書いてもらった紹介状を出したら、なんかこういい感じにまけてもらえたりしないだろうか。
いや、そもそもまだドワーフ大集落にどんな武具があるかも分かっていないし、早合点しても仕方ないな。
集落に着いてから考えよう。
そう思って、集落への道を進んでいったのだが──
「──っ!? 大地くん、この音」
「ええ、風音さん。これは──」
何かが激突する音、金属音、燃え盛る炎の音。
まもなくドワーフ大集落ダグマハルにたどり着くという頃に、前方から何やら戦いの音のようなものが聞こえてきたのである。
「この音は、ドワーフ大集落の入り口の門のあたりじゃな。何が起こっとるかは分からんが、首を突っ込むなら急いだほうが良さそうじゃぞ」
ユースフィアさんの言葉にうなずいて、俺たちは戦闘音が聞こえる現場へと急行した。




