第171話 オーガ討伐
黒狼騎士団の七人と、エスリンさんとその従者、それに俺たち三人──合計十四人の一行は、ルクスベリー北西の門を出て、街道を進みはじめた。
この街道の途中、次の街までの経路上に、オーガの変異種が出現したそうだ。
変異種モンスターも通常のモンスターと同様、そのテリトリーから大きく離れることは稀らしい。
ゆえに再びこのあたりに出没する可能性が高いとのこと。
運よく今日じゅうに遭遇できればよし。
そうでなければ、黒狼騎士団はさらに数日の警戒行動を続けることになるし、俺たちも特別ミッションを達成できない。
ただその場合は、このミッションは無視して、俺たちはそのまま次の街に向かうつもりでいた。
経験値10000は惜しいが、何日もかけて達成したいほどのものでもないし、エスリンさんの都合との兼ね合いもあるしな。
朝に出立し、麗らかな日の光が落ちる森の中の街道を進むこと、およそ二時間。
そこで一行は、最初のモンスターの群れに遭遇した。
オーガが五体。
いずれも通常種だ。
この世界でオーガに遭遇するのは、これで二度目だ。
人間の五割増しの背丈を持った巨体が誇るのは、筋骨隆々たる赤銅色の肉体。
見た目はごついが、今の俺たちにとってはさほどの強敵でもない。
それが右手側の森の奥から二体、左手側の森の奥から三体現れ、左右から挟み撃ちをされる形になったが──
「いきなり変異種に遭遇ってことはねぇか。だが妙に数が多いな」
「副団長」がそうつぶやく。
彼らもまた、オーガに遭遇しても、落ち着いた様子だった。
このあたりの一帯は、もとよりオーガが群れで出現する地帯らしい。
しかし通常は、一度に遭遇する数は二体から四体程度であり、五体出現するのはイレギュラー寄りだ。
さておき、俺は「副団長」に言う。
「で、獲物は早い者勝ちってことでいいですか?」
「ハッ、言うじゃねぇか若造。いいぜ。横入りさえしなけりゃ、魔石は倒したやつの取り分だ。──おらテメェら、ガキどもに舐められんじゃねぇぞ!」
「「「「「おう!」」」」」
「副団長」の合図で、黒狼騎士団の面々が三々五々バラバラに動き始める。
ただ連携が取れていないわけでもなさそうだ。
各自がどう動くかを把握しながら、阿吽の呼吸で連携をはかっているように見える。
ちなみに「団長」──馬上の甲冑少女は、その輪の中には入れていない模様。
彼女はオーガの出現に応じて、慌てて剣を抜いたものの、左右から来るオーガの群れにどう対応していいか分からず戸惑っている様子だった。
この黒狼騎士団、やはり「団長」はお飾りで、「副団長」が実質的なリーダーというのが実情のようだ。
それはともあれ、俺たちも負けてはいられない。
「風音さん、弓月。単体攻撃で各個撃破。黒狼騎士団の動きを見て、邪魔はしないように」
「あははっ、難しいこと言うね大地くん」
「でも了解っすよ」
早い者勝ちとは言ったものの、どう見ても我の強い黒狼騎士団の邪魔をしたら、面倒なことになるのは目に見えている。
かと言って連携を申し出ても、話がうまくまとまるとも思えない。
相手は俺たちのことを、口先だけの生意気な若造ではないかと疑っているのだから。
だったらこっちが相手に合わせて、連携をとってやればいい。
そういうことができる程度の実力を、今の俺たちは持ち合わせている。
というわけで、俺たちは黒狼騎士団が動きやすいように援護しつつ、戦闘を行った。
その中で、二体のオーガを撃破することに成功。
俺の【三連衝】や弓月のフェンリルボウなら一手で撃破できる相手なので、戦況を見極めつつこの程度の戦果をかっさらうことは造作もない。
一方で黒狼騎士団のメンバーは、合計で三体のオーガを撃破。
人数差も考慮した上で、彼らにもそれなりに華を持たせることができたと思う。
そしてちゃっかりと、ミッションも一つ達成だ。
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ミッション『オーガを3体討伐する』を達成した!
パーティ全員が5000ポイントの経験値を獲得!
新規ミッション『ヒルジャイアントを1体討伐する』(獲得経験値10000)を獲得!
新規ミッション『ファイアジャイアントを1体討伐する』(獲得経験値40000)を獲得!
新規ミッション『フロストジャイアントを1体討伐する』(獲得経験値50000)を獲得!
小太刀風音が35レベルにレベルアップ!
現在の経験値
六槍大地……253564/267563(次のレベルまで:13999)
小太刀風音……269056/303707(次のレベルまで:34651)
弓月火垂……276561/303707(次のレベルまで:27146)
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オーガは以前に1体だけ倒していたから、これで3体討伐達成というわけだ。
そうして戦闘を終え、魔石を回収していると、「副団長」がずんずんと俺たちのもとにやってきた。
何だろう、何かドジったかなと思っていると──
「副団長」は俺の横につき、その腕をぐいっと俺の肩に回してきた。
「ハッハッハ、やるじゃねぇかお前ら! 思い上がった若造かと思っていたが、とんだ食わせ者だ。お前らみたいな実力ある冒険者は歓迎だぜ」
「ど、どうも」
「お前ら、俺たちが戦いやすいようにしながら、自分たちの戦果ももぎ取っていったんだろ? なまじの実力でできることじゃねぇ。認めるぜ、お前らは間違いなく腕利きの熟練冒険者だ。ツラのいい女を二人も連れたチャラチャラした野郎かと思ったが、人は見た目によらねぇもんだな!」
「あ、はい。ありがとうございます」
どうやら俺たちの実力を認めてもらえたようだ。
風音さんと弓月の周囲にも、黒狼騎士団の団員たちが集まって、二人の戦いぶりを称賛していた。
よしよし、これでだいぶやりやすくなったぞ。
侮られたままだと、連携をとるにも無駄に気を遣わないといけないからな。
ちなみに黒狼騎士団の面々も、実力は十分であるように見えた。
個々の実力では、ドワーフ集落の戦士たちや、エルフ集落の熟練戦士たちと同格ぐらいだ。
さらに騎士団全体でも、前衛、射撃手、魔法火力、回復役などの役割バランスが良く、人数が六人もいればそれなりの強敵とも戦えるだろう。
変異種モンスターの討伐部隊として選ばれただけのことはあるなと思った。
さてこうなると問題は、一人だけだ。
その一人──甲冑姿の少女は、今は黒狼騎士団の団員たちから叱責を受けていた。
「おいお嬢、戦闘中にうろちょろするんじゃねぇって、いつも言ってんだろ。邪魔なんだよ」
「す、すまない。だがそれでは、私はいつまでも未熟なままで──」
「それでいいんだっつってんの。いい加減分かれよな」
「そうそう。俺たちゃ団長のお守りじゃねぇんだよ。分かる、お嬢?」
「…………」
馬上の少女は悔しそうにうつむき、瞳に涙をためていた。
それを見た風音さんと弓月が、俺のもとに寄ってきて小声で話しかけてくる。
「ちょっとかわいそうだね。何とかしてあげられないかな」
「仲間外れはつらいっすよ。バイト先でぼっちだった先輩なら分かるはずっす」
「俺は別に仲間外れってほどでもなかったが。あと事あるごとに俺をディスるのをやめないか後輩」
「いやっすね~。これは先輩にじゃれてるんすよ。ねーっ、グリちゃん?」
「クピッ、クピッ!」
弄ってやっているんだぞ的な、いじめっ子発言をする我が後輩。
俺の肩に乗っているミニグリフォンは、同意するように元気に声を上げる。
ううっ、お前だけは俺の味方だと思ったのに。
ちなみにこのグリフォンは、今のところ戦闘要員としては稼働させずにいる。
黒狼騎士団の面々も、ただのペットだと思っているようだ。
それはそうと──
「弓月、お前いつかぎゃふんと言わせてやるから覚えてろよ」
「な、なんすか? うちグリちゃんと一緒に調教されるっすか? ひぃっ、グリちゃん、うちらは同じペット枠なんすよ~!」
「大地くんってば鬼畜だなぁ。火垂ちゃんをペットみたいに調教して分からせたいだなんて」
「あの、根も葉もない冤罪を広めるのはやめてもらえませんかね?」
黒狼騎士団の方々が耳をそばだてていますよ。
この世界での俺の人物像が、どんどん捻じ曲げられていきそうだ。