第168話 新たな旅立ち
ドワーフ大集落ダグマハルに向けた、予定一週間ほどの旅が始まった。
それまで拠点としていたフランバーグの街を出て、まずは北西へと向かって街道を進むこと一日半。
道中ではモンスターに遭遇するなどのアクシデントもなく、俺たちは無事、次の街であるルクスベリーの前までたどり着いた。
ルクスベリーは、フランバーグと比べるとかなり規模が大きく、街の広さも人の数も段違いだという。
この世界では、街の人口が五千人に満たないフランバーグ程度でも「都市」に分類されるようだが、その三倍ほどの規模があるルクスベリーは「大都市」の分類になるとのこと。
その大都市ルクスベリーを囲う堅牢な市壁には、全部で四ヶ所の門がある。
エスリンさんに連れられた俺たちは、そのうちの一つ、南東の門をくぐって市内へと入った。
夕焼け空が藍色に染まりはじめた頃合いだというのに、門前から伸びる目抜き通りは、まだまだ賑やかな様子だ。
人々や馬車が行き交う中、道端の露天商たちはランプに灯をつけ、いまだに客への呼びかけを続けている。
エスリンさんについてしばらく通りを進んでいくと、やがて雇用主の女商人は、一軒の宿へと入っていく。
彼女は番頭と交渉し、俺たちのぶんまで宿を取ってくれた。
「さ、ひとまずお疲れ様や。今日は宿でゆっくり休んで、また明日出発やね。ちなみに、あんたら三人は同じ部屋にしといたけど、それでええやろ? 仕事に支障のない範囲でなら、プライベートで何しても文句言わんよ。にひひひっ」
「あー、まあ……はい。ありがとうございます」
イチャイチャハーレムバカップルだと思われているので、この扱いである。
まあ間違っているとも言い難いが。
「ねぇ大地くん、ひょっとして私たち、四六時中そういう感じだって思われてる?」
「思われてますね。確実に」
「うちは先輩とべたべたするの好きだからいいっすけどね。温もりが恋しいお年頃っす。あとグリちゃんのこともモフモフしたいお年頃っす」
「あ、それ大事。グリちゃんは大地くんとセットだから、一緒の部屋じゃないとモフモフできないもんね」
「クピッ、クピッ!」
「俺いま、ちょっとこいつに嫉妬してます」
「あー、ごめん~。大地くん拗ねないで~。もちろん大地くんのことが一番だよ~」
とまあ、何の言いわけもできないバカップルぶりを晒しつつ、その日は解散となった。
ちなみに、このルクスベリーの街の市門をくぐった時点で、俺たちはミッションを一つ達成していた。
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ミッション『人口1万人以上の街に到達する』を達成した!
パーティ全員が3000ポイントの経験値を獲得!
新規ミッション『人口3万人以上の街に到達する』(獲得経験値10000)を獲得!
現在の経験値
六槍大地……248444/267563(次のレベルまで:19119)
小太刀風音……264056/267563(次のレベルまで:3507)
弓月火垂……271441/303707(次のレベルまで:32266)
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この異世界に来た当初と比べると、レベルもかなり上がっていて、1レベルアップするのに必要な経験値も大きくなってきている。
もう3000ポイント程度の経験値では大きな影響力はないが、それでもコツコツ経験値を貯めていくことが大事なのだ。
さて、エスリンさんらと別れて、その日の夕食時。
酒場を兼ねた大衆食堂で、俺たち三人がテーブルを囲んで夕飯をとっていると、賑やかな店内の一角からこんな会話が聞こえてきた。
「そういやお前、聞いたか? 今この街に駐屯してる『黒狼騎士団』の団長の話。どえらい美少女の騎士様なんだってよ」
「ああ、聞いた聞いた。でも団長っつっても、いいとこのお嬢で、お飾りだって話だろ」
「そうそう。偉い人たちも何考えてんだかね」
「ま、むさ苦しい冒険者上がりの騎士たちを紅一点のお嬢様が率いているとなりゃあ、見栄えはするんだろうけどな」
「ハハハッ、ちげぇねぇ」
近くのテーブルで飲んだくれている男たちが、そんな話題で盛り上がっていた。
それに耳をそばだてていた弓月が、フォークに指したソーセージをぴこぴこさせながら口を開く。
「この世界に『騎士』とか『騎士団』ってあったんすね。『冒険者上がり』って言ってたっすけど」
「あ、それ私、小耳にはさんだことある。経験を積んで十分な実力を身につけた冒険者が、国や有力貴族に雇われたものが『騎士』って呼ばれるらしいよ。普通の兵士の五倍以上のお給料なんだって」
「でもいいとこのお嬢で冒険者って聞くと、アリアさんを思い出しますね。アリアさんがどこぞの騎士団に入ったなんて話は聞いてないし、別の人でしょうけど」
「いいとこのお嬢で冒険者なんて、どう考えてもレアキャラっぽいっすけど。結構ごろごろしてるもんなんすね」
そんな話をしつつ夕食を終え、その日は宿で宿泊して、翌日を迎えた。
だがそこで、俺たちはまたぞろ、一つのアクシデントに見舞われることになるのである。