第133話 ボス部屋
モンスターの奇襲に見舞われた部屋を出て、先へと続く通路を進んでいった俺たちは、やがてその場所にたどり着いた。
これまでと同様、一本道の先の行き止まりに扉が待ち構えていたのだが。
それまでと違ったのは、扉の形状や雰囲気、それと扉の脇の台座に置かれた青色のオーブだ。
両開きの石造りの扉は、荘厳な雰囲気をまとっており、表面には複雑な紋様が描かれている。
この先は特別ですよと言わんばかりの、いかにもといった感じだ。
「この感じ、どこかで見たことあるっすね」
「うん。どこかでっていうか、ボス部屋だよね」
弓月と風音さんが、そう感想を漏らす。
俺もまったく同意見だった。
俺たちの世界のダンジョンの、第四層のボス部屋や、第八層のボス部屋。
それらと雰囲気が酷似している。
「ボス部屋、ですの……?」
一方で、首を傾げるのはアリアさんだ。
「アリアさん、ボス部屋って聞いたことないですか?」
「ええ。こういった雰囲気のものは、経験がありませんわ。……ここってひょっとして、狭義の『ダンジョン』なのかしら。ここまでも不可思議な仕掛けだらけだったし」
アリアさんにそれとなく話を聞いてみると、どうやらこの異世界でも「ダンジョン」と呼ばれるものはあるらしい。
ただ不思議な仕掛けが満載の「ダンジョン」は、滅多に見つかるものではなく、ベテラン冒険者でも探索経験がある人のほうが少ないぐらいなのだとか。
ちなみにオークが棲みついていた洞窟のようなものも、広い意味ではダンジョンと呼ばれるため、それらと区別するために「狭義のダンジョン」と呼ぶとのこと。
「いずれにせよ、この先には『ボス』がいると思っておいたほうが良さそうですね。それを前提に作戦を立てましょう」
というわけで、作戦会議だ。
もっとも、ここでボスモンスターと戦うなんて展開は、寝耳に水だ。
ボスの特性どころか、どの程度の強さのボスが待ち受けているかの情報もない。
あまりにもリスキーなため、本来ならば全力で回避したいシチュエーションだ。
だがここを突破しないと、このダンジョンから脱出できないであろうことは想像に難くない。
「やるしかない」というのが現状だ。
それに俺には、一つの「予感」のようなものがあった。
これまでの流れや、ミッションの獲得経験値などから察するに、「現在の俺たちがどうやっても勝てないようなボス」が出てくることはないだろう──そういう予感だ。
ひと通り作戦会議をして、方針がまとまった。
準備を整えてから、俺が代表してオーブに触れる。
ゴゴゴゴゴッと音を立てて、石の扉が開いていった。
扉の向こうは薄暗かったが、俺たちが足を踏み入れ、進んでいくにつれて徐々に明るくなっていく。
そのボス部屋は、例によって体育館ぐらいの広さの大広間だった。
中ほどまで進むと、背後で扉が閉まる。
「帰還の宝珠」が使えないことも、念のため再確認済みだ。
退路はなく、ぶっつけ本番。
部屋の奥にはもう一つの扉があり、その手前には、一体の巨大な石像が立っていた。
石像は人型だが、その背丈は見上げるほどで、頭頂までの高さは俺の身長の二倍はある。
手には長柄の斧槍のような形状の巨大武器を持っていた。
そいつが両目をギンと輝かせて、ずしん、ずしんと歩み出てくる。
おそらくはまだ、「登場シーン」の最中だろう。
「【モンスター鑑定】の結果出たっす! モンスター名『ストーンゴーレム』! HPは750、攻撃力65、防御力135、敏捷力25、魔力35! 特殊能力は『二段斬り』! あとやっぱり『無敵状態』が付いてるっす!」
弓月の報告には、良い知らせと、悪い知らせがあった。
良い知らせは、予感したとおり、ボスの全体的な強さが絶対的に太刀打ちできないようなものではないということだ。
ステータスの数字は、森林層で戦ったボス「デモンズフラワー」より一回り上といった感じ。
デモンズフラワーのデータは当時、穴が開くほど見たから暗記しているが、HP450、攻撃力55、防御力75、敏捷力30、魔力35だったはずだ。
悪い知らせは、どうやらこのボスは、相当「硬い」らしいということ。
デモンズフラワーとのデータ比較をすると、HPと防御力がズバ抜けて高いことが分かる。
まあ見た目からして硬そうだしな。
ちなみに「無敵状態」というのは、ボスの「登場シーン」の間は攻撃が一切効かなくなるやつなので、戦闘開始となれば解除されるはずだ。
まあそれも、俺たちの世界のボスモンスターと同じ法則で動いていればの話だが。
俺たちは例によって、「登場シーン」の間に、補助魔法をせっせとかけていく。
俺は【プロテクション】、風音さんは【クイックネス】、弓月は【ファイアウェポン】を、優先順位を意識して味方全員にばら撒く。
ちなみにアリアさんは、その手の補助魔法を持ち合わせていないとのこと。
やがて巨大な石像は歩みを止め、頭上でハルバード状の武器をぶんぶんと旋回させると、その武器を両手持ちで構えた。
「『無敵状態』切れたっす!」
「来るよ!」
戦闘開始だ。
俺たち四人は、準備しておいた攻撃魔法を、石像に向かって一斉に放った。
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