第127話 洞窟
村で七体のオークを討伐してから、しばらくの後。
変わらず小雨が降り続く中、村を出た俺たちは、オークが棲みついたという洞窟の前までやって来ていた。
「洞窟の中には、まだオークが残っているかもしれません。どうかよろしくお願いします、冒険者様」
洞窟まで案内してくれた村人の一人が、そう言い残して村のほうへと戻っていく。
その場に残されたのは、俺と風音さん、弓月の三人だけだ。
村を襲ったオークたちを倒した俺たちは、村長らから事情を聞いたあと、残りのオーク討伐と消息を絶った冒険者の調査のためにここまでやってきたわけだが──
「村の人たち、本当に状況が分かってなかったな」
俺は苦笑しながら、火がついていないランプを弓月から受け取る。
「そうみたいっすね。洞窟にオークが棲みついた、冒険者ギルドにオーク退治を依頼した、冒険者が来てこの洞窟に入っていったけど帰ってこないっていうんじゃ、持ってる情報うちらと変わんないっすよ──【ファイアウェポン】!」
弓月が俺の槍に、魔法の炎を宿らせる。
俺はその炎を使って、ランプにそっと火をつけた。
暗い洞窟の奥を、ランプの明かりで照らす。
ごつごつとした岩肌のトンネルが、入り口からずっと奥まで続いていた。
俺たちは注意深く、洞窟の中へと足を踏み入れていく。
外の蒸し暑さとは少し違う、ひんやりとした空気が肌をなでる。
「洞窟に入っていったけど、戻ってこない……っていうことは、この先で何かがあったってことだよね」
俺の隣を歩く風音さんが、緊張をはらんだ声でつぶやく。
「そう考えるのが自然でしょうね。といっても、何があったのかはさっぱりですけど」
「だ、大丈夫っすかね、先輩……? そう言われたらうち、怖くなってきたっすよ」
少しおびえた様子の弓月。
その手が俺の服を、きゅっとつかんでくる。
「さぁな。お化けが出るかも」
「ひっ……! や、やめてほしいっすよ! うちそういうの苦手なんすから!」
「ていうか大地くん、この状況でよく冗談言う気になるね。胆力あるなぁ」
「こう見えても男子なんで」
「わぁ、頼りになる。……じゃあ不安な私は、大地くんの右腕に抱き着いててもいい?」
「え……? あ、はい。戦闘になったら離してくれれば」
「やった、これで安心だ。ぎゅーっ♪」
「う、うちも! うちも先輩の左腕にしがみつくっす! ひしっ」
「動きづらい……。二人とも、分かってると思うけど、油断はしないように」
「「はーい」」
そんな緊張感がどこかに吹き飛んだやり取りをしながら、俺たちは洞窟の中を進んでいく。
しばらく進んでいくと、洞窟が左手奥と右手奥の二手に別れている場所に来た。
ランプで照らしてみても、どちらもトンネルが奥に続いているばかりで、代わり映えはしない。
「風音さん、どっちかにモンスターの気配あります?」
「んー……左側の先にかすかに、かな」
「じゃ、とりあえず左っすね」
そうして左側の道に進んでいくと、しばらくして三体のオークに遭遇した。
でもこれは、何の問題もなくあっさりと撃破。
何度も言うようだが、今の俺たちにとっては、ただの雑魚なのだ。
倒したオークの魔石を拾いながら、風音さんがつぶやく。
「ソロ冒険者だとしても、25レベルあったらこんな雑魚には負けないよね」
「そーっすね。うちがMP切れになっても、杖で殴って普通に倒せそうなぐらいっす」
「不可解っていうのが、一番怖いんだよな……」
洞窟がさらに先に続いていたので、進んでいく。
すると今度は、四体のオークと遭遇。
そのうち一体はオークメイジという上位種だったが、この四体も難なく撃破。
そこでようやく、洞窟は行き止まりとなった。
「こっちはこれで終わりみたいっすね」
「あとはさっきの別れ道の右側だね。向こうにもオークいるかな?」
「それ以外の可能性も考慮しておいた方がいいです。気を引き締めていきましょう」
「「はーい」」
引き返して、別れ道のところを今度は右手側へ。
警戒を強めながら進んでいくと、やがてちょっとした広間のようになっている場所に出た。
その広間の向こう側には、さらに先へと続く通路が見える。
「オークは……いないね。ほかの気配もなし」
「進みましょう。しつこいようですけど、油断はしないように」
「はいはい。耳タコっすよ~」
俺たちは広間を縦断し、その奥の通路へと──
向かおうとした、そのときだった。
「「「えっ……?」」」
洞窟の広間の床一面に、光り輝く魔法陣のようなものが浮かび上がった。
どこかで見たことのあるそれは──
「「「転移魔法陣!?」」」
俺の視界は、真っ白な光に包まれた。
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