第122話 エルフの少年戦士(1)
少し時間をさかのぼる。
大地たちが、エルフの戦士ラウルと遭遇し、不条理な因縁をつけられたあとのこと。
族長ティティスから外の見回りを言い渡された戦士ラウルは、キャンキャンとわめいてくるリヴィエラたち三人娘を追い払ったあと、いらだたしげな大股歩きで集落の外へと歩み出ていた。
「先輩! ラウル先輩ってば!」
そのあとをしつこくついてくるのは、見習い戦士の少年レフィルだ。
まだ戦士の力に覚醒して一月とたたないレフィルは、熟練の戦士であるラウルを慕っていた。
ラウルにとってもレフィルは愛弟子であるが、その態度はそっけない。
「なんだ、レフィル」
「なんだ、じゃないですよ。あのヒト族の戦士たちに、なんであんな態度を取ったんです? リヴィエラたちを助けてくれたって話じゃないですか」
「ヒト族だからだ。ヒト族は信用ならん」
「だからなんでヒト族がダメなんですか。エルフ族とヒト族は友好的な関係なんでしょ」
「リヴィエラたちは人さらいに誘拐されたと言っていただろう。ヒト族とは、そういうことをやる連中なんだ。信用すれば痛い目を見ることになる」
「それおかしいですよ、ラウル先輩。ヒト族にもエルフ族にも、いいやつも悪いやつもいるってだけの話じゃないですか」
するとラウルは、ピタリと足を止めた。
彼はレフィルのほうへと振り向くと、少年エルフの胸ぐらをつかんで吊り上げる。
「ぐっ……! ラ、ラウル……先輩……!?」
「知った風な口をきくものだな、レフィル。では聞くが、お前、好きな女はいるか?」
「なっ……なんで、そんな……」
「好きな女はいるかと聞いている」
「い、いますよ……! それが何なんです……!」
「その女が、ヒト族の悪党どもに笑いながら虐待される姿を想像してみろ。それを見ても誰も助けようともしない、善良ぶったヒト族どもの姿もだ」
「……っ!?」
「理屈じゃないんだよ、レフィル。分かるか。俺の目に焼き付いたあのときの光景が、今でもヒト族への不信と憎悪をかき立てる」
レフィルの胸ぐらをつかんだラウルの力が、ふっと緩んだ。
エルフの少年は、地面に下ろされた。
「けほっ、けほっ……!」
「……すまない、レフィル。お前に恨みはない。だがもうその話はしないでくれ。俺には理性を保てる自信がない」
「わ、分かりました……すみません、ラウル先輩」
レフィルには何がなんだか分からなかったが、ひとまずこの話が、ラウルの触れてはいけないところに触れるものであることは理解した。
それから気を取り直し、レフィルはラウルについて集落の周囲の見回りを始めた。
見回りをしていると、稀にモンスターを発見することがある。
それらを集落に近付く前に始末して、集落の安全を守るのも戦士の務めだ。
とはいえレフィルはまだ、半人前にも満たない未熟者だ。
ミュータントエイプやデススパイダーはおろか、キラーワスプ一体にすら苦戦をする有り様である。
弱いモンスターと遭遇したときには、ラウルたち熟練戦士の見守りのもとでモンスターと戦い、経験を積む。
そうして徐々に力を身に着け、やがては一人前の戦士として集落を守れるようになることが、レフィルの目下の目標であった。
だが、そんな折──
しばらく見回りをしていたレフィルとラウルは、その途中で、想定外の規模のモンスターの群れを発見してしまう。
デススパイダー、キラーワスプ、ジャイアントバイパーに、ミュータントエイプ──
それは、このあたりで遭遇しうるモンスターのフルコースとも言える混成集団だった。
遠くに見えるその光景を、驚愕の眼差しで見ながら、レフィルはつぶやく。
「な、なんだあの数は!? 全部で十五……二十……いや、もっといる! しかもこのままだと、あいつら集落への直撃コースなんじゃ……!?」
「チッ……! レフィル、集落まで走るぞ。ティティスに伝えて戦士全員で防衛にかかるべきだ」
「は、はい!」
レフィルはラウルとともに、急いで集落へと戻った。
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