第120話 エルフ集落と戦士
「さ、着いたわ。ここが私たちの集落よ」
先頭を歩いていたリヴィエラが、くるりと振り向いてそう言った。
俺と風音さん、弓月の三人は、リヴィエラの頭上の先へと視線を向ける。
「うわぁっ……!」
「すごいっすね。うち、こういうの初めて見たっす」
風音さんと弓月が、感嘆の声をあげる。
俺もまた、その光景に息をのんでいた。
俺たちの眼前には、緑豊かな樹上の住居群が広がっていた。
巨大な木の幹の上、枝分かれをする部分に木造の住居が設えられている。
木には梯子がかけられていて、それで上り下りができるようになっていた。
いわゆる「ツリーハウス」だ。
そのような住居が、見える範囲だけで二十軒以上もある。
集落全体ではもっとありそうだ。
樹上や地面には、この集落で暮らしているのであろう多数のエルフの姿があった。
そのうちの一人、近くにいたエルフの男性が、リヴィエラたちに声をかけてくる。
「リヴィエラ? それにリーゼ、シアも。どうしたんだ。お前たちは人間の街で暮らしていたはずでは?」
「事情があって、帰ってきたの。またここで暮らしてもいいでしょ?」
「それは構わないが。──おーい! リヴィエラたちが帰ってきたぞ!」
エルフ男性の声かけで、集落のエルフたちが何事かという様子で次々とやってくる。
リヴィエラたち三人のエルフ娘は、あっという間に集落のエルフたちに囲まれてしまった。
俺たちはそれを見守りつつ、一つの任務を終えた達成感に浸っていた。
「今度こそ、一件落着かな」
「そうみたいっすね。いやー、人助けも楽じゃないっす」
「だな。まあ彼女らが無事に帰れて良かったよ」
そこでメッセージボックスが開く。
いつものやつ。
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ミッション『エルフの集落に到達する』を達成した!
パーティ全員が3000ポイントずつの経験値を獲得!
特別ミッション『エルフたちを集落まで連れていく』を達成した!
パーティ全員が3000ポイントずつの経験値を獲得!
新規ミッション『世界樹に到達する』(経験値30000)を獲得!
現在の経験値
六槍大地……102816/105188(次のレベルまで:2372)
小太刀風音……102536/105188(次のレベルまで:2652)
弓月火垂……102819/105188(次のレベルまで:2369)
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なんかまた、けったいな新規ミッションが出てきたな。
まあそれも追々考えるとして。
さて、ミッションは終わったのでどうしようか。
お礼はもともと期待していなかったし、ここでUターンして帰還してもいいのだが。
などと思っていると、リヴィエラたちを囲む人だかりから、こんな声が聞こえてきた。
「ところでリヴィエラ、彼らは何者だ? 見たところヒト族の戦士のようだが」
「ダイチたちは私たちを、人さらいから助けてくれたの。三人ともとっても強い戦士で、すごくいい人たちよ。でも助けてもらったお礼も、ここまで連れてきてくれたお礼も、まだ何もしていないの」
「そうか。それならば私たちが、代わりに礼をするべきだな」
そして人だかりの中から、一人のエルフ女性が俺たちの前まで進み出てきた。
見た目は、人間で言うところの二十代後半ほど。
妙齢の美女だが、どこか威厳のようなものも感じられる。
どうやら「戦士」のようで、腰には細身の剣を提げていた。
そのエルフ美女は、俺たちに向かって恭しく礼をしてきた。
「私はティティス。この集落の長をしている。ヒト族の戦士たちよ、リヴィエラたちを救ってくれたこと、心より感謝する。何か礼をしたいのだが、しばし集落に立ち寄っていってはもらえないかな。食事がまだであれば、心尽くしのエルフ料理でもてなそう」
そう言われたので、昼食がまだで腹ペコでもあった俺たちは、せっかくなので厚意に甘えることにした。
エルフ料理にも興味あったし。
そんなわけで、エルフの集落にお邪魔することになった俺、風音さん、弓月の三人。
集落の中ほどにあるティティスさんの家でもてなされることに決まり、そこまでついていくこととなったのだが──
その途中で、一人のエルフの男と遭遇した。
彼もまた「戦士」のようで、背には槍を携えていた。
そのエルフ戦士は、俺たち三人を見るなり、吐き捨てるようにこう言った。
「おいティティス、なんだこいつらは。ヒト族をなぜ集落に入れている」
「ラウル、彼らはリヴィエラたちの恩人だ。人さらいから救ってくれたそうだ。これから私の家でもてなすことにした」
「何だと? 俺は反対だ、ティティス。ヒト族など信用できん。事情は分からんが、用が済んだならさっさとお引き取り願うべきだ」
「ラウル、客人に失礼だ。口を慎め」
「ふんっ、ヒト族相手に礼節など必要ない。人さらいから助けただか何だか知らんが、どうせその人さらいとやらもヒト族だろう? ヒト族が信用できないことの証ではないか」
「これは集落の長である私が決めたことだ。気に入らんのなら外で見回りでもしていろ」
「ああ、そうさせてもらおう。だがヒト族を集落に入れたのはお前だ、ティティス。何かあったときには当然、責任を取ってもらうぞ」
「ラウル、もう一度言う。客人に失礼だ。立ち去れ」
「ふんっ……」
ラウルと呼ばれたエルフ戦士は、俺たちを睨みつけるように一瞥してから立ち去っていった。
その後ろを、同じく戦士と思しきエルフの少年が「待ってくださいよ、ラウル先輩!」などと言いながら追いかけていく。
またリヴィエラたち三人のエルフ娘も、ラウルに抗議の言葉を向けながら、彼を追いかけていった。
俺たちはというと、突然向けられた露骨な敵意に、あっけに取られていた。
「……何すかあれ?」
「感じ悪いなぁ。ねぇ大地くん、あいつの後ろから忍び寄って、スパーンって頭ひっぱたいてきていい?」
「やめてください。種族間抗争に発展しそうです」
とはいえ、確かに感じが悪い。
ティティスさんが諫めてくれたからまだいいけど、直でぶつかっていたら相当腹が立っていたかもしれない。
一方でティティスさんは、俺たちに向かって深々と頭を下げてくる。
「すまない、客人たち。集落の者が失礼をした。代わって謝罪をする、申し訳なかった」
「い、いえ。……でも、ヒト族を嫌っているエルフの方って、結構いるんですか?」
「いや、多少の偏見を持っている者はいるが、ラウルのあれは特別だな。──さて、我が家はすぐそこだ。案内しよう」
ティティスさんはそう言って、先へと進んでいく。
俺は、ラウルというあのエルフ戦士のことを少し気にかけつつも、気を取り直してティティスさんのあとをついていった。
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