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第118話 エルフ集落へ

 翌朝。

 もとの世界への帰還まで、あと97日。


 人さらいの一団からエルフたちを救出したあと、街に入って宿を取り一晩休んだ俺たちは、再び街を出て目的地へと向けて出立していた。


 目的地は、エルフの集落。

 リヴィエラたちの故郷で、街から半日ほどの場所にあるという。


「さあ、森の入り口についたわ。あとはこの森の中を進んでいくの」


 先導するリヴィエラが、くるりと振り向いて笑顔を向けてくる。


 すでに街道からは大きく外れた場所だ。

 油断すると迷子になりそうだが、リヴィエラたちにとっては勝手知ったる地形のよう。


「でも森の中にはモンスターが出るんだろ。あまり俺たちから離れすぎないでくれよ」


「ふふっ、分かっているわ。だからダイチたちにお願いしたんだもの」


 そう言いながらも、るんるんとした足取りで森の中に入っていくリヴィエラ。

 ほか二人のエルフ娘も、似たようなものだ。


 リヴィエラたちは、人さらいたちにさらわれるまでは、少し離れた場所にある人間の街で暮らしていたらしい。


 だが今回の件があって、故郷のエルフ集落に戻りたいと思ったとのこと。

 身の安全など、いろいろと思うところがあったようだ。


 ただ集落までの道中では、モンスターと遭遇する可能性がある。

 そこで俺たちに、集落までの護衛を頼んできたというわけだ。


 もっとも護衛といっても、金銭的報酬はあまり期待できそうにないのだが。


 何しろ彼女たちは、ほとんど身一つであり、俺たちに支払えるものがない。

 集落に着いたら何かお礼をする、とは言っているが、俺はあまりあてにはしていなかった。


 昨日のリヴィエラの「何でもする」も、とりあえずスルーしている。


「何かできることはない?」とリヴィエラは聞いてくるのだが、俺は健全な男子としてつい思い浮べてしまうこと以外には、何も思いつかないダメな子だった。


 なのでリヴィエラには「何か頼みたいことができたら頼むよ」と言ってある。

 いわゆる「貸し」だな。


 それよりも、俺たちにとっての実質的な報酬は別にある。


───────────────────────


 特別ミッション『エルフたちを集落まで連れていく』が発生!

 ミッション達成時の獲得経験点……3000ポイント


───────────────────────


 例によってこういうのが出た。


 今のところの傾向だと、事件とか頼まれ事とかで困っている人がいるときに、特別ミッションが発生する感じだな。


 それに加えて、通常ミッションの『エルフの集落に到達する』(経験値3000)もある。


 エルフ集落までの往復でまる1日持っていかれそうなあたりは少し重いが、ダブルで経験値がもらえ、リスクも小さい見込みならそう悪いトレードではないだろう。


 というわけで俺たちはいま、リヴィエラたちの先導で深い森の中へと分け入って、エルフ集落を目指していたのだが──


 そんな中、弓月がリヴィエラたちに、妙に突っかかっていた。


「いいっすか、リヴィエラさんたち。六槍先輩に手ぇ出したらダメっすからね。先輩は美人と見るとすぐに鼻の下を伸ばすっすけど、あれはうちらの先輩なんすから」


「ふふふっ、ホタルの気持ちは分かるわ。ダイチはいい男だものね。ヒト族にしておくのが惜しいぐらい」


「いやいや、それは買いかぶりっすよ。リヴィエラさんたちは先輩のいいところしか見てないからそう思うんす。うちの先輩、ダメダメなところもたくさんあるっすからね」


「おい弓月。せっかく好印象な俺への評価を、むやみに下落させようとするんじゃない」


「先輩のことをよく知ってるうちが、本当のことを教えてあげてるだけっすよ」


「くすくすっ。じゃあホタルはダイチのこと、『好き』じゃないの?」


 リヴィエラにそう問われ、弓月が虚を突かれたように口をつぐんだ。


 弓月は少し言いよどんだあと、俺のほうをチラ見してから、頬を真っ赤にしてリヴィエラに向かってこう答える。


「『好き』っすよ。うちは先輩のこと『大好き』っす」


「ほら、やっぱりダイチはいい男じゃない」


「それとこれとは話が別っす」


「くすくすっ。ホタルは素直じゃないのね」


「とにかく! 先輩は風音さんとうちのものっすから、取っちゃダメっすよ!」


「はいはい、分かったわ。横取りしたら怖そうだもの」


 なんだか弓月が、俺に対する独占欲みたいなものをあらわにしていた。


 俺という弄りがいのある玩具を、他人に奪われたくないんだろうな。

 風音さんだけは例外で、二人で俺を共有シェアしているといった感じか。


 まあしかし、ああもストレートに「好き」とか言われてしまうと、玩具扱いされてもそんなに嫌じゃないんだよな。

 もちろん弓月の「好き」の意味は、そういう意味じゃないにせよだ。


「じゃあダイチは、ホタルのこと『好き』?」


 リヴィエラが今度は俺に聞いてきた。


 弓月に刀を抜かれたならば、こちらも応えねば無作法というもの。

 俺は弓月のほうをチラ見してから、かわいい後輩の真似をしてこう答える。


「『好き』だよ。俺も弓月のことは『大好き』だ」


 すると弓月が、さらに顔を真っ赤にした。

 目を丸くして、感極まったような表情になる。


 ……いや、今さらその反応は何だよ。

 先に言ってきたのはお前だぞ。


 弓月は表情をころころと変えてから、俺に向かってこう聞いてくる。


「……先輩。一応聞いとくっすけど、それってどういう意味の『好き』っすか?」


「……? いやどういう意味って。お前が言ったのと同じ意味だよ。そりゃそうだろ」


「……っ!? ……い、いやいや、そういうことっすよね……。あの、先輩。これも一応言っとくっすけど、うちと先輩が言ってるの、きっと同じ意味じゃないっすよ」


「???」


 言っている意味がよく分からなかった。


 俺の反応を見た弓月と風音さんは、互いに顔を見合わせて、大きくため息をついた。


 そんなやり取りをしながら、森の中を進んでいくことしばらく。


 あまり代わり映えのしない景色の中を延々と進んでいた中で、あるとき、風音さんがピクリと反応した。


「──何か来る。前から、一体」


 そんな風音さんの警告から、遅れることわずか。


 ガサガサと、前方の木々の群れの向こうから、何か大きなものが近付いてきた。


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