表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

116/449

第116話 【隠密】スキル

「友達を助けてほしい」と言われ、エルフの少女リヴィエラのあとをついていった俺たち。


 しばらく森の中を進んでいったところで、リヴィエラが足を止めた。


「この先よ」


 そう言ってエルフの少女が指し示した先──鬱蒼とした木々の向こうには、焚火によるものと思しきわずかな明かりが見えた。


 人さらいたちが、森の中で野営をしているという話だったが。

 野営の現地までは、まだ距離がありそうだ。


 またその方角からは、いくつかの声が聞こえてくる。


 何を話しているかはうまく聞き取れないが、多くの男の声の中に、悲鳴にも似た女性の声がわずかに混じっていた。


「リーゼ、シア、無事でいて……!」


 祈るように悲痛な声を上げるリヴィエラ。

 風音さんと弓月も、睨みつけるような表情で前方を見すえていた。


 俺はリヴィエラに伝える。


「ここから先は俺たちだけで行く。キミはここで待っていてくれ」


「分かったわ。しつこいようだけど、お願い。リーゼとシアを──私の友達を助けて」


 俺はそれにうなずくと、次に風音さんに声をかける。


「風音さん。スキルポイント、まだ残してありますか?」


「え、ごめん。【隠密】取るのに使っちゃった」


「あー。いえ、それなら逆に都合がいいです。俺も【隠密】を取りませんかって言うつもりだったので」


「なるほど。火垂ちゃんは?」


「うちはそもそも、修得可能スキルリストに【隠密】なんてスキル出てないっすよ。ちぇーっ、二人だけお揃いっすか」


「あ、はははっ……それはごめんね、火垂ちゃん」


「お揃いとか、そういうのはいいから。でもそれなら、まずは俺と風音さんだけで先行したほうがいいな」


 俺はスキル取得画面を操作し、【隠密】スキルを取得する。


 1レベルのときからリストに載っていた、死にスキルかと思っていたものを今になって取得するのは、何とも言えない感慨深さがあるな。


 スキルを取得すると、直感的にスキルの使い方を把握した。


 意識的に効果のオンオフができて、オンにすると自分の存在感や気配のようなものを希薄にでき、さらに立てる物音も最小限に抑えることができようだ。


 俺は試しに、【隠密】スキルの効果をオンにしてみる。

 すると隣にいた風音さんが、ピクリと反応した。


「大地くん、【隠密】スキル使った?」


「はい。使ったの分かります?」


「うん。なんか【気配察知】で感じ取れる気配が、スーッて小さくなった感じ。隣にいるからさすがに気付いたけど、遠くだといつの間にか消えちゃう感じで分からないかも」


 なるほど。

 ということは、【気配察知】持ちの相手に対しても、一定の効果はあるってことだな。


「じゃ、私も──」


 風音さんがそう言った直後、風音さんの存在感のようなものが、スッと薄くなった。


 風音さんのほうを注目すれば視認はできるけど、背景に溶け込んでいるかのように認識しづらい感じ。


 もちろんそこまで強力な効果ではなくて、ほんのわずかに認識が揺らぐぐらいのものだけど。


「よし。じゃあ俺と風音さんでまず様子を見てくる。弓月は合図をしたら動いてくれ」


「ラジャっす」


 俺は風音さんとうなずき合うと、二人で暗い森の中を進んでいった。


【隠密】スキルのおかげか、地面は下草で覆われているというのに、驚くほど音が立たない。

 よほど静まりかえった場でもなければ、違和感を覚えることすら困難だろう。


 少し進むと、聞こえていた会話の内容が、はっきりと聞き取れるようになってきた。


「で、ですから親分。冒険者のやつらが邪魔したもんですから……」


「そうなんですよ。俺らにはどうしようにも……」


 先ほどの二人のごろつき男の声だ。

 どこか怯えたように、うわずっている。


 そこに被せられるのは、威圧感のある野太い声だ。


「ああ? だからテメェらは、大事な売り物を逃がした責任を、どう取るつもりかって聞いてんだよ。一人逃がしたら俺がどれだけ損をするか、分かってねぇわけじゃねぇよなぁ?」


「いや……それは……その……」


「す、すいやせん! どうか、どうかお許しを!」


 相変わらず怯えた二人のごろつき男の声。

 おそらく二人が話している相手が、リヴィエラが言っていた「親分」だろう。


 やがて俺たち二人は、人さらいたちの野営地を視認できる場所までやってきた。

 風音さんとともに太い木の陰に隠れて、様子を窺う。


 そこは森の中にある、ちょっとだけ開けた広場のような場所だった。


 中央に焚火があり、その周囲に、全部で十近い数の人影がある。

 人影のうち二つはエルフのようで、手足を縛られ猿ぐつわをかまされた状態で、二人並んで座らされていた。


 残る人影は七つ。


 そのうちの一つ──髭面の巨漢が、焼いた肉にかぶりつきながら、目の前の二人の男を詰めていた。


 詰められている二人の男は、先ほど遭遇したごろつき風のやつらだ。

 そいつらは土下座をするように地面に両手をつき、ひどく怯えながら髭面の巨漢の顔色を窺っている。


 残る四つの人影──いずれもごろつき風の男たち──も、髭面の巨漢の不機嫌な様子に、びくびくと怯えているようだった。


 あの髭面の巨漢が、リヴィエラが言っていた「親分」だろう。


 俺たちの存在には、「親分」を含め、誰も気付いていない様子だ。

 さて、どう攻めるか──


 俺は少し考えてから、小声で風音さんに問う。


「風音さん、救助対象のエルフ二人の回収を任せてもいいですか。彼女らを人質にとられると厄介なので」


「うん、それは問題なくやれると思う。速さには自信あるしね。とはいえ『親分』の動き次第のところはあるけど──大地くんは?」


「俺は『親分』を抑えます。風音さん抜きだと一対一になるので、弓月が到着するまでは無理に攻めない方向で。釘付けにだけしておきます」


「分かった。絶対に無理はしないでね」


「しませんよ。万が一があったら、もう風音さんとイチャイチャできなくなるじゃないですか」


「うわぁっ……相変わらず恥ずかしいこと言うね、大地くんは。でも意気は伝わったよ。それなら安心だ」


 話はまとまった。

 数秒後、俺は風音さんと息を合わせて、行動を開始した。


作品を気に入ってもらえましたら広告下の「☆☆☆☆☆」で応援してもらえると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 隠密取ったのに奇襲しない意味とは? 脅威になるのは親分だけなんだから後ろから三連突きで終わりじゃない?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ