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秘密は消えた
「え? 私、そんなことしたことありません。」
すると、社長は
「は、は、は、は! 会社中で有名ですよ。
あなたが若い男性社員を泣かしたって。」
遥は思い当たった。
(そうか。橋爪君が号泣したことが、そんな風に会社中に広まっているのだ。)
「そんなに有名なのですか?」
と、恐る恐る聞いてみた。
すると、
「有名も何も。会社の中で知らない人はいませんよ。」と
社長は笑って言うのです。
なるほど。
私はいつの間にか、若い男性社員を泣かせた女になっていたのだ。
でも、
オフイスで起こったことはすべてオフイスマネージャーの責任。
だとしたら、これも、オフイスマネージャーの仕事なのかもしれない。
遥は、そう思った。
それから、しばらくして、オイルショックが起こり、
有名な女優さんを起用して作成したTVコマーシャルを
流すこともなく、会社は撤退することになった。
それと共に
あの号泣の原因は何だったのか?
それは、橋爪君の心の中にだけ深くしまわれたまま
遥の「若い男性社員を泣かせた女」の名称も消えていった。