表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/3

オフイスマネージャーになったら

オフイスマネージャーとは

とにかく、企画部、総務部、営業部、経理部、などの

職掌範囲ではなく、

どこが処理するのかわからないような問題は

すべて処理する。

オフイスが円滑に動くようにすることすべてを担当する、


と言われても、よく分からなかった。


舞台監督が、舞台で起こったことは

すべて責任を持つのと同じように

オフィスで起こったことは

すべてオフィスマネージャーの責任と言われても、

雲をつかむような話。


いざ、

スタートしてみると、

観葉植物が枯れた、とか

机のカギを忘れてきたから引き出しが開かない、とか

机の角に腕をぶつけて擦りむいた、とか

タイプライターが、動かない、とか

仕事をしにくいから席を別のところへ変えてくれ、とか

・・・・・・

・・・・・・

いろいろなことが飛び込んできた。


新会社は女性の服飾品メーカーだった。

当時、すでにアメリカ国内はもとより、

ヨーロッパ各地でナンバー1の売り上げを誇っていた会社は、

勢いもあり活気にもみちていた。


新会社は

TV広告を中心にマスメディアの協力を得て

マーケティング主導で大々的に日本進出を企てていた。


当時の日本では耳慣れなかったプロダクトローンチで、

販売を始めるとのこと

そのため、実際の販売前の作業のほとんどは

マーケティングの業務だった。


従って、営業部隊は揃っていないのに、

マーケティング部だけは

ニューヨーク本社から出向の

アメリカ人ディレクターをはじめとして、

マーケティングマネージャー、

プロダクトマネージャー、

セールスプロモーションマネージャー、

リサーチマネージャーがおり、

それぞれのマネージャーに数人のスタッフが所属していた。


セールスプロモーション部には

橋爪君という20代後半の男性社員がいた。


橋爪君は、雑学が豊富、

若いのにいろいろなことを知っていて

それを面白おかしく話すのだから、

社内の人気者になっていた。


日本人の社長も、「橋爪君の話は面白いね。」と言って、

とても気に入っているようだった。


橋爪君は英語があまり得意ではないようで、

時々分からないことがあると

遥の所へそっと聞きに来たりしていた。


そして、そのたびに、

「これ、聞いたこと黙っててね。」

と言って戻っていくのだった。

部内には、若い女性社員もいるのだから、

遥に聞きに来たなどということは

知られたくなかったのでしょう。


ある時にはこんな質問もあった。


「グレートライヤーって、どういう意味?」

「グレートライヤー? 

 大ウソつきってことでしょう?」

「でも、グレートって、偉大だとか、

 偉人だとかいう意味だよね。」

「グレートだけだったら、

 そうなるかもしれないけれど、

 後にライヤーが付いているから、偉大な嘘つき、

 つまり大ウソツキと言うことになるのじゃない?」

「そうか? それで、変な顔して2度も3度も

 グレートライヤーって言ったのか。

 僕は、グレートって言われたから褒められたのだと思って、

 にこにこしてたら、2度も3度も言うから

 なんだかおかしいとは思ったんだ。」


などといって、席へ戻っていったこともありました。


そんなある日のこと


遥が昼食を終えて席へ戻り、

午後の仕事に取り掛かろうとしていると

橋爪君が食事から戻ってきたのが見えました。


橋爪君の席は入り口から左の方へまっすぐに進んだところ。

それなのに、まっすぐに進まず、

途中で曲がると遥の方へ足早にやってくる。


遥が

「何の用だろう?」と思っていると、


つかつかと、遥のデスクの前まで来ると、

「遥さん!」と

遥の名前を呼ぶなり、

いきなり号泣し始めたのだ。


驚いた遥は

どうしたら良いのか分からなかった。

慌てて、デスクの上にあったティッシュの箱を

差し出すのが精一杯。


すると、橋爪君は、

ティッシュペーパーをとっては涙をぬぐい、

取っては涙をぬぐい、と、

とどまることがない。


「どうしたの?」と、聞く方が良いのか、

聞かない方が良いのか、

どうしたら良いのか分からず、

トラッシュボックスを差し出すことしかできなかった。


ティッシュボックスのペーパーはどんどん少なくなり、

トラッシュボックスのペーパーはどんどん増えていった。


それが、どのくらいの時間つづいたのか分かない。

しばらくすると、橋爪君もやっと泣き止んで、

自分の席へ戻っていった。


どうしたのか、遥は気になったが、

また、橋爪君の感情を刺激してもいけないと思い、

そのまま、そっとしておく方が良いのだろうと

そのままにしておいた。


やがて、社長が、広告代理店とのミーティングから戻り、

本社への報告業務が忙しくなり、

橋爪君の号泣のことも次第に忘れていった。



次の日、どうしたかと心配していると

橋爪君はいつものように元気よく

自分の席で冗談を言ったりしている様子。

遥はほっとして

良かった!と、思った。


その後も橋爪君から説明はなかった。

橋爪君も、きっと号泣のことなど忘れてしまいたいのだろう、

もしかしたら本当に忘れてしまったのかもしれない。

それならそれで良かった!と、遥は思った。



1週間ほどが経ち、日本出張を終えてニューヨークへ戻る

本社のアジア担当バイスプレジデントを羽田まで

社長と一緒に見送りに行った。


その帰りの車の中で、

あまり、プライベートなことは話さない社長が突然、


「あんた、なかなかすごいんだね。

若い男の子を泣かしたんだって?」


遥は慌てて答えた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ