オフイスマネージャーになった
あれはオイルショックの数年前のことだった。
当時、遥は
日本へ進出のため、
設立準備中のアメリカの会社で働いていた。
職種はオフイスマネージャー兼社長秘書
といっても、
今までにオフイスマネージャーの経験はなかった。
遥がオフイスマネージャーとして勤務を始めた3か月ほど前、
それまで勤めていた会社は総代理店契約の更新に失敗し、
日本から撤退することになったのだった。
そして、社員は全員無職。
みんな困ってしまった。
ところが、社長だった松原氏が
新たに日本へ進出する会社の社長に
スカウトされたのだった。
松原氏から、また、一緒にやりませんかとお誘いを受けた時
遥は本当に嬉しかった。
アラサーなどはとうの昔に過ぎ、
アラフォーが眼の前に迫ってくる遥に
おいそれと転職先が見つかるわけはない。
だから、それは、遥にとって
最高に嬉しいオファーだったのだ。
職種が何なのかも聞かず、
今まで通り秘書だと信じて疑わなかった遥は、
大喜びで「ぜひお願いします。」と言っていた。
数日後、
ニューヨーク本社から
アジア担当のヴァイスプレジデントが、
新会社設立の指示、打ち合わせのため来日
各マネージャーの最終面接も行われた。
松原氏からは、
簡単なご挨拶だけだからと
聞いていた遥は、
軽い気持ちで出かけた。
面接はヴァイスプレジデントの宿舎でもある
ホテルオークラで行われた。
ヴァイスプレジデントは、アラフィフなのだとか、
とても優しいおじさまと言う感じの方だった。
(良かった!)と、思って遥は安心した。
しかし、次の瞬間
「オフィスマネージャーは
大変重要なポジションです。
良くも悪くも、
社員が楽しく仕事ができるか、否か、
全てがオフィスマネージャーにかかっています。
頑張ってください。」
そういわれて、遥は心臓がひっくり返るのではないと思うほど
驚いてしまった。
(え?
オフィスマネージャーって何のこと?
そんなマネージャーなんて
聞いたことも見たこともないし、
まさか、私がそのオフィスマネージャーとかに
なるわけではないですよね。)
そう言いたかったけれど、
遥は、
「できるだけ、頑張ります。」
としか返事をすることができなかった。
あとで、
松原氏に聞いてみた。
「私のお仕事はもしかして
オフイスマネージャーとか
いうものですか?」
すると、社長はすました顔して、
「そうですよ。
日本では外資の秘書と言うと
マネージャークラスのように、
考えられているけれど、
アメリカでは、
秘書と言ってもクラークと
同じ程度にしか見られないのです。
当然、お給料の上限も決まっていて、
どんなにベテランになっても
マネージャーのように
高給を支払うわけにはいかないというわけです。
だから、オフイスマネージャーにしたんですよ。」
「でも、私、オフイスマネージャーの経験なんてありませんし、
大体、どんなお仕事をするのかも分かりません。
勤まらないのではないかと心配です。」
そう言うと松原氏は
「どうってことないですよ。大丈夫。
私が付いてますから。」
ですって。
そんないきさつから出発した遥のオフイスマネージャー生活だった。