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天使はあくまで一緒にいたい  作者: みがさか
9/12

夢日記

いつからだろう、私が夢を記録し始めたのは。


私、蔦江結愛の家は、一軒家だけど研究所でもあった。

当時5歳の私は、そんな研究をするお父さんが、絵本の魔女みたいで怖くて苦手だった。

そんな私を慰めてくれたのは、大好きなお母さん。

いつも優しい声で絵本を読んでくれて、そのおとぎ話に目をキラキラさせながら、憧れを抱いていた。

シンデレラ、白雪姫、人魚姫に眠り姫…。

お姫様に憧れていたわけじゃない。私はこの頃から既に『運命的な恋』に憧れを抱いていた。

そんな小さな頃の私は、それはそれは楽しい夢を毎日見る。

どんな夢かは、記録がないしもう忘れちゃったけど、楽しい夢だった、という気持ちだけは覚えていられる。


そんな夢を抱き続けて、小学5年生になった頃。

私は、普段ほとんど話すことのなかったお父さんに呼び出された。それも、地下室に。

今でも、緊張と恐怖で足が震えていたことを覚えている。

「お父さん…?それで、お話って…?」

「ああ…お前、夢は楽しいか?」

お父さんからの不思議な質問に、冗談かと思いそうになったが、どうもそんな様子ではない。

非常に真剣な表情で、ジッと私を見る瞳は真っ直ぐで…。

「楽しい夢が見れてるかってことなら…うん。」

内容こそ覚えてないが、楽しい夢が見られていることはわかる。

時折、寝る時間が待ち遠しく感じてしまうほどに。

「そうか…よかった。」

そう言って、お父さんは後ろにある大きな機械のスイッチを押した。

無機質で一定のリズムを刻む機械音、モーターの回る音。

何故か童話の歌の様なものも流れている、不思議な空間だった。

そんな起動音に呆気に取られていると、お父さんはどこから持ってきたのか、可愛らしいピンク色の手帳のような本をくれた。

「これは…?すごく可愛いけど…」

「結愛は女の子だからな、こっちの方がいいかと思って…。」

お父さんからものを貰うなんて初めてだったこと、そして、こんなに可愛い本を貰ったことがとても嬉しかった。

「ありがとうお父さん…!」

「ああ…上げるのは確かなんだが、結愛にはその日記帳に書いて欲しいものがあるんだ。」

「日記帳…?日記を書けばいいの…?」

「いや…」

日記帳に日記を書かないの?と首を傾げた。

咳払いをした後、お父さんは改めて真剣な表情で。

「結愛にはこれから、見た夢をその本に書いて欲しい。どんな些細なことでもいいから、なるべく覚えていることを鮮明に。」

「夢の…日記なの…?別にいいけど…。」

お父さんからのお願い、しかもとても真剣そうなお願いを、断るのは怖かったし、無理難題という訳でもない。

それに、"ゆめにっき"ってなんだか響きがかわいいような気もした。

私は二つ返事で了承して以来、1日も欠かすことも無く、その日記帳に夢を記していった。

友達なんかには、そんな日記があることは言えなかった。

バカにされてしまうのも嫌だったし、鍵のついた本だ、きっと秘密にしなきゃならない。

そう思っていた。


あの頃のことは思い出したくない。でも、思い出さなければ今の自分はない。

私が夢日記を描き始めて、4年…。

中学3年生の私は、夢と現実の境がわからなくなっていた。

確認方法である『頬をつねる』『お母さんに夢か聞いてみる』『飛びたいと願ってみる』など、色々とためしたのだが。

それら全てが意味をなさない、つまり。

『現実とほぼ変わりない夢』を毎日見るようになってしまった。

日付は何度も繰り返し、過去に戻り、かと思えばいきなり何日も進むこともあった。

当然、正気で居られるような状態ではなかった、ご飯はあまり食べられなくなり、いや、食べた時でさえ夢だったのかもしれない。

お父さんは地下室に篭りきり、お母さんはお父さんに呆れて家を出て言ってしまった。

当時の日記帳には、その恐怖と崩壊した世界のことが細かに書いてある。

どこまで夢なのか、どこまで現実なのかもわからなかったので、恐らくどちらも鮮明に。

字は震え、筆圧は濃く、乱雑に書かれたそれは、ホラーゲームさながらのリアルな精神崩壊を表現しているようだった。

そんなある日、1匹のバクにであった。紫色の綺麗なバクに。

暗い空間に、ポツンと1匹で立ち尽くしていた、紫色のバク。

すると、そのバクは私に語りかける。

「夢を現実にしたくはないかい?」

久々のわかりやすい夢だなぁと、死んだような目でバクを見つめる。

夢を現実に…。

皮肉にも、私の夢はもう現実と変わりないほどになってしまっている。

私自身に区別もできないほどに。

「もう既に…夢は現実と変わりないですよ…」

誰にも打ち明けられなかった愚痴を、夢という都合のいい状態を利用して、バクに告げる。

すると、私のその愚痴にバクは首を横に振る。

「違うさ、その夢じゃない。君の願う"夢"についてさ。」

「願う…夢…」

私の願う夢…。

最近は夢と現実の狭間に挟まれていて、そんなこと考えている暇もなかった。

現実に着いていくのに必死だったから…。

私の夢…夢…。

崩壊して、働かせてなかった頭を、久々に回転させる。

少しづつ、少しづつだけど、私の願った夢がゆっくりと近づいてきた…。

夢…私の夢…もし、叶うのなら…。

運命の…まるでずっと憧れてた、王子様みたいな…。

「運命的な…恋をしてみたい。」

久々に、自分の心に暖かいものを感じた。

私の、昔からずっと心に秘めていた願い。

狭間の分からなくなった私には、叶うことも難しい願い。

そんな願いをうんうんと頷いたあと、長い鼻をこちらに向けながら話してくる。

「その夢…条件はあるが現実に出来るって言ったら…どうする?」

バクは私にそんな夢のような話を聞かせてくる…って、まぁ夢なんだけど…。

そんな話があるわけもないし、明らかに怪しいお願い。

でも…もうこんな人生に希望なんてそれくらいしか…。

「もし叶うなら…戻りたいし…叶えたい…。」

夢と現実をしっかり理解して、またいつも通りの生活をして。

そして、運命的な出会いと恋をして…。

そう願ってパッと目を覚ますと、白く綺麗な知らない天井が、私を見下していた。

ここは…病院…?

後から話を聞くと、私はどうやら1年間もずっと植物状態…寝たきりだったそう。

つまり、ここ1年間の崩壊した世界は、全てが夢。

夢日記に1年間記した内容は現実には引き継がれてるはずもなく、真っ白になっていた。

1年前に書かれていた以前の夢は…読んだことがない。

もしかしたら、思い出すとまた1年間寝たきりになるんじゃないかと思ったから。

一体どんな夢を見れば、あんな無間地獄に悩まされることになったのか…。

私は日記帳に鍵をかけて、反対側から普通の日記を書き記すことにした。

今度は、楽しい現実の日記を…。


それから時が経って、入学式。

私はふとした拍子に、日記をどこかに落としたらしく、桜の舞い降る並木道を必死に探す。

あの夢日記を見て、被害者が出るのは避けたいから。

そんな時…運命はあった。

知らない男の子が、日記帳を拾っていてくれたらしく、それを持って並木道を歩いていた。

「あの…それぇ…」

「ん?…あぁ、これ?拾ったんですけど…もしかして…?」

「は、はい…!私のです…!ありがとうございますー…」

「いえいえ、気をつけてくださいね…鍵もついてますし、大切なものなんでしょう?」

渡された日記帳には、こんなに舞い散っている花びらが、1枚もつかないほど綺麗な状態で。

逆に、男の子の背中には沢山の花びらがついていた。

優しい人なんだなぁ…と思った途端に、日記帳は手渡される。

日記帳を手に取ると、その男の子は微笑んでくれた。

その画はまさに、漫画のワンシーンのようで…

私のウブで純粋な乙女心を動かすのには、十分過ぎるロマンチックさだった。

「あ、ありがとうございました!ではぁー!」

「あっ…うん…」

急に顔が暑くなり、鼓動が早くなるのを感じる。

離れたあとも、入学式も、その後も…あの人のことが、あの場面が、あの声が心から離れない。

こんな気持ち初めてで…。

思い出すだけでドキドキして、頭がクラクラする。

これは…これが恋…なのかな…。

ずっと憧れていた、私の心からの夢である、運命的な…。

ぼーっと夢心地のままの私は、その日に夢を見た。

あの日と同じ真っ暗な場所で、あの紫色のバクと出会う。

「どうだ、いい夢だったろう?」

と、バクは開口一番に私に告げる。

夢…?夢!?

「あの気持ちは…?あの人は!?あの現実は全部夢だったってこと…!?」

「ち、違う違う!ちょっとかっこつけただけ、ちゃんと現実だ!

だから落ち着いてくれ!」

思わずズンッと迫ってしまった…ということは。

私はそれほどまでにもう、あの人のことが…。

「あー…そろそろいいか?」

また夢心地に浸っていた私を連れ戻される。

「まぁ、そこまで楽しんでいただけたなら良かった。

これからも幸せに過ごせることを、私は願っているよ。

さて、今日君の前に現れたのは他でもない…」

「条件…だよね。」

精神的に参っていた私が、全てを諦めていた私がしてしまった、口約束の条件。

でも、私は後悔はしていない。

だって、私をあの世界から戻してくれた、現実の生活を送らせてもらって、あんなにも素敵な思いをさせてもらった。

もう…この人生に満足する程に…。

私の覚悟は、もはやこの命すら捧げるほどに固かった。

何が来ても、私は…。

「覚悟は…出来てるようだな。よし、じゃあ単刀直入に言おう」

こほん、と咳払い…バクって咳払いするの?

…まぁ、咳払いをして、本題に入る。

「君は、自身が寝てる間に『吸夢霊(きゅうむれい)』として、人の夢を集めて欲しいんだ。」



「吸夢霊については長くなるので、端的に話しますねぇ。」

長い長い。まるで、蔦江結愛(つたえゆめ)という1人の少女の人生の日記を、ひとつひとつなぞるように話された物語は一旦終わり、ようやく本題に入る。

「吸夢霊…。霊とは言いますが、実際に私自身が死んでいるわけではないんです。

夢を見ている間だけ幽霊になって他人の夢に干渉、いい夢の一部をいただいています。

そしてそれを…」

「私の養分とさせて頂いているということだ。」

急に、蔦江の後ろから例に聞く紫色のバクが姿を現す。

象のような鼻に、4本の足。

上半身は暗い紫色で、下半身は黒い色をしている…ん?

これって前に夢で見た…?

「今朝の夢以来だな、今朝の夢の質問については…まぁいずれわかることだ。気にしなくてもいい。」

聞きたかったことを先回りで回答される。

でも、気にするなと言われると、どんどん気になってしまうもので…。

あの質問は…。

「バク…御伽噺なんかでは『悪夢を食べる』なんて言われているらしいが、無味な上に対象は飛び起きてしまうから腹も膨れない…悪夢なんて食べるだけ損なのだよ。」

確かに。

怖い夢などを見た時は、大抵いつもよりも早く起きてしまうことが多いが、そういう事なのか…?

どこかのバクが、悪夢を食べてくれてると思うと、なんだかありがたく感じる。

「それに、いい夢を食べる理由は、なにも美味いだけじゃない。

多少ではあるが、魔力が補充出来るのでな。」

「さっきの話に出てきた、私の夢もその魔力で叶えてくれた…。

だから、その魔力を戻すお手伝いをさせてもらってるって訳なんです。」

なるほど、大体はわかったけど…。

「最初の昔話…いる…?」

「ふふふ…私のことを知って欲しくて…つい…」

そう言って少し照れてみせる蔦江の姿に、苦笑いが出る。

さて、まだ聞きたいことは残っている。そもそもの話がまだだ。

「それで、どうして俺の家に…?わざわざ変装までして…

あ、あと理由があるのはわかるけど、魔力を…多分だけど吸い取ったのか…?数字減ってたけど…」

俺の問いに、バクと蔦江の2人はキョトンとして…。

「えっとぉ…私、聖雅(せいが)さんとはあの並木道以来、実際にはあってないですよぉ…?」

「えっ…?じゃ、じゃあ今日家に来てたあいつは…」

急に背筋が凍るように固まる。

じゃあ家に来た天堂は…蔦江は…あいつは誰だったのか。

すると、蔦江とバクは顔を見合わせて頷き合う。

「もうすぐ夢も覚めちゃいますか…。

聖雅さん…明日、放課後に会えませんか?その事について詳しく聞きたいですし…。」

「魔法…とまではいかないが、少しだけなら私も助力しようと思う。

君に今死なれるのは困るしな。」

…なんだか、ものすごいことになってきた。

今朝の玄関からさっきの謎の女性まで、何もかもがこの世ならざるものと言うか、なんというか普通じゃないことばかりだ。

まぁ今の状況もそうなんだけど…。

せっかくだし、この2人に相談しようかな。

天堂には三鏡の件でもお世話になってたし、あまり迷惑はかけたくない。

魔力とか、そういう話もこの2人…?は出来るようだし。

こうして、俺は2人と明日に会って話をすることを約束して目を覚ます。

…自分から目を覚まそうとするのも、なんだか変な感覚だったが、無事に何事もなく目を覚ますことが出来たようだ、時間は…。

「あ、秋野くん起きた。」

「…へ?」

俺が寝てたソファのすぐ側に、天使がいた。

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