夢のような出会いから
気がつくと、俺は暗い空間にいた。
目の前にはポツンと置かれたテーブルと椅子が白い照明で照らされている。
そしてそこに…
「うふふっ…来ましたねぇ…」
さっきの彼女がいた。
椅子には座らず、俺はその場から話しかける。
「ここはどこなんですか…?どうやって俺をここまで運んで…」
俺がそう言っている間に。
ストン。
背中と尻に板の感覚。座ってる…いつの間に!?
俺は咄嗟に立ち上がるが…。
ストン。
と、また座る感覚が脳に届く。
まるで瞬間移動でもしてるかのように、直ぐに座らせられてしまう。
対面に座る彼女は、俺を見てニコニコしていた。
「抵抗は無駄ですよぉ?落ち着いてください。」
そう言われた途端、さっきまで焦ってたのが過去のことかのように、冷静に頭が回る。
そうだ、俺あの後ソファでそのまま寝ちゃって…ってことは…
「夢…か」
「うふふ…流石ですねぇ…」
両手の肘を机につき顔を支えながら、彼女はジッと俺の顔を見つめていた。
…こうもまじまじと見られると照れるな。
自然と目を逸らしてしまう。
「…ふふっかわいいっ」
ニコニコと微笑みながら、俺をバカにする…。
と、言うかそれどころじゃない。
有り得ない状況の連続過ぎて…聞きたいことが山積みだ。
俺は、天堂と屋根裏であった日の時のように、1つづつ聞いていくことにした。
「えっと…まずは…」
「私が何者か…ですよねぇ?」
心を読まれたかのように、まさに聞きたいことを言い当てられる。
「まずは、自己紹介からですよねぇ…ふふっ
私は『蔦江結愛』、吸夢霊です。」
『蔦江』…どこかで聞いたような…?
聞きなれない、恐らくは人間ではない種族の名前も気になったが、それよりも聞き覚えのある名前に首を傾げる。
『蔦江』…そんなに昔じゃない。
どこかで聞いたというか、見たというか…あったような…?
「ふふっ…思い出してくれましたぁ…?
あなたと初めて会ったのは、4月の入学式の頃。忘れもしない、桜の散る並木道…。」
入学式…!
そう言われてようやく思い出す。
入学式…
慣れない通学路を歩いてる最中、並木道に見慣れない本が落ちているのを発見したことがあった。
可愛らしいピンク色の表紙に、手帳のように留め具が付いていて、その留め具には鍵穴が着いていた。
鍵穴が着いているということは、相当大切な物で、中を誰にも見られたくないようなものなのだろう。
そう思って俺はその本を手に取り、持ち主を探そうとした時。
向こう側から1人の少女が、キョロキョロと周りを見渡しながら走って来ていたのが見えた。
そして、その時の少女というのがこの蔦江結愛であった。
「素敵でした…昔から憧れてた、漫画で見た桜の木の下での運命的な出会い…。」
まぁ、並木道だったけどな。というのは野暮ってもんだろう。
まぁ、なんだ。
当時はそんな風に考えたこともなかったが、改めて言われると、確かに少しロマンチックでこしょばい出会い話だ。
無意識に後頭部をポリポリと掻いてしまう。
まぁ、その会ったことあるという事実はわかったので、そろそろもうひとつの聞きたいことを聞いてみる。
「吸夢霊…。霊ってことは…お前まさか…。」
「あああ!違いますよぉ?死んでません!安心してください。」
ホッ…ともいかないよな…
「じゃ、じゃあ一体…」
「うふふ、1つづつ説明していきますね。」
こうして俺は、不思議な少女『蔦江結愛』のお話を聞くことになるのであった。
いつまでも黒が続く、この夢の世界で。