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天使はあくまで一緒にいたい  作者: みがさか
6/12

おもい

気がつくと、俺は雲の世界にいた。

遠くまでずっと続く綺麗な紫色の入った雲が、俺の立つ足場となっている。

白くふわふわとした触感を感じることに、不思議と違和感はなく、ただずっと前へ歩いていた。

歩いて少しすると、謎の動物が話しかけてきた。

象のような鼻に、4本の足。

上半身は暗い紫色で、下半身は黒い色をしている。

ゲームとかでよく見るような『バク』という動物にそっくりだった。

そのバクに目を通した途端、気がつくと周りは草原になっていた。

サバンナとかでよくある草原だ。

周りに気を取られていると、急にそのバクは喋りだした。

「この世で最も悪い人って、どんな人だと思う?」

そんな哲学のようなことを急に言われても…とは思ったが、俺は真剣に答えていた。

「犯罪者や殺人をするような人…?」

俺のこの答えに、バクは首を横に振った。

すると、突然天堂がバクの後ろに現れて、話しかけてきた。

「私、秋野くんと出会えて本当によかった!」

そう笑顔で言ってきた。

教室の椅子に腰掛けてた俺に、前かがみで。

「お、俺も…」

プツン。

目の前には大きな翼があった。

白くて大きな…これは三鏡の天使の羽根だ。

ふわふわとした感触が、俺の身体を癒してくれる。

心地いい高級な布団のような翼に包まれながら、俺は三鏡の話に耳を傾けることになった。

「秋野くんは優しいのね、本当に…本当に…」

言葉一つ一つを聞く度に視界が歪む。

歪んだ視界を戻すために、朦朧と走り回った。

なぜ走ったのかもわからないまま走っていくと、1人の女の子が目の前に立っていた。

誰かはわからないが、不思議と心地いい人だと認識した。

その女の子は、真っ暗な空間の中でポツリと話す。

「こんな所で会えるなんて"幸運"ですね…」

その言葉は、どこまでも何度も繰り返されて。

段々と2重、3重に重なっていく。

それと同時に、どんどんと音量も大きくなっていく。


ハッ!

…と目を開けると、そこは自室だった。

朝にセットしたアラームが、ピピピピッと鳴いていた。

アラームを止めて、ゆっくりと起き上がり、支度をしながら考える。

今見た夢について、しっかりと考える。

おかしい。

夢というのは、基本起きれば忘れてしまうものだ。

なのに、俺は今、先程見た夢をハッキリと口に出来る程、繊細に覚えているのだ。

バクからの言葉も、天堂からの言葉も、三鏡からの言葉も。

そして、あの女の子の姿と言葉も。

最後の起き方が、悪夢のようにトラウマになって染み付いてるから…?

なんにせよ、不思議だった。

布団の上に置いてあった指輪を()めて、リビングへ降りる。

すると、莉珠葉(りずは)が朝ごはんを用意していた。

相も変わらず、早起きな上に料理も完璧にこなす。

まさに、自慢の妹と言える。改めて、女子力すごいな。

「おはよう」

「おはようございます、体の方は大丈夫ですか?

昨日は晩御飯も食べずにすぐ横になってましたし…」

そういえばそうだった。

昨日は帰って風呂に入ったあと、すぐにベッドで横になって寝ていたんだった。

疲れすぎてたけど、しっかり指輪も外さずに…あれ?

「…?聖雅さん?」

「あ、あぁ大丈夫大丈夫。元気だから!」

そう言って、身体を動かして見せた。

指輪のことは気になるが、きっと寝相が何かで外してしまったのだろう。

朝飯を済ませて、忘れ物をチェックして家を出る。

玄関を開けようとしたその時だった。

ドンッ!

俺の足が、まるで持ち上がらない。

足の体重が一気に増えたかのように、全くビクともしなくなっていた。

何度も体をひねるが、足首から先が動かないし、持ち上げられない。

家のドアを開ける音が聞こえないからか、莉珠葉が心配して玄関まで来てくれた。

「聖雅さん…?なにしてるんですか?」

莉珠葉は俺の状況を見て、不思議そうに首を傾げる。

「動かないんだ…足が…!お、重くて…!いたたたた!!」

莉珠葉が来たタイミングでだろうか、物凄い勢いで、ぎゅっと締め付けられる足に、声が漏れてしまう。

「ちょっ…!大丈夫ですか?!」

軽い駆け足で莉珠葉が俺に近寄ってくるが、莉珠葉が近づく度に、どんどんと締めつけは激しくなる。

「く、来るな莉珠葉!ゆっくりそこから離れてくれ。」

「え、えぇ…?うん…。」

莉珠葉は、また不思議そうにしながらも、ゆっくりとその場を離れる。

それと同時に、俺の足の痛みも引いていった。

なるほど、莉珠葉が近づけば痛みは増して、離れると痛みが引く。

ただの怪我とか疲れではない気がしてきた。

「莉珠葉、悪いけど、今日は裏から出て学校に行ってくれないか?

自分の学校には自分で言っておくから…」

「うん…。…?」

俺が何を言ってるのかわからない様子だったが、俺の顔を見て、真剣さと状況を理解したのか了承してくれた。

このまま莉珠葉に付き合わせて、遅刻なんてして欲しくなかったし、わかってもらえてよかった…。

靴を買った時の箱に、莉珠葉の靴を入れて、廊下に滑らせるように渡した。

「じゃあ、行ってきますね…?なるべく遅刻しないようにしてくださいねー!」

「おう!ありがとう!」

莉珠葉が裏から出たことを確認して、足を確認する。

痛くはない、そして少し軽くなった気がした。

すごく両手で持ってやっとだが、動くようになっていた。

一先ずリビングに戻るため、俺は足を動かした。

すると、段々と重さはなくなり。

廊下の中央に行く頃には、手の補助も必要なくなっていた。

さて、これからどうするか…。

まず、この状態で学校に行くことは不可能だろう。

学校の方に、風邪を引いたので欠席する旨を伝えてから、俺は足の動かし方をひとつひとつ模索することにした。


色々試して見てわかったことがある。

それは"玄関や裏口のような外へ出る為の入口以外ではなんともない"ということ。

外へ通じる扉なり窓なりに近づくと足がグッと重くなった。

まるで、外に出ることを禁じられているかのように反応する。

そして、今までの事を整理してる間に、もうひとつわかったことがある。

最初に窓のそばにいた時や、莉珠葉と朝ごはんを食べた時には"重くならなかった"ということ。

もしかしたら、この現象は病気ではなく意図的に俺を閉じ込めている…?

そうだとしたら…。

俺は、すぐに昨日学校に持っていったカバンの中身をひっくり返した。

その時…

ズンッ

また、俺の足が重くなり、足が締め付けられた。

どうやら、カバンの中に何かがあるらしい。

足の痛みをグッと堪えながら、ひとつひとつ調べていく。

すると…持っていた筆箱の中に、見覚えのない黒い球体の様なものが入っていた。

レンズっぽくはないが、ここまで辻褄が合うと、そうとしか思えない。

俺はすぐにその球体を破壊しようと、グッと手に力を込めるが、ヒビすら入らない。

足の痛みで、力が入らないせいもあるのか、壊れる気配が微塵もない。

足の感覚が麻痺して来る中、俺は必死にその場の色んなものを打ち付ける。

壊れない…!壊れない…!

俺は祈りながら何度も必死に打ち付けるが…


壊れなかった。

俺は力尽きて、両手を離してバタッと倒れるように息を整える。

その時に、ポロッと指輪が外れてしまったのが見えた。

泣きっ面に蜂とはこの事か…一体どんな不幸が俺を襲うのか。

次にくる未知の事態に身を固めていると。

カァー!カァー!

どこから入ってきたのか、カラスが俺の全身をつつき始める。

痛みに声を上げながら必死に手で振りほどき、指輪を指にはめる。

はぁ…なんてついてない。

というかどこから入ってきたんだ…?

俺は走って近くの窓の方へ行き、鍵を開け…開いてる…。

重さが急に来た時に、偶然開けたままだったのか…。

窓の鍵開いた状態だったのを、カラスがこじ開けたということになる。

カラスは頭がいいと言うが、ここまでとは…。

すぐに窓を全開にし、カラスが飛び立つのを見届ける。

その最中、ふと思い出したかのように俺は足を見る。

重くない、重くなくなっていた。

災い転じて福となしたか、足は解放されて、締め付けられた跡だけが赤く残っていた。

俺は、自分の倒れていた場所を調べてみることにした。

カバンの中身が散らばっているのはわかるのだが、その中に、『凸』という字の形をした、シールのようなものが剥がれていた。

このシールに俺は見覚えはなく、不思議に思って手に持つと、また俺の足がグッと重くなる。

俺はすぐに手放し、放り投げた。

これは一体…。

放り投げたシールは、地面に着くなり、黒い球体と共にフッと消えていった。

この消え方は、天堂が俺の手に数字を出して、それを消した時の消え方と同じように見えた。

この共通点から見て、天堂と何か関わりがあるものだと思い。

スマホで天堂に連絡を…。

出来るわけないんだよなぁ、天堂の連絡先なんて知ってるヤツいるのか…?

天堂はめちゃくちゃ神格化されている、その為、基本周りが見張っており、話しかけようにも話しかけられない空気が漂っている。

女子ですら話しかけることも出来ないのだから、連絡先など知る由もない。

俺はスマホをポケットに入れて、素直に自宅で過ごすことにした。

このことは明日、学校で話すことにしよう。


カバンの中身を片して、テレビを見ながら弁当を食べる。

我ながら仮病のような行為をしている事に、少し罪悪感を覚えるが、今から学校に行くのもめんどくさい。

そんなことを考えていると。

ピンポーン

急に、家のインターフォンがなった。

誰だろうと、特に足への抵抗もなく玄関に足を進める。

足が動くというのは、とても嬉しいことだ。

ドアを開けると、そこには天堂がいた。

大事そうに、両手でカバンを抱きしめて、そこに立っていた。

すると、突然天堂はとんでもないことを言い出した。


「中、入ってもいい?」

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