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天使はあくまで一緒にいたい  作者: みがさか
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天使と天使

「天使です」

そういった三鏡(みかがみ)の言葉に唖然とするも、案外すんなりと受け入れることが出来た。

まぁそりゃ悪魔いるんだし、天使もまぁいるだろうなぁとは思っていた。

でも、まさか女優をやるような子に天使がいるとは思いもしなかった。

てっきり、人間にバレないように隠居してるものだとばかり…。

「さっきはごめんなさい。

私が力加減を間違えたせいで、あなたを殺すところだったわ。」

その言葉を聞いて、改めてこの人が俺を殺しかけたと思うとゾッとする。

こんなに美人で可愛い人でも、人を殺しかけることがあるんだなぁと。

人の心の内は、誰にもわからないものだ。

外見がどれほど良くても、それはあくまで外見だけ。心の中で何を考えているかなんて、誰にも想像がつかないものだ。

まぁこの人天使だけど。

「それで、どうして俺を殺そうとしたんですか?」

とにかく、1番聞きたかったことはそれだった。どうして俺は殺されてしまったのか。

理由は何となくわかるが…。

「今あなたが填めている指輪。それを咥えてた猫がいたでしょう?

その猫、私なの。」

「えっ?」

俺は一瞬、ほんの一瞬だけ、この人大丈夫かな?と思ってしまった。

猫が私?あの綺麗な青い猫が?

俺の頭が混乱する。

「いや、こんなこと言っても信じられないわよね。実際に見てもらう方が早いわ」

そう言うと、三鏡は両手の指の先を合わせて、言葉にしづらい言語(?)で、何かを3回唱えた。

空白が2回あったので、適当に3回と自分の中で思っているが、実際は3回かどうかわからない、そういう言葉なのかもしれない。

三鏡が、3回(?)唱え終わると、どこが発生源かわからないが、突然青い煙が辺りを覆った。

咄嗟に目を隠したが、煙たくはない。形だけの煙幕のようなものだ。

わかってはいるが、条件反射で少し咳が出てしまう。

霧が晴れて来た時に、ふと三鏡のいた場所を見てみるとそこには、あの因縁の青い猫が三鏡の代わりに座っており、優雅にこちらに振り返っていた。

そして青い猫の周りには、先程三鏡がいた時に来ていた服が、下着も込みで全て散らばっていた。

急いで辺りを見回すが、三鏡の姿は見えない。

本当に、この猫が?

俺は、猫をよく観察するために近づいた。

近くで見ても、どこから見ても。やはり猫だった。

ただの美しく青い色をした猫。

少し触ってみようと、手を毛並みに触ろうとした。

「どうです?信じて貰えました?」

猫の口が開き、その奥から三鏡の声が聞こえる。

「おっ!…おう」

急に喋るものだから、めちゃくちゃびっくりした。

「私は天使として神様から使いを頼まれていてね。

まだこの世に少数いる悪魔を監視して、反乱しようとする悪魔を事前に阻止しているの。」

しかしよく見ると、猫自身の口パク数と喋っている内容が合っていない。

一体どう言う技術なのか。

「…聞いてますかー?」

「えっ!?あ、はい」

ジッと見過ぎていたのか、注意されてしまった。

「それで、どうして俺を?」

「薄々感ずいているとは思うけど、その指輪。

契約を結んだものよね?」

俺は、自然の自分の指に填めている指輪に目を移す。

「契約は、魔力が少ない悪魔でも本来の力を出すことが出来る、悪魔本来の力。

契約した相手になにか欲望を与える。

そのかわりに、この不運を集める契約指輪をはめさせて、魔力を集めるための方法なの。

指輪自体に、魔力を使う必要は無い。契約相手に触れて、呪文を念じるだけで出来てしまうらしいわ。」

この指輪にそんな力があったとは…

思えば、指輪を外してから猫を追いかけてる最中、やけについてなかったっけ。

すると、天堂がその発言に待ったをかける。

「で、でも、不幸が発生するのは、あくまで外した時で、はめている状態の秋野くんには、全く影響がでない。

そういう風に神様が弱体化させたはずだよ。

猫が咥える前、秋野くんは指輪を外したの?」

「いや、はめてた所を急に奪われたんだけど」

俺の発言を聞いた瞬間に、ピクッと三鏡の肩が動いた。

痛いところを突かれたんだろうか?

「で、でも、終戦して何年もたったこの時代に契約するなんて、絶対裏があってもおかしくない…」

「裏があるとしても、秋野くんに外さないように念押しして渡す理由にはならない。

裏があったりするようなら、指輪を外させるか偽の指輪をはめさせるはず、違う?」

三鏡の言葉を遮るように、天堂の正論が突き刺さる。

流石に答えたのか、沈黙が続いた数秒後、三鏡の重い口が開いた。

「じゃ、じゃあどうして契約なんて結んだの?

なんの意図があってこんなに手間のかかることを?」

「それはね…」

天堂は、優しく答えた。

俺が天堂のミスで屋根裏に来てしまったこと。

そして、天堂が悪魔であることを隠すために契約を結んだこと…。

と、話した時に天堂も俺も疑問に思った。

叶えたのは"天堂の欲"で俺の欲じゃない。

俺は別に悪魔であることを隠そうとはしたが、そこまで願っていた訳でも無い。

悩んだ末に、出た答えは

「秋野くん優しいから、きっと悪魔であることを隠そうと願ってくれたんだよ。」

というものだった。

俺には全く覚えはないが、無自覚にそこまで願っていたんだと、天堂は笑ってくれた。

かわいい、もうなんでもいいんじゃないかと思えてしまう。

「んー?…なんだか納得いかないけど、そういうことなら。」

そう言って、三鏡は俺の方をジッと見つめてきた。

新人とはいえ、相手は女優。か、顔がいい…。

そして、なんだか凄く輝いて見える、天使の羽根のせいだろうか、なんだか悪い気はしない。

それどころか、どこかに吸い込まれてしまいそうな…。

ぐいっ

急に思いっきり天堂に肩を引っ張られる。

同時に、目が覚めたかのように俺の目が曇って見えた。

急いで払おうと必死に手で目を擦る。

「あら、残念。もう少しだったのに。」

天落(あまお)ちさせないでくれますか。

秋野くんは普通の人間です。」

天堂が、真剣そうな声で言っているのが聞こえた。

「あら、悪魔に取り憑かれるよりかは、幾分かマシだと思いますけど?」

そう言って三鏡はうふふと笑う。

…言い争ってる?

「もう古いですよ、悪魔が取り憑くなんて。何百年も昔のお話じゃないですか。」

悪魔が取り憑くって古い話なのか。

「大体、普通の人間を天落ちさせようだなんて、そっちの方が悪魔らしいじゃないですか?」

いつになく挑発的な天堂、こんな姿は初めて見る。

いや、まだ目曇ってんだけどね。

「うぐっ!

で、でも私は…この人間の事を思って…」

うん、よし。ようやく目がさっぱりした。よく見える。

「ま、まぁまぁ悪気はなかったわけだしさ。」

半泣きになってた天使様をボーっと見てはいられなかった。

「…本当に優しいよね秋野くんは。いや、何も知らないからこそかな。」

はぁ…とため息をつかれてしまった。

「いい?"天落ち"って言うのは『天使に落ちる』の略称。

相手をいい心地にさせて、そのまま包容力と暖かさという暴力相手を支配して、自ら働かせてしまう恐ろしい力。

言わば、天使の奴隷になるようなものなんだよ?」

話を聞いてゾッとする。

酔ったことは無いが、あれが酔うという感覚だろうか。

あんな心地のまま、自ら奴隷になろうとさせられると思うと…。

三鏡のうふっと笑う表情が、かわいさから恐怖にかわる。

「あら、そんなに逃げなくてもいいんですよ?

ほぉら、もっとこっちに…」

三鏡の甘い声に脅かされそうになるが、ぐっと堪えて…

あっ、でも凄いいい匂い…。


いやいやいや!堪えて堪えて!

バチン!

俺は自分の顔を思いっきり両手で叩く。

痛い、痛いけどハッキリと、意識を取り戻したように思う。

俺は、逃げるように天堂の方に駆け寄った。

「あら、耐えられた…?普通の人間が、珍しいこともあるものね。」

そう言って三鏡はスマホを開く。

「こんな時間、そろそろお暇しなきゃね。

殺しちゃった件、本当にごめんなさいね?…えっと……秋野くん?」

「あ、いや別に。大丈夫。」

名前を呼ばれて思わずキョドってしまう。恥ずかしい。

すると、羽を器用に折りたたんで、屋根裏部屋の窓を開けた。

「ふふっ、それじゃあまたね。

とっても優しい秋野くんと、悪魔の天使ちゃん。」

バッ!と大きな音を立てて、三鏡は窓から飛び降りた。

慌てて俺は窓の外を見るが、そこにはもう三鏡の姿は無かった。

どうなってんだマジで。

色々と疑問は残るが、とりあえず窓を閉めて、天堂の方に向かう。

天堂は、何やら悩んでいる様子だった。

「秋野くん、本当になんともない?」

「えっ?…うん、なにともないけど。」

指輪もしっかり指にある。本当になんともない。

「そう。ならいいんだけど…。」

そうはいいながらも、天堂はなにか引っかかってる様子だった。

「まぁいっか、うん、なんともないなら。

秋野くん、指輪ある方の手を出して?」

天堂の中の疑問がなんなのかはわからない。

ともかく、俺は言われた通りに手を差し出した。

すると、天堂は俺の手を包み込むように両手を重ねる。

すると、天堂の掌の甲に薄紫色の光が、まるでブラックライトに当てられたかのように映し出される。

書いてあるのは、数字?

何かのカウンターの様に、101と刻まれていた。

「転送」

天堂がそう呟くと、カウンターの数値が102、103…とどんどん上がっていく。

同時に、俺の手が暖かくなるのを感じる。昔、握ってもらった母さんの手のような暖かさだった。

カウンターがちょうど130になった頃、フッと数字は消え、同時に俺の手が離された。

ふぅ、と天堂が息を吐いた後、笑顔に戻る。

「うん、これで大丈夫。今日は色々あってもう疲れたでしょ?

帰ろっか。」

その言葉を聞いて、思い出したかのように疲れが体にのしかかる。

そりゃしんどいわ、1回死んでるんだもん。

天堂の手に移った数値の話も聞きたかったが、なんかもうそれどころじゃない。

早く帰って風呂入って寝たかった。マジ疲れた。

「おう、また明日…」

俺は疲れていたのか、つい『また明日』なんて言ってしまった。

「うん!また明日、ここでね。」

しかし、天堂は満点の笑顔でこう返してくれる。

あぁ、本当に。

人を殺す天使がいれば、こんなに優しい悪魔がいる。

見た目や肩書きだけじゃわからないことってあるものなんだと、改めて痛感させられた。

天堂に階段を出してもらい、階段を降りる。

1階に降りて、靴箱に向かい、校庭を出るとそこには…。

「…!聖雅さん!」

莉珠葉が、校庭の門で俺を待っていたようだった。

「だ、大丈夫ですか?

学校に来てないって連絡が私のスマホに来てたんで、早退して家に帰っても居ないから、探したんですよ?

それに、そんなに疲れた様子で…。

一体何があったんですか!」

だいぶ疲れていたんだろう、顔にも出てたみたいだ。

俺は適当に辻褄を合わせた事情を話しながら、莉珠葉と家に帰った。


あぁ、本当に…体が重い。

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