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天使はあくまで一緒にいたい  作者: みがさか
4/12

約束と契約


「た…ただいま…はぁぁ…」


俺は天堂と別れたあと、まっすぐ家に帰った。

本当にまっすぐ、なんなら走ってまでして帰ってきた。

少し息が上がってしまっているのがその証拠だ。

「随分と遅かったですね、聖雅(せいが)さん」

「えぇ…?でも……時間は間に合ってるけど…?」

「いいえ、10分ほど遅れています」

慌ててスマホで時間を確認する。

19時10分。確かに10分遅れている。

途中から時間すら見ずに必死に走ってきたせいだろうか。

と、言うことは…。

思った通り、俺のスマホの通話履歴には着信拒否がズラっと並んでいた。

「…確かに、聖雅さんは高校生ですから。色々と寄り道なり友達との付き合いもあるでしょうけど。

それを考慮しての19時の門限なんですから、しっかり守ってくださいね?」

「は、はい…。ごめんなさい。」

うちには、珍しく門限がある。

まぁ別に、親が門限を守れ!って堅苦しく言った訳じゃなくて…。

黒いロングヘアーに青い瞳、髪には可愛らしいハリネズミの髪留めをして、俺の目の前で仁王立ちしてる。

この『秋野莉珠葉(あきの りずは)』こそ、みんなの憧れでもある、血の繋がってない妹。いわゆる『義理の妹』というやつだ。

この妹が、個人的に俺に門限を課しているのである。

「な、なにもそんなに怒らなくてもいいだろ?

たかが10分だし。それに、高校生にもなって門限って…」

「なっ…!何を言うんですか!私がどれだけこの10分間心配していたと思ってるんですか…!

たかが10分。そう思ってるかもしれないですけど、聖雅さんは"誘拐されたことがある"んですよ!

もっと危機感を持って行動してください!

それに、遅れるにしても電話くらいは出てください!」

「わ、わかったわかった!ごめんって…。」

確かに、電話に出なかったのは悪かった。

スマホの通知を普段切っていたせいもあるが、言い訳だ。

今度からは遅れそうになったら電話しよう。


莉珠葉が晩御飯を温め直したりしている間、少し話に付き合ってもらった。

「…今日、メールは?」

「パパからは勿論だけど、今日は怜恵(れいえ)さんからもないですね。」

「そっか、やっぱ大変なんだろうな。俳優って。」

「でも、着いて行ってるだけの怜恵さんから何も連絡が無い日は珍しいですよね…何も無ければいいけど…」

そう言って、莉珠葉は温めていた鍋の火を止めて、スマホで連絡の確認をとる。

俺の母親の秋野怜恵(あきの れいえ)は、息子が言うのもなんだが、とてつもなく美人だ。

その上優しく、どんな人にも笑顔で真摯に対応出来るような人だった。

まだ俺が2歳の頃に、養子として迎え入れられ育てられた俺でも、少し恋しそうになってしまったことがある。

俺の少ない黒歴史の内の一つだ。

母さんは、ずっとシングルマザーとして俺を支えてくれていたのだが。

ちょうど一年前、いつから付き合っていたのかもわからないが、東京の俳優の人と母さんが結婚。同時に、この莉珠葉という妹が出来た。

莉珠葉は、俺と同い年の妹だった。誕生日がちょうど半年だけ違うのだ。

まだ少し壁はあるが、だいぶ打ち解けてきた。

…と、思いたい。

「ご飯出来ましたよ」

「ん、了解。いつもありがとうな」

「ふふっ、どういたしまして」


「ごちそうさまでした」

「はい、お粗末さま。

ところで、ずっと聞きたかった事なんですけど…。」

そう言って莉珠葉が指を刺したのは、俺の指にはめている指輪だった。

「それ、どうしたんですか…?」

「えっと…貰ったんだよ」

貰った。うん、間違えてない。

「ふーん…誰からですか?」

的を得た質問に、思わずビクッと肩があがってしまう。

莉珠葉は、俺と同じ高校では無いが、何故か俺の高校の事をよく知っている。

勿論、天堂と関わった人を周りの男どもが拉致することも…。

これが、天堂のものとわかったら、きっと(けん)と同じようになると思って、外出禁止を食らうかもしれない。

せっかく天堂と仲良くなれそうなのだ、ここでバレる訳にはいかない…!

あくまで自然に…悟られないように…。

「健から貰ってさ、ずっとつけてると運気が上がるってやつ」

いい嘘だ、悪くない。

「へぇー…で、本当は?」

またしてもビクッと肩が上がる。

こいつ、心が読めるのか?!

「ほ、本当だって、本当本当」

「絶対嘘」

「な、何を根拠に…?」

「聖雅さん、嘘ついた時2回同じ言葉繰り返す癖があります。」

「えっ」

気づかなかった、昔からそうだったんだろうか?

16歳になっても、まだまだ自分の知らないことってあるもんなんだなぁ。

「聖雅さん?ほ・ん・ね・は?」

とても綺麗な笑顔だが、その笑顔からはとても重い圧を感じる。

さっき食べたばかりなのに、胃がキリキリする…。

「も…貰ったんだよ」

「そこはわかってます。重要なのは"誰に貰ったか"なんですよ、聖雅さん」

全てお見通しと言わんばかりに、ジッと俺の目を真っ直ぐに見てくる。

あぁこう見ると、やっぱ綺麗な青色してるなぁ。

流石というか、俳優の子供なこともあって顔立ちも整ってて。

こう、しっかりと見ることなかったけど、やっぱ美人…

「ふごぁっ」

いきなり手を顔に押し当てられた。

思わず変な声出たわ…咄嗟に出た言葉としては恥ずかしい。

手の隙間から見えた莉珠葉の顔は少し赤くなっていた。

「み、見すぎ…です。」

そう言い残した後、莉珠葉は自室へと戻って行った。

なにはともあれ、この指輪の秘密は守られた。


皿洗いを早々に済まして、風呂に入ろうとした時にふと思った。

指輪、普通外すよな。

そう思って指輪を外そうとした時に、天堂の契約の時の言葉を思い出す。

「『この指輪があなたを締め付けていきます』…か。」

天堂は、人に話したらその効果が発動すると言っていた。

人に話すだけでそんな効果がでる指輪だ、外しなんてしたらどうなるのか…

想像するだけでゾッとした。

器用に少しだけ指輪をズラして洗い、元に戻すという方法で、乗り切ることにした。

どうやら、指から離れなければ大丈夫なようだ。

俺はホッとしてゆっくりと風呂につかった。


翌日、いつも通りに学校に着くと、何やら学校の前に人だかりが出来ていた。

一体なんの騒ぎだろうと見に行くと、どうやらテレビ局の人が来てるらしい。

前述の通り、この学校はまだ日本に数少ない屋根あり校舎。

そりゃあメディアもたまには取り上げるだろうと、靴箱に向かう最中。

「ニャー!」

「うわっ、ちょっ!」

急に猫が俺を通り過ぎて、校舎の裏へと逃げていった。

引っかかれたりしてないかな…と自分の体の安全を確認している時に気づいた。

ない。指輪が外れていた。

一瞬心臓止まるぐらいには焦り、身構えたが…。

なにも起こらない、どうやら外しても特に何も起きないみたいだ。

少しホッとしはしたもののこれは天堂と、『悪魔』と契約した物。

急いで辺りを必死に探すが見つからない。

登校中も気をつけていたし、学校に来ることはあったのを確認しているので。

考えられる要因は1つ、あの猫だ。

俺は急いで、猫が向かった校舎の裏へと急いだ。

校庭の裏に回ると、あの猫が俺の指輪を咥えながら辺りを見渡していた。

どうやら、こちらにはまだ気づいてはいない様子。

気づかれないように…抜き足…差し味…。

ジジジッ!

「うわっ!」

ゆっくりと3歩目を踏み出した時に、不運にもセミがこちらに飛んできた。

思わず声が漏れてしまい、猫は足早に逃げ去ってしまった。

なんでまたこんなタイミングに。

今日はついてないな、と俯いている場合ではない。

急いで猫の逃げた先を追いかける。向かった先は、テレビ局の車の中だった。

流石にテレビ局の車の中はなぁ、とちょっと躊躇ったが、こっちは命がかかってる(かもしれない)。

少し緊張気味に、車のドアをノックする。

「すいません」

俺がドアをノックしても返事はなく、中から何やらガサガサと音がした後がなるだけだった。

こうなったら失礼を承知で!とドアを開けようとした時だった。

「はーい、もうちょっとまっててくださーい」

と、女性の返事が返ってきた。

女性の返事通り、俺は相手からドアを開けてくれるのを待つことにした。

ふと足元を見ると、蟻が俺の足元を駆け上がってくるのが見えて、慌てて振り払う。

虫が苦手な俺に夏は天敵。そのうえ、今日は2度も虫と触れ合ってしまった。

今日は厄日だなぁ本当に、とてもじゃないけど運が悪すぎる。

そんなことを考えていると、ドアが開いた。

中から出てきたのは、空色の髪に黄色い瞳をした、ポニーテールの女の子が、スーツ姿で現れた。

この人は見覚えがある、確かスマホのニュースで話題になってたな。

天才新人女優、とか言われてたっけ。

ん?ってことは俺の目の前にいるの芸能人!?

頭が理解した瞬間に、体に緊張が走る。

「あれ?スタッフさんじゃないよね?制服着てるし…」

「あっ…えっと…」

思わず言葉が詰まる。

「もしかしてファンの人?ごめんねー、直接来てもらっても何もしてあげられないんだー」

俺の返答を待たずに彼女は手を合わせてあざとく言い放つ。かわいい。

っと、いけないいけない。

俺は緊張と興奮の心を抑えつつ本題を聞き出す。

「あの、ここに指輪を咥えた猫が入ってきませんでしたか?ええっと確か綺麗な青色の…」

と、ここで口に出しながら思い出す。

必死だったから考えもしなかったが、あの猫はとても美しかった。

画像でも見たことの無い、薄い青色の珍しい綺麗な猫だった。

目の錯覚かわからないが、俺には少し光っているようにも見えるほど、その美しさは凄まじかった。

「そうなんだねー」

ふと彼女を見ると、何故か少し頬を赤らめていた。

「でも、そんなに美しい猫見なかったよ?」

「えっ?そんなはずは…」

そんなはずはない、俺は横目に見た訳では無い。

確かにこの車の猫用のドアに入っていくのを見たし、猫用のドアが開く音も聞いている。

「そんなに疑うなら、中入れられないけど少し見る?」

そう言って彼女は俺の隣に立つように外に出る。少しドキッとしたが、今はそれどころではない。

俺はお言葉に甘えて車を見渡す。

中は小さいメイクルームのようになっており、化粧品がズラっと並んでいたり、少しくつろげるようなスペース、そしてなぜか猫用のペット用品が少し並んでいた。

その猫用のペット用品の方を目を凝らしてよく見てみると。

俺の気持ちが通じたのか、奇跡的に、猫用ベッドの中にキラリと光るものを見つけた。

「すいません、あの猫用のベッドの中、調べていただけませんか?」

「えっと…それは…ダメ。」

そう言って彼女は、笑顔で車のドアを閉める。

"俺を中に無理矢理押し込んで"。

いきなりの出来事に、俺の頭は真っ白だった。

「えっ…?…えっ!?」

「これだけは、したくなかったのになぁ…」

そう言って、彼女は俺の背中から白い弓矢の様なものを取り出し、俺に向かって構えた。

…構えた!?

「いやっ!ちょっと待っ…!」


ザクッ


「ごめんね、これもあなたの為なの。

どうか、目を覚まさないで…。」

薄れゆく意識の中で、彼女の言葉を聞き取れたのはここまでだった。

腹部の痛みと、ドクドクと流れる血の感覚。

そしてゆっくりと…何も考えなくなって…。


「…くん…!」

微かに…声が聞こえる気がする。

「…くん!…きのくん!」

この声は…天堂…?

天堂!?

俺は、天堂の声を聞いた瞬間に、自分がまだ死んでいないことを理解し、一気に起き上がる。

目を開けると、俺はあの屋根裏部屋で寝ていた。

あの時刺された弓の傷も消え去り、指輪も指に戻っていた。

夢…ではなかったはず。あれは一体…。

「よかった、成功してたぁ。」

パッと声のするほうを見ると、俺を弓矢で刺したあの新人女優が肩をなでおろしていた。

なにが起こったのかさっぱりわからないまま、急に天堂が俺の手を握って見つめてきた。

「大丈夫!?本当に大丈夫!?」

「お、おう…なんともない…」

めっちゃ近い、すごい近い、これが俗に言う"ガチ恋距離"というものだろうか。

ヤバいって、こんなんガチ恋するって。

俺は必死に理性を保ちつつ、状況を聞き出すことにした。


「えっと…状況をもう一度理解しないと。」

昨日もこんなことあったな、しかも同じ場所で。

「その前に、私の自己紹介をさせてくれない?」

そういったのは、俺を刺し殺した犯人の女優だった。

なんだか、の中で会った時よりも落ち着いているような…。

俺は内心不信感を感じながらも、それを承諾した。

「ありがとう。

知ってるかもしれないけど、私の名前は「三鏡六姫(みかがみ むつき)」」

そう自己紹介をしてる最中、急に彼女の背中から綺麗な白い羽が、大きく部屋を覆い尽くす。

白く綺麗で少し水色の入った、それは綺麗で美しい。

そう、まさにそれは…


「天使です」

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