屋上の天使
このシリーズは短いのをを少しづつ出すタイプの小説です。
初めての執筆策なので、所々至らぬ点はございますでしょうが、生暖かく見守ってくださると嬉しいです。
「あっちぃ…」
どこまでも広がる青い空に、大きく目立つ白い光。
この光が、事情聴取かと言わんばかりに、文字通りの熱い視線を送ってくる。
去年の6月ってこんなに暑かったか?
なんて毎年思っていることを、今年も思ってしまう。
重い足を持ち上げて、なんとかして学校に着いた俺達を、歓迎するかのようにクーラーの息が吹きかける。
あぁ、この瞬間がずっと続けばいいのに。
一気に軽くなった足を軽々扱い、俺は教室に向かった。
教室に向かう途中、偶然にも彼女とすれ違った。
いや…すれ違って"しまった"。
「おはよう、秋野くん。」
「おっ…おはよう、天堂。」
咄嗟の同様と緊張で、言葉が出づらかったが、なんとか返事を返せた…よかった…。
彼女は『天堂 甛詩』。
優しく、誰にでも笑顔で話しかける優等生で、身長が148cmと小さいこと。
そのうえ、いつも白い羽の髪飾りをしていることと、その名前から『天使』なんて呼ばれている。言わばこの学校でのマドンナ的な存在だ。
さて、そんな彼女とすれ違った俺の発言は、なぜ"しまった"なのか。
理由はとても簡単で、天使なんて呼ばれる彼女くらいになると、学校の猛者が黙っちゃいない。
色んな人が影で天堂を見守っており、変な行動を起こせば、即拉致されることだろう…。
今回は…。
よかった"幸運"にも、猛者達の中でセーフ判定だったようだ。
この前、クラスメイトの『』海春 健』が、挨拶しただけで連れていかれたのを見てから、より一層天堂の前での言動に、気をつけるようにしている。
暑かった体は一気に冷め、逆に丁度良かったのかもしれない。
俺は足早に自分の教室へ向かった。
教室には、3日間行方不明だった健の姿が見えた。
「おお健!無事だったんだな!」
「おはよう、聖雅。まぁ、なんとかな…」
苦笑いで俺を迎えた健の身体中には、大量の絆創膏が貼られていた。
「お前、その重症に絆創膏って…もっと危機感持てよ」
「いやぁ、僕もそう言ったんだけどね…」
すると、健の背後から綺麗な赤髪の少女が、健に向かって抱きついた
「健くーん!会いたかったー!登校大丈夫だった?まだ痛む?」
「いっ…!や…大丈夫」
強がってるなぁ、多分今抱きつかれてるのが1番痛いだろうに…
彼女は『星乃煌』、健の中学からの同級生で、健とつきあっている仲だ。
「そう?ならよかった!絆創膏、しっかりつけておくようにね?わかった?」
「う、うん。わかったわかった」
苦笑いする健の隣の席の椅子に、星乃は容赦なく座った。
「えっと、つまりその絆創膏は」
「そう、お察しの通りきーちゃんのしわっ…おかげだよ」
「えっへへへ」
苦労してんなぁ…。
「ところで健、なんで3日も学校に来なかったんだ?
まさか3日間ずっと親衛隊に…?」
「いや、追われてボコボコにされたのは1日目だけだよ、残りの時間は。」
「あたしの家で看病してあげたんだよ!
でも、健くんったら急にもう大丈夫だからって家を飛び出してっちゃうんだもん。心配しちゃった」
本当に、苦労してるなぁ健。
俺と健とは高校からの仲だからわからないけど、昔はこんなにベッタリじゃなかったらしい。
確かに、星乃の健へのベッタリ具合は、周りから見てもかなり依存しているように見える。
一体何があったのか、俺なんかには知る由もない。
「健、絆創膏でその怪我、治りそうか?」
「治るよ」
俺の言葉を打ち消すかのように、星乃は力強く言い放つ。
「だって、大切な大切な絆創膏だもん、絶対治るよ」
その言葉を言った時の星乃の表情は、とても強く、真剣で…。
キーンコーンカーンコーン
まるで仕組まれたかのように、チャイムが俺達の会話に割り込んだ。
星乃と健の間になにがあったのか。
その話は、また次の休みにでも聞いてみよう。
…また休みに聞こうと思って忘れたまま放課後になってしまった。健を呼ぼうにも、もう既に行ってしまった後のようだ、急いで星乃が後を追っていた。
この様子じゃあ、今日は聞けそうにない。
大人しくカバンを持って、家へ帰ることにした。
歩き始めて10分ほどだろうか、学校にスマホを忘れたのに気がついた。
宿題とかならそのまま置いて帰ったが、流石にスマホは置いていけない、急いで学校に戻る。
学校に戻ると、誰もいない教室を、赤い夕日が机を燃やしていた。
もうそんな時間かと、机の中のスマホを確認する。
急いで走った汗を拭いながら、再び家へと帰ろうとした時だった。
階段があった。
いや、まぁあるだろ。とは最初思ったのだが、こんな所に階段はなかった。
この学校は、3階建のごく普通の学校なのだが、少し特殊な学校であった。
その違う点と言うのは『屋根』がある事。
最近の自殺者の多さを懸念した大人達が「いっその事屋上自体を無くせばいい!」という発想に至り、この『屋根あり校舎』が出来始めたのだという。
そんな校舎の三階に、上り階段がある。その異常な光景に、俺は青ざめた。
恐怖心はあったが、それよりも好奇心が俺の心を支配した。
学校の屋根裏、大人になってからじゃ行くことは出来ないし、屋根あり校舎はまだ日本にも数が少ない。
自然と俺の体はその階段へと引き寄せられ、一歩一歩とその段差を登って行った。
階段の踊り場へ出たところで、上の景色が見えた。
ドアだ、それも真っ黒なドア。
俺は階段を駆け上がり、そのドアへと手を伸ばしドアノブを回す。
すると、ドアは俺を閉じ込めることなく、引くことが出来た。どうやら鍵を閉め忘れていたようだ。
俺は好奇心と共にそのドアの中へと進んだ。
その時
「だ、誰っ!?」
聞き覚えのある甘い声が、鋭い言葉と共に俺に投げかけられた。
俺はその声を聞き、咄嗟にその方向へ体を向かわせた。
「なんでお前…ここにいるんだよ…」
俺はその日、屋根裏で天使に出会った。