Phase 4-ZERO 閑話休題もしくは補習授業 其の四 <トラック沖海戦>
「RDFに反応 大型艦多数を確認!」
1954年4月28~29日にかけトラック沖で行われた南海の決闘は、ウェールズ出身のベテラン下士官の発した、キングス・イングリッシュによるこの言葉により始められた。
この時英東洋艦隊は、日本艦隊と共にトラック近海で警戒配置に就いている空母部隊と「インディファティガブル」を中核とする小規模の水上打撃艦隊に分かれて活動していた。
英東洋艦隊(リーチ戦隊)
BB:<インディファティガブル>
CL:3 DD:4
同艦隊はリーチ戦隊と呼称され、東洋艦隊司令でもあったリーチ大将の将旗を掲げたベテランの高速戦艦1隻を中核にして、戦隊と呼ぶにはいささか規模の大きな編成を取っていた。
また、英国政府は自国が数隻しか実働状態に置いていない戦艦を、フロントラインに置いている事に半世紀続く同盟国に対する政治的意義を感じており、本国で改装が行われたばかりの「インディファティガブル」が、この時戦場に存在する最大の理由となっていた。
なお、「インディファティガブル」は日本の「八八艦隊計画」、アメリカの「ダニエル・プラン」と同時期の1921年計画の改変計画により誕生が決められた巡洋戦艦で、この時艦齢25年を迎えるベテランだった。
そしてこの時彼女は、満載5万トン以上の巨体に従来からの45口径16インチ砲三連装3基・9門以外は、第二次世界大戦中もしくは戦後の改装で搭載された装備を満載し、主砲以外は多数の自動速射砲と高射機関砲で守られており、戦艦というよりは空母の直衛の為の騎士としての役割が強くなっていた。
だが、自らの槍、もしくは弓についてもおさおさ怠りはなく、この時まだ世界最高レベルにあった電子兵器開発能力を持つ英国の総力を挙げた装備が施されており、「妖精の目」と言うニックネームを戴いた波長1センチ以下の、世界中のどの逆探知装置であっても探知不可能と言われた最新鋭の対水上RDFを搭載して、ベテラン艦特有の射撃の正確さもあり、まさに「魔弾の射手」となっていた。
そして戦艦艦橋の高い位置に設置された「妖精の目」こそが、深夜の南洋の海で最初に敵を発見する栄誉に欲したわけだ。
この時「インディファティガブル」は、距離60km以上で最初の探知に成功しており、近くを自らと同様に警戒配置についていた艦隊に、探知されにくい圧縮通信で概略情報を送ると、真っ先に迎撃位置に向けての進撃を開始していった。
一方、リーチ戦隊から報告を受けた日本艦隊だが、一部の駆逐戦隊を除くと完熟訓練を兼ねて付近海面を遊弋していたに等しい部隊でしかなく、しかもこの地域の艦隊全体の指揮権を持っているに等しい第二艦隊司令が座乗するという突発事態を迎えていた。
そしてこの事から、日英艦隊が米艦隊の大挙襲来を待ちかまえていたのではなく、単なる偶然で大決戦になった事が伺えるだろう。
そしてアメリカ側の不幸は、敵の大規模な迎撃に全く気付いていない事と、英艦隊からの報告を受け勇躍進撃を開始した日本艦隊の構成艦にあった。
第二艦隊(第一戦隊・指揮官:黛中将直率)
BB:<播磨><大和>
DD:4
この時トラック環礁に対して急接近していた米艦隊は、水上打撃艦隊ばかり大小2個艦隊から構成され、日英側が察知していた、あからさまな囮である空母部隊とは逆の方向から急速に接近しつつあった。
なお、空母部隊同士の航空戦と戦艦同士の殴り合いのどちらを主とするかで、この時の海戦呼称は食い違いを見せており、日本側は水上打撃戦の行われた「トラック沖海戦」を選び、アメリカ側は痛み分けに終わった空母戦「エニウェトク沖海戦」の方を正式呼称としている。
そしてこの時トラック諸島西方海上一帯は、多数の場所でスコール雲で覆われているため視界が悪く、英米の艦艇は電子兵器に頼り切った行動を取り、日本艦隊も英艦隊からの報告が来るまでは同様の行動を取っていたが、報告を受けて以後は、新技術導入により新たな価値が生まれてきた伝統の目視監視を強化しつつ艦隊運動を続けていた。
なお、以下がそれぞれの位置関係の概略になる。
(英)
(米/TF34-2)
←至トラック
(米/TF34-1)
(日)
以上の略図のような位置関係で、英艦隊が発見したのは米海軍の「TF34-2」で、当然日英の艦隊は同部隊に対して南北からの挟撃を企ろうと艦隊運動を行う事になる。
そして、それこそがこの戦闘の混乱を決定的なものとしていた。
日英側は、アメリカ側が嫌がらせもしくは陽動の為の夜間奇襲を行いに来たものと考えており、まさか自らを撃破せんがため、全力出撃をしてきているとは想像していなかったからだ。
だが、その場にいた日英艦隊による「TF34-2」に対する襲撃運動は見事の一つに尽き、アメリカ艦隊の先鋒を承っていた艦隊は、マッハ2以上で飛来する砲弾がレーダースコープに映し出されるまで、自らが襲われつつある事に気付くことはなかった。
そして奇襲をする筈が逆に奇襲された部隊の狼狽は、時代、戦場、部隊を問わず無惨な結果を招く事が多く、この時生け贄とされた彼女達の運命もまた、それまでの幾多の例に漏れなかった。
第34-2任務部隊
BB(4.5万頓):<ミズーリ><ウィスコンシン>
AC(3万頓):<アラスカ><サモア>
CL:2 DD:6
編成は以上のようになり、この部隊は本来なら空母の直衛についている筈の艦艇ばかりだったが、この作戦では多数の日本戦艦の迎撃も予測された事から、遊撃を任務として臨時編成され、さらには艦隊速力33ノット以上という驚異的な俊足を買われて、トラック環礁に対して最初の一撃を叩きつける役割を仰せつかっていた。
だが、俊足であるという事は、総じて防御力が低い軽騎兵の群だと言う事も同時に現しており、日英ほぼ同時に開始された超遠距離からの砲撃は、同部隊に対して最大級の災厄の到来となった。
最初に着弾したのは、当然というべきか16インチ砲弾だった。
そして、正確な電子情報と乗艦の射撃特性を熟知した砲術員により、射距離36,000メートルで送り込まれた16インチ砲弾は、狙い違わず米艦隊の先頭を進んでいた大型戦艦の頭上に降り注ぎ、命中弾こそ初弾では発生しなかったが完全に「ミズーリ」を捕捉し、その後5分以内に送り込まれた3度の斉射弾27発のうち5発がオン・ターゲットとなり、高角度から命中した砲弾の全ては、戦艦としては低防御に部類されるアイオワ級戦艦の装甲を全て貫き、敵の概略位置すらつかめず打たれ続ける一方の彼女の鎧を貫き、剣をへし折り、脚を砕き、腑を剔り、そしてその首すらへし折ってしまう。
つまり、たった5発の命中弾は、全て「ミズーリ」の主要部に命中しこれを破壊、爆沈にこそ至らなかったが、同艦をたった数分で高速戦艦から沈み逝く鉄屑の棺桶への転職を強要していた。
そして、「ミズーリ」が一方的に叩きつぶされ、同艦にあった艦隊司令部も同時に壊滅したのとほぼ同時に日本艦隊からの砲撃が開始され、射距離40,000メートルから飛来した21発の20インチ砲弾は、「播磨」、「大和」の統制射撃により一つの目標に降り注ぎ、自らのデータと英艦隊からの情報によって導かれた砲弾は、日本人的几帳面さを見せるように「アラスカ」の周りに降り注いだ。
そして成層圏からの落下運動エネルギーを与えられた合計42トンの至近弾による爆圧だけで、彼女を飾っていた防空火器と電子装備の多くをガラクタに変えてしまうばかりか、主舵とスクリューの全てを破壊してしまい、一発の被弾もしていない3万トンクラスの戦闘巡洋艦を戦闘不能に追い込んでしまう。
圧倒的、と言う以上の破壊力だった。
当然というべきか、その後の戦闘は一方的なものとなり、起死回生を狙い接近する米艦隊の軽艦艇の全ても日英側の護衛艦艇と「妖精の目」を持つ「魔弾の射手」の手により次々に射殺されてしまい、遠距離から降り注ぐ20インチ砲弾の雨は、米軍の主力部隊が応援に現れる前に4隻全ての戦艦を次々に撃沈に追い込んでいった。
特に最後に残った「サモア」は、たった一斉射で爆沈してしまう。
だが、「サモア」が放った断末魔の爆発は、付近海面一面を明るくする程であり、その明かりは一瞬超特大の照明弾のような輝きを作り出し、付近海面にあった艦艇の全てを照らし出す事になる。
そして、この時初めて日英側は、戦闘態勢を取りつつある米主力艦隊を捉え、しかも同艦隊は米軍前衛艦隊を叩きつぶしていた日英警戒部隊に対して全速力での反航戦をしかけつつ、すり抜けるような艦隊運動をしている事を発見し、次なる混乱の幕へと流れていく。
だがこの時点で、日本側もトラック環礁全体が本格的な迎撃態勢に入っており、夜間航空機部隊の緊急発進が進むと共に、米艦隊がトラック環礁を射程圏内に捉える手前で自らの主力部隊の迎撃が可能になるよう準備しており、また俊足の英部隊はその身軽さから米主力艦隊の追撃態勢に入っていた。
この時の位置関係及び、概略位置は次のようになる。
○○○
○
○ (日)
トラック○
○ (日/TF2) (英)
○ (米/TF34-1)
○○○
米・第34-1任務部隊
BB(9万頓):<ヴァーモント><ヴァージニア>
BB(7万頓):<ロードアイランド><デラウェア>
BB(6万頓):<オハイオ><ニューハンプシャー>
BB(3.5万頓):<サウスダコタ><インディアナ>
CG:4 CL:6 DD:18
日・第二艦隊(主隊)
BB(6万頓):<富士><阿蘇><雲仙><浅間>
BB(6万頓):<紀伊><尾張><駿河><近江>
CG:4 CL:3 DD:12
日米の主力艦隊同士が距離30,000メートルで激突した時の状況が以下のようになるが、この時までに米艦隊は、日英の3隻の戦艦との短時間の砲撃戦で、「ヴァージニア」の戦闘力の33%を失い、「サウスダコタ」が判定中破の損害を受けており、しかも英国の「インディファティガブル」は、米艦隊の後方から遠距離砲撃を継続し続けており、艦列の最後尾に位置していた「インディアナ」は、技術格差から不利な砲撃戦を強いられ(砲撃可能なサウスダコタは後楼破壊で後方への砲撃不能)、日本艦隊と戦うまでに数発を被弾、強固な防御構造とダメージコントロールにより戦闘力こそ維持されていたが、徐々に追いつめられつつあった。
だが、日米の主力艦同士が砲火を交え始めると、その差が歴然と現れ始めた。
優勢に立ったのは米軍の方だった。
理由は簡単で、アメリカ側の戦艦は艦齢の古いものでも10年程度で、その全てが新型戦艦ばかりで構成されており、しかも先頭を進む2隻の戦艦は20インチ砲を搭載した巨大戦艦で、18インチ砲を有する6万トン級戦艦8隻を擁するといっても、その全てが艦齢20年に達する日本艦隊が不利になるのは道理というものだった。
特にアメリカ側の戦列前列になる4隻の大型戦艦は、その建造目的を十二分に発揮し、これまで恐怖の象徴だった日本製18インチ砲からの打撃を致命的なものとする事はなく、反対に高初速の18インチ砲弾と強力無比な20インチ砲弾は、次々に日本戦艦を撃破し、戦闘開始30分で日本艦隊は後退を決意しなければならないほど消耗してしまい、たった1隻で後ろから「サウスダコタ」、「インディアナ」を事実上しとめた「インディファティガブル」一隻が奮戦しようとも、その劣勢は覆りそうになかった。
また緊急発進した、トラック基地の夜間攻撃隊が、遅ればせながらも中隊規模で攻撃をしかけ、小型の誘導弾で損傷を与えていたが、その程度でリヴァイアサンの群を押し止めるには至らなかった。
そして、米艦隊が自らも半壊しながらも、日本艦隊の防衛線を突破し、トラック環礁内部を射程圏内に捉えた頃、戦術運動の結果主戦場から離されてしまっていた日本側の2隻のモンスターが、再び舞台へと上がってくる。
ここで米軍は、日本のモンスターを無視してトラック環礁内の日本軍基地を攻撃するか、陣形を組み直しつつある日英の戦艦を攻撃するかの選択を迫られるが、本来アメリカ側の作戦意図は日本艦隊の戦術的撃破を優先順位に上げていたので、各個撃破よろしく、自らも隊列を整え直し、日本側の新たな挑戦に立ち向かう事になる。
日英:
<播磨><大和><インディファティガブル>
<紀伊><近江>
米:
<ヴァーモント><ヴァージニア>
<ロードアイランド><デラウェア><オハイオ>
以上が、依然として戦闘力を維持していた双方の戦艦たちで、双方とも脱落した戦艦は撃沈もしくは大破しており、残っている戦艦についても無傷のものは「インディファティガブル」ただ1隻という有様だった。
そして、米艦隊がトラック環礁を背にして日英と激突するという、ある種奇妙な位置関係でこの夜何度目かの砲火の応酬が開始される。
そして、一見互角の戦力だが、日英側は艦隊が3つに分かれているためアメリカ側に対して不利で、アメリカ側は好きな相手を選択して各個撃破すれば良いという構図が作られ、当然というべきか、最も有力な戦力を持っている「播磨」、「大和」の艦列への突撃を開始した。
最後の戦闘は、先の反航戦とは異なって同航戦となり、20インチ砲戦艦どうしの正面からの激突となり、速射性に優れる「播磨」が米戦艦を上回る射撃ペースで砲弾を送り込み続け、双方ほぼ互角の直接防御力が作り出す拮抗状態を徐々に崩していく。
また、復讐に燃える「紀伊」、「近江」、そして依然正確無比な砲弾を送り込んでいる「インディファティガブル」が米艦隊を包囲するような形で接近していった。
そして、約20分間続いた激しい砲火の応酬は、自らの判定中破の損害と引替に「オハイオ」を片づけた「インディファティガブル」が次の相手でもある「ヴァーモント」に送り込んだ砲弾が、彼女の目にあたる光学射撃システムを破壊した事が実質的な決着となった。
その後は、撤退を決意した米艦隊を日英側が追う形になり、自らの損害の多さから追撃しきれなかった日本艦隊の追撃を米艦隊が振り切る形で戦闘は終息し、その後態勢を整え本格的な対艦攻撃部隊を送り出したトラックの日本軍基地航空隊による追撃により米艦隊の艦艇の多くが攻撃を受け、特に損傷艦の多くが波間に没する事になる。
そしてそのまま、早朝からの空母部隊同士の戦闘へと続いていく。
なお、最後に記しているのがこの戦闘での双方の戦艦の損害になるが、アメリカ側に撃沈艦が多いのは、敵地制海権、制空権下で戦闘を行ったからに他ならず、ここにアメリカ合衆国水上打撃部隊は、その歴史に実質的な幕を下ろす事になり、反対に日本側は前線基地の近くということで、追撃を受ける事もなくすぐさま曳航、修理にはいり、破壊箇所の多くが水線上だった事もあり、その大半が数ヶ月の修理で前線に復帰しており、判定撃沈となっていた「富士」ですら、トラック外縁の環礁で座礁した形で力尽きたため、戦後復帰してすらいるのも、戦闘の明暗を分けていると言えるだろう。
撃沈
日:
<富士><浅間><尾張><駿河>
米:
<ヴァージニア><ロードアイランド><オハイオ>
<ミズーリ><ウィスコンシン>
<サウスダコタ><インディアナ>
<アラスカ><サモア>
大破
日:
<阿蘇><雲仙><近江>
米:
<ヴァーモント><ニューハンプシャー>
中破
日:
<紀伊><播磨><大和>
英:
<インディファティガブル>
米:
<デラウェア>
次からは「04_BudDream」の転載を進めていきます。
最後に、当時少しだけ書いていた続きを発見したので、この機会に掲載したいと思います。
(ただし完結はしません。)