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Case_00_03-3

■平和


「さて、諸君。諸君らは、余の次の言葉を待っていると思うが、ここで一度話を戻したいと思う」


 激しい言葉から一転、数瞬を置いたヒトラー総統の言葉は、低く落ち着いたものとなった。

 そして、そのまましばらく言葉が紡がれていき、それはドルイドの呪文のようにホールの人々の心に染み渡っていった。


「我が帝国政府は、第二次世界大戦と呼ばれるようになった先ほどの戦乱の後、ただただ世界平和を希求してきた。

 これは、先の我が帝国の戦争目的が、単に我が帝国の生存圏の確立だけに留まらず、帝国引いては欧州の経済的安定の為には、強大な権力が一度地域全体を統合し、効率的な運営を必要とするからに他ならず、ただただそれを達成するためにあった。

 そしてそれは今現在順調に伸展しており、早晩その果実を我が帝国のみならず、全ての欧州諸国が手にする事になるだろう。

 これは各種の統計数字と財政状況を見れば分かる事であり、今更説明の必要はないと思う。

 だが、諸君の中にはこれに疑問を感じる事があると思う。

 そうだ、平和な世界が訪れた筈なのに、我が帝国と欧州各国が浪費する軍事費の額が、どう検分しても過大に映る、という事だ。

 さて、諸君、なぜ平和が訪れた欧州社会においてこれほど軍事費が浪費されねばならないのだろうか。

 そう、そうなのだ、我が帝国に責任はなく、その責を負うのは我々の外にいる無定見な国家の存在であり、ただ貪欲なだけの植民地人の末裔や東洋人により振り回されるだけの政府が、我がレーベンス・ラウムを羨み、そして妬んだ結果、ブリテン島に掬う帝国主義者や、ウラル山脈に居るヴォルシェヴィキの残党達を支援し続ける行動を取らせているのだ。

 そして、彼らを使う事により、彼らは自らの手を血で汚すことなく、資本主義的果実だけを求めようとしており、その行動は現在実を結びつつある。

 このままでは早晩、我が帝国は不要な軍事支出の悪化により財政的苦境を迎え、最終的には欧州全土が太平洋に面する二つの無定見な帝国の経済植民地となるであろう」


 次第にテンションの上がっていく言葉を、一旦切ったのち核心へと切り込んだ。


「諸君、私は諸君らに問おう! 我が帝国はこのまま座して失血死を迎えてよいのであろうか。

 いや、それは許されない。

 なぜなら、レーベンス・ラウムの確立こそが我が帝国の掲げた政策であり、これを履行する事こそが全てのドイツ国民に対する責務だからだ。

 そして、それを最も簡単になし得るのが、軍事力を用いた解決法になるだろう。

 そして、これを求める将軍達が多数いる事も余は承知している。

 だが、余はあえて安易な軍事力の行使を否定したい。

 それは何故か。

 そうだ、安易な軍事的恫喝が第二次世界大戦を我が帝国の手によって呼び込ませ、今なお我が帝国の足を引っ張っているからに他ならないからだ。

 もちろん、かつての行動を指示したのが、私、アドルフ・ヒトラーである事は重々承知している。

 だが、過った道を歩むのは一度で十分だ。

 二度同じ道をたどれば、それは容易にドイツ民族に破滅をもたらすだろう。

 なぜなら幸運は何度も訪れないからに他ならない。

 そしてドイツ民族の破滅は、余と帝国が望むものではなく、故にここに政策の大方針を打ち出すものである!」


 その後、ヒトラー総統の口から発せられた言葉は、居合わせた過半の者を、彼らの思っていたのとは違う驚きで迎えられた。

 

 それは、日米のみならず、英、露を含めた各国との首脳レベルの平和会談の実現であり、それを実現すべく万難を排して環境を整えるという事になり、最終的には世界規模の軍縮を実現しするもので、さらには欧州を一つの連合体として再編成して欧州経済を復興し、戦乱無き安定と発展を実現する事にあった。

 

 それは、それまでの恫喝的膨脹外交の完全な否定であり、自らの政策を否定したと多くの人が認識するに十分な変更だった。

 


 そして、世界は以後それまでとは違った意味で、ドイツに振り回される事となる。



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 ■Case 05-01「融和外交」へ

  (Case 05-00 へ進む)

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