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タイトル未定1  作者: かしまさん
1/1

未定

 カイン・レーダス

 ただ本が好きなだけの平凡などこにでもいる平民だった。

 ただ本を読んで読んで読み続けていたら町中の本を読み尽くし、読むものがなくなったからと冒険者ギルドに登録し冒険者になり家を出て旅に出たのは13の時だった。

 旅に出て、初めて訪れた地元ではない何も知らない町。不思議な感覚だった。顔見知り一人いない商店、どこに続くかも分からない路地が見える大通り。

 地元ではないだけでこんなにも不安と高揚感が複雑に入り混じった気持ちになるとは思わなかった。

 けれど目的は決まっていたから足は止めなかった。

 ただ本を読み、読んで読んで読みつくし他の街の本を読みつくすこと。それだけが目的で旅に出た。

 だが二つ目の街で本を読みつくしかけていた時だ。

 路銀が尽きかけていた。

 手っ取り早く路銀を稼がなければ本を読む時間が人生の中で減ってしまう。

 これはまずいと思い、ギルドに駆け込んだ。

 だが時間と手間それに体力の必要な依頼しか無く、これでは本が読めない。

 時間は本を読む以外には使いたくない本を読んでばかりで体力も大してない。

 ならば作ろう。

 金がないなら金になるものを作ればいい。

 そう思い錬金術の本を思い返してみた。

 最初は何も思わなかった。

 5年ほど前に読んだ本の内容を一字一句忘れず紙の質感や汚れ、匂いまでも即座に頭に思い浮かんだ。

 本の通りに錬金術で薬を作って売りさばき、また本を読んだ。その時まで本に書かれている魔法や錬金術を使おうと思ったことは一度もなかった。

 ただ使えないと思ったこともなかった。

 

 そこからは早かった。

 なぜ大して働きもせず毎日本を読んでいられるのかと聞かれ正直に話すと、錬金術と魔法を使えると知った冒険者と仲間になり世界中を連れまわしてもらい魔法で仲間や自分の身を守り本を読み漁った。

 歩きもせず馬車で旅をしてただ本を読んで読んで読みつくし生まれてから200年ほど経っていた。

 そして、大陸中の本を読みつくしてしまった。

 最初の仲間は誰一人生きてはいなかった。

 魔法により寿命を延ばし身体を保ち、それを永遠に行い続けるには魔力が足りない。

 魔法で老化を遅らせているが徐々確実に老いていき、ついに身体の寿命が来てしまった。

 生まれが平民だから仕方ない。

 貴族とは生まれながらに魔力が高いから貴族なのだ。

 だから転生することにした。


「カイン、貴様の『叡智』を俺に寄越さんか?」


「儂の書物でも読めばよかろう、お前さんにはそれだけの時間がある。それに今お前さんが儂の『叡智』を得たところで全ては理解できんよ」

「別に俺が貴様の『叡智』を得たところでどうこうせんさ。だがその『叡智』は平民の貴様の身体には不釣り合いであろうよ」

「来世にでも期待するわい。やっと儂のこの身体の寿命も尽きるころだしのう」

「やはり転生の術を得ていたか。だが、賭けではないか。また平民にでも生まれ変われば次は転生する魔力すら持たぬ個体に生まれ変わるかもしれぬし、お前の『叡智』も完全には引き継げぬかもしれぬ」

「身体については問題なかろう、大体の転生先は決めておるからのう。まあ、記憶については賭けさ。仕方なかろう?この身体では此処までしか来れんかった・・・」

「そうか、そこまで行きついていたか。だったら、カイン」

「?」

「俺が貴様の『叡智』だけでも『複製』して、『保存』しておいてやろうと思うのだ」

「確かにできるだろうな。しかし何のためにだね?お前さんに何の得も無かろう」

「俺が無駄に長く生きていることは知っているだろう?」

「お前さんは常にその体を『複製』しておるから寿命は無いようなものだしのう。だが無駄ということも無かろうよ」

「まあ、長く生きられたおかげで貴様に出会え、見えてきたものもあるが無駄と思うのも仕方なかろう。俺は貴様ほど楽しそうに有意義には生きてこられんかったからな、無意味に感じる時間もあるのさ」

「お前さん、勉強に関してはバカだったからな。学ぶこともなくなり怠惰だった頃のお前さんは懐かしいのう」

「貴様が先に行き過ぎていただけだ。俺がバカなわけではないとずっと言っているだろう」

「それで、儂の『叡智』を『保存』してどうするんじゃ?」

「貴様が転生したら取りに来い。これで貴様の転生は確実に成功するだろう?」

「また会いたいだけか。寂しがりめ」

「ははっ!いいではないか、生まれ変わってもまた変わらず友でいようというだけではないか。それに俺は貴様が何処の誰に生まれ変わったかは分からんしな。取りに来てもらわねば見つけられん」

「そういうことならまあ、よかろう。儂からすれば成功率が上がるだけで得はあっても損は無いからのう」

「では、いつ寿命が来てもいいように今すぐ『複製』しておこうではないか」

「まだ多少時間は残っておるぞ?」

「ならまた何度か『複製』すればよかろう。保険だホ・ケ・ン」

「心配性だのう」

「ははっ!」

 この数年後、儂は一度この世を去った。

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