第5部
第7章 見知らぬ力・見知らぬ時代
旅に出てから、1年2ヶ月が経過した。年間予算は、未だについていたので金銭的な事は一切考えずに済んだ。現在、AIはさまざまな感情を有するに至っていた。そして、AIの略称は、自然にルコーニアになっていた。
「なあ、ルコーニア」
「何?ネビス」
「こいつら、どこにいるんだ?」
「既に、ここに記載されているうち、20名中19名が死亡。残り一人は、第8銀河にいるそうだけど…それも嘘っぽいわね」
「はぁ、なんで俺、こんな旅に出ているんだろう…」
その時、誰かが声をかけた。そちらを振り返ると、知っている顔だった。
「あ、グリーブ・トルン。え?ちょっと待て、確か、お前さ、銀河革命時代、生きていたよな」
「ああ、そうだ。あの時代が一番若々しかった…華やかな、古きよき時代と言うべき時代だな」
「じゃあさ、その時、第4次宇宙統一軍革命期に、魔力を使えたといわれている人は、誰か憶えているか?」
「ああ、もちろんだ。彼とは今も連絡を取り合う仲だからな。これから、その人に会う事になっている。ついてくるか?」
「ああ、もちろんだ!」
ネビスは、偶然の幸運を手放しはしなかった。
一行がついたのは、第8銀河中央病院だった。そこの、老人保養施設に、その人がいると言う。
「名前は、デビス・クリプトンだな?」
「ああ、だが、彼、ここ最近気難しいから、気分がいい時はいいんだけど…」
彼らは病院の中に入り、受付をしてから、老人保養施設に入った。その時に、看護師の人が言った。
「あんなおじいさんにも、見舞い客が来るんですね。私、ここに来てからまだ日が浅いので、良く知らないんですが、あの人、何の人なんですか?この前は、連邦政府から、人がきましたし…」
「あの人は、自分の古い友人で、第4次宇宙統一軍革命期に魔法を使ったとても貴重な存在だ」
「そうだったんですか。そう言えば、あなた達、あの人に何の用なんですか?」
「古い友人として、久し振りに見に来た」
「自分は、とある人から手紙を渡すように言われていましてね。それを渡しに来たんです」
「なるほど、さあ、つきましたよ。ここからは、病院とは別組織になりますから、また受付が必要になります。では、ごゆっくりと…」
看護師の人はそのままどこかへふらりと立ち去った。
中は日当たりがよく、窓が大きく取られていた。外は、芝生で、そのまま直結しており、好きな時に外に出られるようになっていた。受付に行くと、名札を付けるように言われた。
「ここの人達、目はいいのに大抵耳は悪いの。時には、補聴器とか言う機械を耳の中に付けている人もいるけど、あんまりいないわね」
「ここの平均年齢は何歳だ?」
「そうねぇ…大体150歳後半ぐらいじゃないかな?時には、若い人も来るけど、それでも100歳超は普通だし」
「最高年齢者は?」
「あなた達がこれから会う人よ」
くすりと笑って、そのまま案内してもらった。
そこは、少し離れた建物だった。正6角形の建物で、窓にはレースのカーテンがかかっていた。ひとつしかないドアには、「厳重注意」という看板があった。
「なぜ、厳重注意なんですか?」
ネビスが聞くと、
「ここは、500歳以上専用の保養部屋なの。これからあなた達が会うのは、その中でも、最も高齢の人よ」
ドアを開けると、サロンのようになっていた。ここも、日当たりは良かったが窓は嵌め殺しになっており、開かないようになっていた。あちこちに空気清浄機があり、健康管理はばっちりのようだった。
「あの人よ」
案内をしてくれた人が指差したのは、うたた寝をしている一人の人だった。
「あの人が?」
「そうよ。現在世界最高齢者、デビス・クリプトンよ。ファイガン暦3092年4月2日生まれ。噂によると、第2次宇宙統一軍革命期以降に、最前線で、戦闘していたそうよ」
「なるほど」
彼らは、そのまま近づいていった。案内をしてくれた人は、その時点で帰っていった。そして、肩を叩くと、そのまま起き、こちらを向いた。
「おお、なつかしの友よ」
「お久しぶりです、隊長」
「え?隊長?」
ネビスが聞き返した。
「どうだ、こいつは、第3次、4次の宇宙統一軍革命の時、儂の部隊にいたんじゃ。確か…もう、700年も前じゃな。第3次は、いつの事じゃったかな?」
「大体、第4次の50年前です、ですから、約750年前」
「そうか…もうそんな昔の事になるか…」
「あ、そうそう、これを渡してくださいと託されていまして…」
ネビスは、かばんから、ゴルザレフから託された手紙をデビスに渡した。デビスは、その場で封を切り、そして、中身を読んだ。
「そうか…なるほど…ほほう………ネビスと申すものよ、おぬしも魔法が使えると言うのか?」
「ええ、偶然にも。しかし、どうやって発動したかが分からないんです」
「そうか、最初は誰でもそんなものじゃ。この手紙の内容が知りたいか?」
「ええ、ぜひとも」
ネビスは言った。そして、デビスは話しだした。
「この手紙を受け取った人へ。私は、スタディン神神殿の総管理者であるイワノフ・ゴルザレフです。実は、魔法が使えると言うあなたにお願いがあり、こうやって手紙を書きました。実は、スタディン神の宝玉から、強力な波動が発生しており、それについて、説明をしてもらいたいと思います。さらに、この手紙を届ける、ファイガン・ネビスと言う少年は、魔法が突発的に使えるようになりました。制御方法は我々は知りません。そこで、彼と一緒に来ていただけないでしょうか?なお、スタディン神神殿に来ていただけると幸いです。
P.S.ネビスが良ければ、弟子にさせてあげてください」
そして、手紙を丁寧に折りたたみ、再び封筒の中に入れた。
「さて、君はどうしたい?」
「弟子にさせていただけるのならば、喜んでさせていただきたいです」
「そうか…トルンはどう思う?」
「それは、隊長が考える事かと」
「そうか…じゃあ、昔話でもしながら行くことにしよう」
すぐさま、荷物がまとめられ、出発した。
「さて、困った」
「どうしたんですか?」
「儂、久し振りに外に出るから、足腰が弱っているらしい」
「荷物、持ちましょうか?」
「それはありがたい。では、よろしく頼むぞ」
ネビスは、デビスが持っていた荷物を持った。非常に重かった。
「何が入っているんですか?」
「保養施設から盗ってきた物じゃよ。まあ、シャンプーとか、リンスとか、トリートメントとか。それこそさまざまな物じゃ」
「昔も、こんな感じだったんですか?」
「ああ、そうだった。隊長は、第1銀河軍時代にも、いろいろな備品を盗っていた。そうか、今でも変わっていないんだな」
「変わらないものがある一方で、変わってしまう物もある。例えば、儂の体じゃ。昔は、機関銃片手に、無反動砲片手に、腰には手榴弾を付けて、惑星表面上で戦闘をしていたものじゃ」
「どんなところだったんですか?第2次、3次、4次の宇宙統一軍革命期は?」
ネビスは聞いた。二人は顔を見合わせて、話しながら歩き続けた。
「お前は、どれだけの事を知っている?」
「え?ファイガン暦3070年から72年にかけて、第3銀河団をひとつに統一した軍事政権が、こちらに攻めて来たと、それを撃退するために、さまざまな場所で戦争が発生したと、さらに、これを撃退するために、特殊な訓練を受けた20人が、当時、今もですが、解明されていなかった「特殊能力」を駆使して、敵を倒した。この革命は、第1次から第4次まであり、それぞれ、第1次が3070年から72年。第2次が、3120年から22年。第3次が、3170年から72年。第4次が、3220年から22年。そう憶えていますが…」
「なるほどなるほど、確かに合っているところもある。だが、間違えているところもある。さて、ここからは、儂らの話じゃよ。聞きたいか?」
「はい」
ネビスは答えた。それを聞いて、デビスは1回うなずいてから、話を続けた。
「それは、まだ、第1銀河系中央政府がセンタープラネットになかった時の事。世界は複数の銀河、といっても18の銀河しかないんだが、それらを統一しようとした野望を持った、一人の大統領が即位した。その大統領が引き起こした戦争、それが、第1次宇宙統一軍革命と呼ばれるものじゃな。その後、そこの第3銀河団は、不戦の誓いを立て、45年間の戦争放棄をしていた。しかし、周囲では、軍備が増強されていると言う情報を受け、再び軍備の道へ進んでいった。その後、周囲の危険が大きすぎるとして、第2次宇宙統一軍革命を起こした。儂が部隊長になったのはこの時だった。さらに、この時の革命から、第3銀河団宇宙統一軍という名称を使用。それから、第2次以降を宇宙統一軍革命を呼ぶ事になったんじゃ。さて、大統領は既に死んでいたが、その時に、その息子が大統領になっていた。その影響もあるだろう。最大勢力域が、第3銀河団、第4銀河団、第4銀河、第5銀河、第2銀河だったんじゃ。これほどの広大な領域を手中に収めると、最後は、残り二つの銀河系だけじゃな。この第2次革命期が最も危険じゃったんじゃな。神々も、まあ、もしも存在していたらの話なんだがな。神殿はあるが真実かは分からぬ。その時に、第1銀河、第3銀河の中の、今じゃったら、特殊部隊と呼ばれている、第1銀河367歩兵小隊、通称、魔法部隊、総勢20名、内魔法使用者10名、準魔法使用者10名が発足したんじゃな。ろくすっぽ訓練なんてさせずにさっさと戦線に派遣したんじゃ。しかし、それを以て、ようやく第2次革命期が終わりを告げる。それが、ファイガン暦3120年から2年後の事じゃ。さて、残りの第3次と第4次は、こちらと向こうの戦力が拮抗していた時代じゃ。その時にも、魔法部隊が組織されたんじゃな。同じ人、同じ場所で。それから、儂は、3222年に軍職を辞した。もう、戦争なんていう物はしたくなかったからじゃな。当時の宇宙連邦、今はばらばらになってしまっておるがな。そこが発表した最終公式数値は、当時の宇宙人口691億4283万人。死亡者50億人、負傷者38億人、延べ動員数590億人、延べ出征者300億人程度。費用合計4兆3000億。その後、銀河革命時代、ファイガン暦3322年、その時に、宇宙連邦は解体。そして、各銀河団同士や一つの銀河のみで共和国や連邦国を設置し、今に至っているんじゃな」
ネビス達は、近くにあったベンチに腰掛けた。
「さてと、ほかに聞きたい事はあるかね?」
ネビスは、いろいろを聞きたかったが、ひとつだけにしておいた。
「神は、いると思いますか?」
「神か?そうじゃな…いるといったらいるが、いないといったらいない存在。それが神だと儂は思っとるよ」
そして、デビスは立ち上がり、二人の方を振り向いて言った。
「さて、そのスタディン神の神殿とやらに向かうかね」
二人は、デビスについていった。
第8章 神
ファイガン暦3922年5月6日。ようやく、彼らは、スタディン神の神殿にたどり着いた。すぐに、案内人の人がこちらを見つけて、近づいてきた。ネビスは、事情を説明すると、すぐにとある場所に案内された。
そこは、神殿の最奥部、スタディン神の宝玉と伝えられている物が安置されているところだった。
「昨年よりは弱まりましたが、それでも、毎秒3億6000万立方メートルの、エネルギーが放出され続けております」
その時、誰かが入ってきた。
「その宝玉は、この惑星の核となっているらしい。下手に触ると、一瞬で吹っ飛ぶ」
その人は、扉に寄りかかりながらいった。
「あなたは誰ですか?」
「イワノフ・ゴルザレフ。ネビス君、君とは前に会っているはずだ」
「どこでですか?」
「前世だよ。君の前世は、私が生涯で唯一愛した女性、グリオール・ネビスだ。その人の名前に聞き憶えは?」
ネビスは確かにその人を知っていた。
「自分の母親です。確かに、自分が生まれると同時に、病院で死去しました。その後を追うように、父もまた…」
ネビスはうつむいた。しかし、泣かなかった。
「そうか、やはりね。さて、ひとつ、教えておこう。君には、お姉さんがいた事を知っているか?」
「ええ、孤児院で、書類を見ていましたから。しかし、自分の姉は、一昨年前、死亡しているはずですが?」
「それは、間違えて記載されているんだ。君のお姉さんは、まだ、生きている」
ネビスは顔をあげた。
「どこで生きているんですか?」
表面上では落ち着いているが、明らかに動揺しているようだった。
「第8銀河系にも、同じような神殿がある。同じような惑星紛争期、ファイガン暦3322年4月3日。この惑星が見つかる2日前の事だ。彼女が見つかったと言われている。彼女は、意味が分からない金属の箱に入れられ、良く分からない事を話していたそうだ。しかし、神の神殿で見つかった事、さらに、彼女が発見されてから、一気に紛争が解決したこと。それらを考えると、彼女は神ではなかったのか。そう言われるようになった。さて、他の神殿の総管理者会合があったから、ここのエネルギー異常のことを議題にあげた。すると、他の神殿でも、似たような事が起こっているらしい。さて、君達に来てもらったのは、これをしてもらうためだ」
一枚のカードをネビスに渡した。
「それを、君が持っているAIに入れてみたまえ」
ネビスは、内ポケットに入れていたAIの球体を取り出し、小さな差込口の所に入れた。その途端、AIが起動し、依頼について調べた。
「さて、今回の依頼は、依頼主、第1銀河団総合大統領、サビア・グリオル様からです。
「至急調査。これを受け取った時を起点とし、1年以内に、ネビスの姉を探して欲しい。以上だ」
容量は以上です。なお、これを初期化しますが、よろしいですか?」
「いや、やめてくれ。安全に取り出したい」
少し、考えてから、
「分かりました。では、初期化してから…」
「いや、初期化はもういいから」
すぐにカードは出てきた。そのカードを、再びゴルザレフに渡し、ため息をついて、見知らぬ姉を探しに行った。
「さてさて、どこを探せばいいかね」
結局、デビスとトルンは、デビスは元々無職だったが、トルンは職を辞しそのままネビスについてきた。
「まずは、第8銀河系へ行こう。それから、神殿に行けば何かわかるかも知れないな」
ネビスは、すぐに航宙機に乗った。
翌日、第1銀河団からでは航宙機は、特殊航行を始めた。それは、空間移動だった。
「これより、船内時間30分間、行動をおやめ下さい。これより、30分間、特殊航法を始めます」
機内放送が入った。ネビスは、この航法を知っていたので、平然としていたが、他の二人は、すこし落ち着かなかった。
「ネビス、特殊航法ってなんだ?」
ついに、デビスが聞いてきた。
「特殊航法というのは、3年前に開発されたばかりの航法です。確か…空間を捻じ曲げるように、特殊な物質をまきます。それ自体、非常に不安定なので、すぐに、分解します。しかし、その分解時に出されるエネルギー量は、空間を歪ませるぐらいの量、たとえて言うなら、惑星3つ分ぐらいを同時に破壊するぐらいの量を放出します。それほどあれば、一瞬、空間が歪みます。それを利用します。前々から作られていた、ワームホール航法では、現在の技術上、12万光年が限界です。しかし、銀河間の距離は、平均1000万光年あり、行き来は、ずいぶん前に作られた、古来から、空いてあるワームホールに頼るしかありませんでした。しかし、その方法では、いつ開くか、また、周囲のエネルギー量はどれだけか、さらには、行先の事も考えねばならず、非常に、厄介でした。さらに、銀河間にわたっているワームホールは、わずかしかなく、大量に移動となると、空間圧縮を利用した、船自体の圧縮をする必要がありました。いまでも、そちらの方が安全だと言う事で、している会社もあります。しかし、それをするとなると、2週間前から、圧縮をする必要があります。さらに、莫大な費用もかかるので、一般的ではありません。ですが、今回発明された航法を使えば、危険は伴いますが、非常に安く済み、さらに、非常に早く行けます。ですから、これからは、こちらの方が主流になるでしょう」
「事故とかは起こってないのか?」
「ええ、一回も」
「そうか、それなら安心だな」
そして、30分間の空間移動が始まった。
この30分間、強力な重力を感じていた。航行終了後、観測された重力が発表されていた。
「さっきの重力は、ファイガン比49.31Gだったって」
「それは、大きいのか小さいのか分からんな」
「比較的小さめだね。それより大きな重力を観測した時もあったし」
「どんだけだったんだ?」
「同じ航法で行った時、観測史上最大の重力は、538.21だったそうだが、それは、無人飛行機で、その残骸自体も回収されてないから、結局分からず仕舞いだって」
「ふーん」
ネビスは、横を見た。デビスが、気を失っていた。
「さて、AIを起動させても構わないよな」
「呼びましたか?」
「ああ、少し、小さめの声で頼む。これから、自分の姉を探して欲しい。名前は、サヴィナ・ネビスだ」
「了解しました。範囲はどうしましょうか?」
「第8銀河系全体、但し、神殿内部のみ詳細調査」
「了解しました…」
そして、AIが作業に入った事を確認して、ポケットの中にしまった。
「さて、少し寝ておくよ」
そして、毛布をもらい、ネビスは眠った。横では、トルンが、難しそうな本を読んでいた。ネビスは、後でその本について聞く事にして、航宙機のエンジン音を、バックミュージックとして、眠りについた。
次おきた時は、すでに、第8銀河系中央駅に着いていた。この中央駅には、正式な名前がまだついていなかった。それで、みんな、便宜上第8銀河中央駅というのであった。ここには、主用惑星系及び各銀河に向けて繋がる線が、783本繋がっていた。しかし、そのほかにも、近郊用線が310本、ここの周囲の開発中の惑星に向けての線路が、6本。全銀河間をつなぐ、超特急「ギャラクシー」号専用の線路が1本。計1000本が入っていた。その時、文字ニュースが流れていた。それは、サヴィナ・ネビスと言う女性が、大統領に選出され、宣誓式をしたと言う話だった。
「あれ?ここは、法体制自体が違うんだな」
「それよりも、このサヴィナ・ネビスって、自分の姉だよ」
「法体制云々よりも、ここは、宗教国家ですよ。なにせ、ここの国民全員が、アユ神を信奉していますからね。第8銀河の神で、良心を司ると言われているのが、アユ神です。元々は、この宇宙が出来る以前の宇宙空間で、我々と同じような、人間だったそうですよ。こんにちは。私は、第8銀河大統領親衛隊隊長の、フォッサ・ナグナです」
横から声が聞こえてきたと思うと、すぐに駅構内でも人気が比較的ない所、それでも、何十人と往来があったが、そこに連れ込まれた。3人まとめてである。
「さて、あなたの履歴、勝手ながらも調べさせていただきました。ここの大統領に選出された、サヴィナ・ネビスの実の弟であると、そう言う事ですね」
「はい」
ネビスが答えた。
「証拠は?」
「DNA鑑定でも、なんでもしてください。自分は、彼女の実の弟です」
そして、隊長は、何回かうなずいて、
「では、こちらへ」
と、3人を促した。
案内された場所は、暗く、湿っぽい通路だった。
「ここを通ります」
隊長は、何事も無いように歩いて行く。しかし、3人は、足元のぬかるみや、時々ある蜘蛛の巣に引っかかっていた。
「ぅわ、っとっと」
そして、それを通り抜けると、目の前に、真っ白に輝いている建物があった。
「これが、大統領府。この中に、彼女がいるわ」
「会えるんですか?」
「彼女がいいと言ったらね」
そして、中に案内された。
「大統領閣下、謁見を求める者達が来ておりますが、いかがなさいますか?」
大統領と呼ばれた、サヴィナ・ネビスは、ゆっくりと、窓の向こう側にやっていた視線をこちらに戻し、言った。
「誰だ?」
「貴方様の弟と言う一団です」
「名前は?」
「ファイガン・ネビス、グリーブ・トルン、デビス・クリプトン、それと、マスト・サンドラ・トリック・ディール・ルコーニアという名前の、AIです」
「…ここに通せ」
「了解しました」
謁見室の前の廊下で待たされていた、ネビス達は、中に入ると、大統領とであった。
「お前か、私の弟と言うのは」
「そうです」
「では、弟しか知り得ない情報を言ってみろ」
「………本当にいいんですか?」
「ああ、無論だ」
そして、決意を固めたように、言った。
「貴方は、孤児院で与えられた部屋のカーペットの、ちょうど、ドアの反対側の端っこに、その下の木の床をめくって、さらにその中に隠していた箱の中に、とある漫画を………」
サヴィナは、手を振り、それ以上言うのをやめさせた。
「間違いなく私の弟だ」
サヴィナは、ネビスに近づき、抱きしめた。
「良くぞ、会いに来た」
ネビスは、姉を強く抱きしめ返した。
「だって、自分の姉ちゃんだもの」
そして、それぞれの腕の力を緩め、顔を見た。
「孤児院では、死んだ事にされていたから、心配していたんだよ。本当に死んじゃったのかなって」
「そんな事はない。なにせ、私はこの通り、元気なんだからな」
「大統領閣下、閣議の時間でございます故、そろそろ、謁見を終了していただかないと…」
「そうか、では、手短に頼む、なぜ、私に会いに来た?」
ネビスは言った。
「第1銀河団総合大統領、サビア・グリオルよりの依頼で、貴方を探して欲しいと」
「それだけか」
「はい」
「分かった。では、彼に伝えといてくれ。私は、いま、第8銀河系の大統領をしている。サビア・グリオル殿自身、こちらに来ていただけないだろうか」
「書き込み終了、保存終了、全て正常に終了」
ルコーニアが言った。それをみて、サヴィアは驚いていた。
「なんだ、それは」
「宇宙で唯一の、発展型プログラムをされた人工知能です。自分は、ルコーニアと、旅をしているんです」
「目的は?」
「分かりません。ただ、分かっているのは、自分の、この旅の目的は、それぞれの神の神殿にあるのではないかと言う事です」
ネビスは、一礼してから、大統領府から去った。
ネビスは、ルコーニアを経由させて、サビアに連絡を入れた。通信を遮断した後、彼らは、第8銀河系の神殿へと足を運んだ。
第8銀河系の神殿は、良心の神である、アユ神であった。人々が善いと考える神だったので、人足は絶える事がほとんどなかった。ネビスは、その神殿の奥深く、最下層に存在する、謎のエネルギー発生装置についてみていた。
「ルコーニア、どうだ?」
「今まで見てきた物となんら変わらないわね。ただ一つ、違うといえるのは、エネルギーの質ね」
「エネルギーの質?どういう事だ?」
「単純な事よ。これは、神のエネルギーを、この世界に適応するように変換する装置なのよ。これを通して、世界中にエネルギーを渡すのね」
「でもさ、じゃあ、他の神殿にもこれと同じような物があるって言う事かい?」
「そう言う事よ。何せ、私達がこんな最深部に入る事自体、初めてなんだから。とにかく、ここのエネルギーは、通常の神のそのままではないと言う事」
「そういえば、一番最初にスタディン神の神殿に行った時には、こんな装置の代わりに、宝玉が一つおいてあるだけだったな。じゃあ、あれが、この装置の代わりだったと言うのか?」
「そう言う事ね。とにかく他の神殿も見て見ないと良く分からないけど…」
その時、誰かが入ってきた。
「やれやれ、やっぱりここにいたか」
「姉ちゃん!なんでここが分かったの?」
「当然だろ?私と会った時に、神の神殿がどうのいっていたからな。それを考えると、第8銀河系内にあるアユ神の神殿の総本山である、この神殿に来る事は必定。だから、閣議が終わるとすぐにここに来たんだよ。さて、ここで何がしたいんだ?」
ネビス達は、これまでの説明をした。
「………つまり、こういう事か?ネビスは、第10銀河系のサトミ神の憑依体だと言うのか?」
「そう言う事ね。第1銀河中央政府の情報によれば、こんな事例は、今までなかったらしいわよ」
「それはそうだろうな。儂らは、それを見ているがな」
「どういう事?」
ネビスがデビスに聞いた。
「そりゃ決まっとるだろうが。第2次以降の宇宙革命の時、儂が、魔法部隊の隊長じゃったからな」
「ああ、そう言えば、そんなこと言っていたような…」
「なんじゃ、もう忘れたんかい。まったく。ここ最近の若者は…」
何やらぶつぶつと文句を言っていた。
「話を元に戻すけど、他の神殿も見てみよう。そうすれば、何か分かるかもしれない。神々についても、この世界についても」
そして、ネビスは、このアユ神の神殿を後にし、大統領に見送られながら、3人で旅を続けた。