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親指ナイト  作者: 真中39
◇1章:語り部は1人
5/67

エピローグ.エゴ天使と永遠妖精

 

 ☆



 シータ・シーカーシニアは木に縛られたまま、しばらく項垂れていた。さわさわと木々が揺れ、シータの心中とは裏腹に、穏やかに時は過ぎていく。

 こんな領土の端に、そう簡単に旅人が通りかかるわけがない。このまま馬鹿みたいに待つ選択など、シータには考えられない。


「シータ、やられたねえ」


 ややあって、鈴の鳴るような声がシータをおちょくった。

 シータは憮然とした表情で、うるさい、と言い返す。


「八つ当たりしないでよ。最初から最後までキミの負けだよ。あの子何にも考えてなさそうなのに、ちゃんとシータのこと覚えてたんだね」


 そう言いながら、シータの外套の首元から、小さな小さな少女が飛び出した。背丈は、およそ親指と同じ大きさであり、その背中には半透明なつるりとした羽が二対、備わっていた。


「これからどうするのさ?」


 少女は羽をパタパタとさせ、緑色のワンピースを揺らしながら浮かび上がった。項垂れたままのシータの肩の上に腰かける。


「あの話が本当なら、キミはもう、そりゃあ無駄なことをしていたことになるけど」

「うるさい」

「……うーん、へこんでるねえ」


 華奢な足を組みながら、可愛らしい少女は頬杖をついた。その視線は、シータを面白がって見つめることはあれど、失望は決してしないことを、シータは思い出した。

 ゆっくりと顔を上げるシータの目に、光が宿る。


「まずは、シナンに戻る。宰相スバルの情報を確認する。多分、あいつの話は正しいような気がするけど」

「うん」

「そして……あの女を追う」

「なんで?」


 シータは言い淀む。不可思議な感情に名前をつけられるような心の余裕はまだ、ない。

 なので。


「復讐してやるんだ……俺の力をいいように使い、強引に従わせ、俺のプライドを踏みにじった!」


 エゴでしかないその理由を、少女はクスクスと笑った。


「良いね! とっても単純だ。ボクはそういうのが大好きだよ」


 シータは横目に頷いた。長い付き合いで、この少女がシータのこういうところを気に入っていると知っている。


「手伝え、ベリィ」

「もちろんだよ」


 ベリィと呼ばれた少女は、少年のように悪戯っぽく微笑んだ。


「それに、ボクも興味があるんだよ。……あのフチって騎士に」

「俺もベリィ以外に初めて見た、あんな小さな人間……いや、人間なのかも分からないけどさ」

「うふふ。とってもセクシーじゃない?」


 シータは眉間に皺を寄せる。全く共感できなかったからだ。でも大概はシータにしか興味の湧かないこの相棒が、珍しくフチという男には興味を寄せている。何故だろう。

 とりあえずまあ、それは後にして、ここから抜け出さなければならない。

 シータは身体を捩らせ、地面に足裏をくっつけた。


「どうするのさ?」

「飛んで沈んで木肌にゴシゴシやったら縄も切れるだろ」

「キミって本当賢いね」

「他にやり方ないだろ!」


 ベリィはややあってから「確かに」とにやにやして、シータはしかめっ面をした。



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