ちびっ子賢者出動の巻
おかあさん、そんなに驚かないでください。大丈夫です。おちついてください。
まず何があったんですか、そんなに驚いた声を上げて。
ああ、なるほど。そうですね、いや、大丈夫です、現場を見ればすぐにわかります。
台所に置いてあったケーキがなくなっていた。今日のおやつにしようと思っていたのに。
え? 何故それがわかったかって? だって、見ればすぐにわかるじゃないですか。
ケーキの箱には、お父さんとお母さん、それとぼくの分が入っていた跡があります。生クリームのケーキが一つなくなり、あとはもう一つの生クリームのショートケーキが一つ、それと甘いものが苦手なお父さん用にもんぶらんが一つ。
朝にはなかったから、きっとお母さんがさっき買ってきたのでしょう。ぼくがようちえんにいっているあいだに。今日はお父さんがはやびき……はやびけ……? とにかく、早く帰ってくるっていってましたもんね。
それにしても、おいしいケーキをひとつ食べてしまうなんて、はんにんはなんてひどい人なんでしょう。ゆるせませんね。
でもご安心くださいおかあさん。この犯人は、ぼくがきっちりとみつけてさし上げましょう。
まずはげんばけんしょうですね。ドラマでよく見ます。
ふむ、窓に鍵はかかっていますね。玄関からきっとはんにんは入ってきたのでしょう。
ケーキがのせかえられた小皿はそのままで、使っているフォークもそのままです。水道に手が届かなかったのでしょうか。
あっと、大発見です。イチゴをはんにんは床におとしています。ティッシュでがんばってふきましたけれど、クリームがまだ残っていますごめんなさい。
はんにんがわかりましたかって?
おかあさん、そんなにこわいかおをしないでください。だいじょうぶです、いまからきちんとはんにんを明らかにしてみせましょう。
はんにんは、玄関から入ってきて、まず手をあらいました。そのために引き出された台がそのまま洗面所にのこっています。
それから台所に入ってきて、お母さんがけいじさんのドラマに見入っているさいちゅうに、こっそりとケーキの箱を開けて、美味しいケーキを食べてしまったのでしょう。
もう明白ですね。
玄関から入ってきて、洗面所で台を使って手をあらう人物。
それはこの家には一人しかいません。
犯人はぼくです。へへ。
ごめんなさい。おやつ抜きはやめてください。