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憲法クン  作者: とみた伊那
7/9

自民党憲法改正案が通過した2025年の近未来   7.個人と人   

深夜、日付が変わる頃に料亭から黒井部長が出てきた。ツガ官房長官の姿は無い。少し前に黒塗りのベンツが料亭の前に止まったので、おそらくそれで帰ったのだろう。

黒井部長は機嫌が良さそうだった。

「遅くなって大変だが、私の家まで頼む


ケンは運転している間、ずっとさっきの車の中の会話、憲法9条の3 のことが頭から離れなかった。何も言うな、石になれと言われたけれど、黒井部長の家の前で止まった時、勇気を出して一言だけ聞いてみた。

「あの、僕たちがやっている事は良いことなのでしょうか」

黒井部長は酔ったように見えていたが、急に真面目な顔に変わった。

「言っただろう。余計なことは考えず、ただ石になっていれば良いのだと。良いか悪いかは”上”の人間が考えればいい。おまえ達は、ただ決まったことにしたがえばいいんだ。憲法にしても、昔は個人をやたら尊重していた。でも今の憲法では、ただ人であればいいんだ。それが会社として決まったことなのだから、それに従うことが大切なのだ。一人ひとりがそれぞれ考える必要は無い。心配するな。ここまで来たらお前と家族が暮らしていかれる分だけの給料は面倒みる」

そしてケンの肩をポンと叩いた。

「オレだって好きでこんな仕事をしている訳じゃない。これも会社のためだ。お前、今日は遅くまで働いて疲れたのだろう。明日一日はゆっくり休んでいい」


黒井部長を自宅まで送ったケンは、その車を会社の駐車場に入れた。そして家に帰る電車には乗らず、深夜の道をフラフラと歩き続けた。

「僕は今までいろいろ考えすぎていたのだろうか。単に言われたことに従えば良いのだろうか。僕はただ単にメリーと子供を守りたい。そのために頑張ってきた。辛い仕事も続けてきた。でもそれによって無実の関係ない人を犯罪者にしてしまった。そして僕と同じように家族と日本人を守ろうとして国防軍に入ってくれた人を、遠い外国の戦場、多分ISに送ることになるかもしれない。僕がやっていることは、本当にメリーと子供を守っているのだろうか。いや、僕がやらなかったら他の誰かがやっていただろう。僕はただ単に会社をクビになって生活に困るだけだ。誰かがやることならば、それを僕がやって何が悪い。では僕が個人として考えるということは何なんだろう。人であることと、個人であることの違いは何だろう。

僕は本当は何をやりたいのか。少なくとも罪の無い人を犯罪者にして、そのままでいるのはイヤだ。料亭での密談だけで軍隊の派遣が決まってしまうのはイヤだ。僕が組織でなく、一人の個人として思う通りに生きてはいけないのか」


新憲法第十三条 全て国民は、人として尊重される。


参考

旧憲法第十三条 すべて国民は、個人として尊重される。


参考

旧憲法第九十七条 この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年における自由獲得の努力の成果であって、これらの権利は、過去幾多の試練に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。

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