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憲法クン  作者: とみた伊那
5/9

自民党憲法改正案が通過した2025年の近未来   5.カメラ

ケンは上司に言われたとおり、混雑している電車に乗った。そして

「あいつだ」

言われた中年のメガネをかけた小太りの男に近づいた。そしてあらかじめ渡されたカメラをそっとその男のポケットに忍ばせた。それからすぐに男の側を離れ、人混みに紛れて電車を降りた。

「よくやった。今日はこれで帰っていい。君もこれでわが社の重要な社員だ。給料も少し上げよう。これからもいろいろ頼みごとをするから頑張って欲しい」


ケンはクビにならなかったのがうれしくて、その日は珍しく早く家に帰った。

「お帰りなさい、ケン。今日は早かったのね。今日は皇居でクーデターがあったのよ」

メリーも久しぶりにケンと一緒の夕食で楽しそうだ。テレビでは7時のニュースが流れている。クーデターのニュースは5分で終わった。

「次のニュースです。有名大学のY教授が本日、電車の中でカメラを使い女子高生のスカートの中を撮影していたという疑いで現行犯逮捕されました。Y教授は事実を否定していますが、近くには目撃者が複数いてカメラには撮影したとみられる写真が写っていました、大学はY教授を懲戒免職にするとのことです」

ケンは思わず箸を止めて、テレビを見た。そこにはメガネをかけた見覚えのある中年の男の顔が写っていた。

「なおY教授ですが、原子力発電所の安全性について疑問を投げかけていました」

「ケン、どうしたの。顔色が悪いけれど」

「何でも無い。ちょっと疲れたのかもしれない。もう寝る」


翌朝、ケンはメリーに起こされた。

「ケン、もう朝よ。会社に遅れてしまうわ。起きるのが辛そうね。具合が悪そうだから、今日は会社を休む? 」

ケンはだるそうに身体を起こした。

「休んだら会社をクビになってしまう。大丈夫だよ。ちょっと疲れただけだから。朝ご飯はいらない。支度をしたらすぐに出かける。まだ残っている仕事があるんだ」

ネクタイを結びながらケンは小さい声でぼそっとつぶやいた。

「ねえメリー、家計が大変だから車も旅行も外食もいらない。お弁当も持っていく。だからお弁当のウィンナーをあと1本だけ増やしてもらえないかな」

「わかった、そうする」

メリーは最近とても疲れたようにみえるケンが心配になった。自分のお弁当は毎日おにぎりなので、中に何も入れなくても他の人に気付かれないでしょう。自分が具の無いおにぎりを持っていけば良いと思った。


ケンの出勤に間に合うよう、急いでいつもの特売のウィンナーの袋を開けた。すると今まで一袋に6本入っていたウィンナーが5本しか入っていない。値段は同じでも一袋の量が少なくなったのだ。

メリーはしばらく考えた。

自分の分のウィンナーはいらない。

でも子供のウィンナーを2本から1本に減らすのも可哀そうだ。

これからスーパーに買い物に行ったら、間に合わない。

メリーはケンにお弁当を渡しながら言った。

「ごめんなさい。今日は間に合わなくてウィンナーは3本のままなの。明日から1本増やすから、今日は我慢してちょうだい」

「分かった」

その日、ケンは口数少なく家を出ていった。

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