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憲法クン  作者: とみた伊那
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自民党憲法改正案が通過した2025年の近未来   3.ケンとメリー

「さて、今日のブログは何について書こう」

アフォリエイトとしてそれなりの収入を得るためには、とにかく毎日更新することが大切である。優香がネタに困っていると、メリーからのLINEが届いた。メリーは東京に住んでいた時の隣のマンションに住んでいたご近所さん。歳は多少違うが、二人とも子供がいるので気が合っていた。

“そっちの生活はどう”

“なんとかやってる。そっちはどう”

“こっちも変わりないわ。でもケンの仕事は大変みたい”

返信して、優香はそのメリー夫婦についてのブログを書くことにした。


ケンとメリーとは。

2020年、東京オリンピックの年に本田ケンとメリーは結婚した。本当は2年前の2018年に結婚する予定だった。ところがちょうどその時憲法が改正になり、新しい憲法が施行された。

「ケンとの結婚は絶対に許さない」

メリーは父から反対されて、結婚できなくなってしまった。以前の憲法だと

『憲法24条 婚姻は両性の合意のみに基づいて成立し』となっていたが、新しい憲法では”のみ”が削除され『憲法24条の2 婚姻は両性の合意に基づいて成立し』となった。そのため両性の合意に加えて両親、特に父親の許しが無いと結婚できなくなったからだ。

その反対していたメリーの父が、一か月前に交通事故で突然亡くなった。父が亡くなったのは悲しいことだが、メリーは反対していた父がいなくなったため、ケンと結婚できるようになった。


優香は人物が特定できないように、ブログにはウェディングケーキの写真を載せ、説明文を付けた。

”親からは反対されていたけれど、今は幸せに暮らしている私の大切な友達です”


新憲法第二十四条2 婚姻は、両性の合意に基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。 


参考

旧憲法第二十四条 婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。



そのケンとメリーの話。

結婚式の日、ケンはメリーに話しかけた。

「メリー、君と一緒に暮らすことができて嬉しいよ。結婚したら車が欲しいな。休日に二人でドライブしたりできるし」

「素敵ね、ケン。でもその前に、正社員の仕事を探しましょう。今まで父に結婚を反対されていたのも、ケンも私も非正規だからだわ。今でもそのことで将来が心配だわ」

「分かった。正社員になれるように頑張るよ。やっぱり君はしっかりしているね」


それからケンは一生懸命仕事を探した。今は非正規の求人がほとんどなので、正社員の仕事はなかなか見つからない。ケンは仕事の種類を選ばず、広く正社員で雇ってくれる会社を探し続けた。そしてついに正社員で雇ってくれる『エチゴ商事』という会社に就職することができた。やっと正社員になれたのだから、これで安定した生活を送れるに違いない。喜んだのは束の間、そこはいわゆるブラック企業だった。定時で帰宅できたのは最初の日だけ。それからは毎日夜中まで残業、休みの日もほとんど出勤しなければならなかった。


それから半年後。

「メリー、なかなか休みがもらえない。でも今度の正月にやっと3日間休みがもらえることになった。車はいらないから一緒に一泊で旅行に行こうか」

「結婚してからずっと旅行に行っていないから行きたいわ。でも私、子供ができたの。子供ができるのはうれしいけれど、保育園に入れないから私が仕事を辞めて子育てをしなくちゃならないわ。旅行に行きたいけれど、少しでも節約しないと」

「子供ができたのか。なんて嬉しいんだ。頑張って僕が二人分働くよ。暖かくて楽しい家庭を作ろう」


ケンはさらに頑張って働いた。エチゴ商事では残業や休日出勤が多く仕事が大変なため、一緒に入社した周りの人はどんどん辞めていった。しかしケンはメリーと子供のために、辛い仕事でも頑張って働き続けている。


数年経って二人の子供は5歳になった。やっと子供の預け先も決まり、家計を助けるため、メリーもパートで働き始めた。

「メリー、子供も無事に育って君のおかげだよ。旅行は無理だけれど、たまには子供を預けて二人で食事にでも行かないか」

「二人で食事に行くなんて、もう何年行っていないかしら。行きたいわ。でもこのニュースを見て。あなたの会社が賃金15パーセントカットですって。今でもやりくりが大変なのに。今月、家計が大変なの。ごめんなさい。あなたのおこずかいを少し減らしてもいいかしら。代わりに私がお弁当を作るから」

「君は料理がうまいから、君の作るお弁当なら喜んで持っていくよ。それで少しでも家計の助けになるなら」


メリーはそれから30分早起きして、お弁当を作るようになった。毎朝、パートの前に台所に立ってお弁当を3つ作る。スーパーで買った特売のウィンナーの袋を開けると、ウィンナーが6本入っている。そのうち3本をケンのお弁当に、2本を子供の保育園のお弁当に、そして残りの1本を細かく切っておにぎりの具としてパートに持っていく自分の弁当として包んだ。


ケンの仕事はますます忙しくなっていった。ケンの会社では業績を上げるため、すでに従業員の半分がリストラされていなくなった。幸いケンは仕事熱心なので、まだ会社に残ることができている。その代わりに仕事は増えるばかり。どんなに遅くまで働いても残業手当が付かない。


そしてある日、ケンは会社の上司である黒井部長から呼び出しを受けた。

「君は他の社員より能力が劣る。君のような社員を雇っていたら会社が潰れてしまう。今後の身の振り方を考えて欲しい」

ケンはあわてて黒井部長に頼んだ。

「待ってください。僕にはまだ小さい子供がいます。会社をクビになったら親子三人生きていかれません。どんな仕事でもするので、この会社で働かせてください」

黒井部長はしばらく間をおいて、小さい声で言った。

「どんな事でもすると言ったね。では、君に頼みたい仕事がある。そんなに難しい仕事じゃない。もっと近くへ来てもらえんか」


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